脚本家の倉本聰さんが原作と脚本を担当し、俳優の本木雅弘さんが主演を務める映画「海の沈黙」(若松節朗監督)が、今年11月22日に全国公開されることが明らかになった。本木さんは、人々の前から姿を消した孤高の天才画家・津山竜次を演じる。
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「海の沈黙」は、「前略おふくろ様」「北の国から」「やすらぎの郷」などの名作を手がけてきた倉本さんが、実際に起きた陶器の贋作事件などをモチーフに、長年にわたって構想を練り、「どうしても書いておきたかった」という作品。倉本さんが手がける映画としては、「海へ〜See you〜」(1988年、高倉健さん主演)以来、36年ぶりとなる。
小泉今日子さん、中井貴一さん、石坂浩二さん、仲村トオルさん、清水美砂さん、菅野恵さん、萩原聖人さん、村田雄浩さん、佐野史郎さん、田中健さん、三船美佳さん、津嘉山正種さんも出演する。
世界的な画家、田村修三(石坂さん)の展覧会で大事件が起きた。展示作品の一つが贋作だと分かったのだ。この絵を描いたのは一体、誰なのか? 連日、報道が加熱する中、北海道小樽市内で女性の死体が発見される。この二つの事件の間に浮かび上がった男。それは、かつて新進気鋭の天才画家と呼ばれるも、ある事件を機に人々の前から姿を消した津山竜次(本木さん)だった。かつての竜次の恋人で、現在は田村の妻・安奈(小泉さん)は小樽へ向かう。
もう会うことはないと思っていた竜次と再会する安奈、竜次に長年仕える謎のフィクサー、スイケン(中井さん)、贋作事件を追う美術鑑定の権威、清家 (仲村さん)、全身刺青の女性、牡丹(清水さん)、竜次を慕うバーテンダーのアザミ(菅野さん)……。それぞれのドラマが、“真の美”を求め続ける竜次の思いと交錯していく。
原作・脚本の倉本さん、若松監督、本木さんらキャストのコメント全文は以下の通り。
60年前から抱えこんできた僕にとっての大きなテーマがある。美術品の贋作というテーマである。美術作品の価値というものは社会的権威によって保証される。だがその価値基準はもともと極めて主観的なものである。だから世の中には贋作が絶えない。過去に日本にもそういう事件があった。重要文化財として認定されていた一つの美術品が贋作と判明し国の指定から外されたのである。美とは何なのか。権威とは何なのか。これは、そうした矛盾に立ち向かった一人の天才画家の悲劇である。
老いてなお創作に情熱を燃やす脚本家、倉本聰さんの今回のテーマは「美とは何か?」。この映画化にあたり僕にとって、いつにも増して大きなチャレンジとなりました。幸い本木雅弘、小泉今日子、中井貴一はじめ多くの芸達者な俳優陣が結集し見応えのある映画になったと自負しています。この作品は制作側から観客の皆さんへの問いでもあります。「美とは何か?」皆さんそれぞれの美を見つけていただきたいと思います。
初の倉本作品にして、黙する孤高の画家という難役にもがき苦しみましたが、40年来の同志である小泉さんとの共演にはリアルな感慨もあり、熟練の若松監督と中井さんの支えによって、不思議なアンサンブルが生まれました。見る者を突いてくる美への教訓、追憶という哀(かな)しいぬくもり、倉本先生が語る世界の奥深さを皆さまと共有できればうれしく思います。
美とはなにか。本物とはなにか。倉本聰さんが今、私たちに投げかけたテーマに姿勢を正されるような思いだった。その矜持(きょうじ)を私はきちんと受け取り、そして演じることができたのか今は自信がない。けれど、成熟した大人の映画が、この日本に誕生したことを心から祝福したい気持ちです。
倉本作品に呼んでいただく時、いつも思うのです。私の本質を全て知られ、見透かされ、キャスティングされていると。というわけで、今回は謎多きフィクサーと相成りました。作品のテーマは、美。美ほど、観念的なものはない。でも、人はそれにランクをつけ、金銭という数字をつける。資本主義経済の観点からすれば、至極当たり前のことなのかもしれないが……美とは、美の価値とは、何なのか……今回の映画は、それをじっくり考えさせられる。
“今”は無意味なものが情報として拡散し、メディアもまた、右往左往、なにより金がすべてと思い込まされ、否応なく人々は区別されていく、それが“今”です。本当に美しい、本物の自分らしさを求めていた人間も、やがて生きている、生きていかなければならない“今”にのみこまれ、その“今”は昔からの自然の流れを思えて安心してしまう。私が演じるのは“今”だと思うのです。“今”は未来を思いやることはできるのか? “今”が未来に重なるときはないのでしょうか。
僕はめったに断言しないのですが「脚本は倉本聰さん、監督は若松節朗さん、これを断る人はいないよ」と、家族に宣言して、いそいそと撮影現場に向かいました。この作品に参加できたこと、数十年ぶりに小泉今日子さん、石坂浩二さん、中井貴一さんと同じ現場に立てたことはとてもうれしく、誇らしく感じました。
私は純粋に倉本聰作品のファンとして倉本先生の新しい作品を大スクリーンで見られる喜びに心が躍っています。今でも自分が先生が描いた一人の女性を演じたなんて信じられな
いくらいです。“牡丹”と云う名前のごとく咲いた花のまま朽ち落ちる悲しい女性。愛を込めて演じました。
美しさとは何か。世間の評価によらず、美しいものをただ美しいと見つめることはどうしてこんなに難しいのでしょうか。恩師・倉本先生が長年温めてきた作品に携われたこと、素晴らしいキャストの皆様・スタッフの皆様とご一緒できたことに感謝しつつ、一人でも多くの方に届きますように!と心から願うばかりです。ぜひ劇場で、この作品の美しさをご堪能ください。
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