薬屋のひとりごと
第13話 外廷勤務
12月27日(金)放送分
人気演劇「TRUMPシリーズ」の完全新作テレビアニメ「デリコズ・ナーサリー」が8月にTOKYO MXほかで放送をスタートした。「TRUMPシリーズ」は、劇作家の末満健一さんによるオリジナル演劇で、2009年に第1作「TRUMP」が上演され、吸血種と人間種が共生しながらも反目する社会で、伝説の吸血種“TRUMP”の不死伝説に翻弄(ほんろう)されていく人々の血と命を巡る1万年以上にも及ぶ物語が描かれてきた。「デリコズ・ナーサリー」では、ダリ・デリコ、ゲルハルト・フラ、エンリケ・ロルカ、ディーノ・クラシコという4人の吸血種の貴族が“子育て”と“任務”を両立させようと奮闘する。ダリ・デリコ役の森田成一さん、ゲルハルト・フラ役の小西克幸さん、エンリケ・ロルカ役の下野紘さん、ディーノ・クラシコ役の佐藤拓也さんと4人の貴族を演じる豪華声優陣の熱演も話題になっている。下野さん、佐藤さんに収録の裏側について聞いた。
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佐藤さん 「デリコズ・ナーサリー」のストーリー、世界観は、吸血種、事件、子育てと、一見共通点が見いだせない不思議なお話という印象がありました。ただ、メインのキャラクター設定とその演者さんのお名前を見た時に「これはとても面白そうだ」という気持ちが大きくなりました。
下野さん 最初にビジュアルを見せていただいた時は、ゴシックでスタイリッシュな雰囲気の作品なのかなと思ったのですが、台本を見てみると、「あれ、僕が思っていたのと違うな」と。僕も戸惑いはありましたけど、今までにはない形の作品だなと感じました。キャラクターが事件の真相を追うような作品で、その中で子供との触れ合いを描くことはあったかもしれないけど、まさかその二つを一緒くたにするなんて、という。面白いなと思いました。
佐藤さん これまで長く愛されてきた「TRUMPシリーズ」をご覧になられてきた方々にも、新しいキャラクターとして、長い歴史の中の一瞬に「こういう人たちがいたのだ」と初めて認識してもらえる人物を演じることができるという意味では、すごく光栄でした。収録前に資料として、「TRUMPシリーズ」の用語や年表をまとめたものをいただいたのですが、あまりにも長く壮大で、これを補完して収録に臨むのはちょっと現実的ではないなと。初めて「TRUMPシリーズ」に登場する人物であればこそ、乱暴な言い方かもしれませんが、何も知らないまま臨めたというのは、素直な表現ができるという意味では良かったのかなと思っています。
下野さん そうですね。1万年以上の歴史が描かれている作品なので。
佐藤さん 収録が終わって、共演者の皆さんとお話しして、年表を見直した時に改めて「うちの子は、この年表のどこにいるんだ」みたいな。妙な親心が生まれました(笑い)。
下野さん エンリケは、4人の中で一番貴族っぽくないというか。フランクな性格で、二人の娘に対しても積極的に世話をしているわけではないけれど、関係性はそんなに悪くないのかなと。ただ、彼には彼なりに考えていることがあって、ただ単に良いパパというわけでもなさそうな雰囲気がある。フランクで人当たりがいいように見えて、違った一面も持っているのかなと。
佐藤さん ディーノに関しては、第1話の収録でスタッフサイドに「空気を読まないでください」「人の話を聞いているようで聞いてないが、自分の思ったことは言うずうずうしさを持っていてほしい」と言われたんです。ゲルハルトは「貴族としてこうあるべき」というものがある人ですが、ディーノも融通が効かずにカタブツで保守的な人で、貴族である自分のプライドがあるけど、人としての温かさや他人の感情みたいなものには無頓着で。故に今までいろいろな奥さんに逃げられ続けてきたので、「誰も自分についてこられないのだから」という達観の仕方は、頑固もそこまでいけば大したものだなと第三者的には思いました。
佐藤さん 自分の仕事をちゃんとやらなくていけないと思うあまり、息子と向き合えていないし、愛情も足りていない。でも自分では向き合えているつもりといういびつな感じがディーノたらしめているのかなと感じています。そんな彼の玉に瑕(きず)みたいなものを「しょうがないな」と、愛(め)でながら演じています。
下野さん ディーノの息子は、もう完全にグレてますよね(笑い)。このナーサリーにおいて、一番良くないケース。このまま父親との関係値が変わらないんだったら、人格崩壊しますよ。
佐藤さん それなのに、ディーノは「うちの子は静かで手がかからない」と思っているんですから。
下野さん かわいそうだよ。お父さん、そこわかってあげてよ。
佐藤さん いやいや、分かっているつもりなんですよ(笑い)。
佐藤さん 収録は父親チームと子供チームに分かれて行われることが多かったので、一番難しかったのは、子供の演者さんと一緒に収録できなかったことですね。台本上の子供たちしか知らない状況だったので。
下野さん 僕は、自分の娘たち以外の子たちとも収録できたんです。すごかったですよ。元気な子供たちがずーっとしゃべっていましたから。
佐藤さん それを見られずに収録しているものですから、寂しいな、残念だなと演者としては思いつつも、どこか「うちの息子はこうだろう」「こうであるはず」と自分勝手なイメージを持ったまま、実情を知らないままディーノを演じられたのは、逆に良かったのかなとも感じているんです。
下野さん それは、そうかもしれないね。一緒に収録していたら、どうしても、子供がどう考えているのか知らなきゃいけないけど、ディーノはそういうことを“知らないお父さん”だからね。もしかすると、あえて別々に収録したんじゃない?
佐藤さん そこまで考えていたら怖いですね(笑い)。
下野さん エンリケは表向きは良いお父さんなので、ほかのダメなお父さん3人が事件の話をしている中で、子供たちと遊んでいたりする。とにかく娘たちがかしましいので、子供たちの勢いを収録で見せてもらって、これに若干圧倒されるような形で演じればいいんだろうなと。そういう意味では、やりやすかった部分はあります。
下野さん とにかく同じシーンを何回も収録しましたね。毎回ではなかったのですが、アプローチを変えて何回もやるというのは、キャスト全員が経験したことだと思います。「このシーンは、こういう言い方にしたらこの後どうなるんだろう」みたいな、実験的な要素も含まれているのかなと。そこは舞台的な要素なのかなと思います。
佐藤さん 演じる側とスタッフ側で見ている景色は同じだと思うのですが、「ここに赤を足したらどうなのかな? 黒を入れたらどうなるんだろう?」とトライ&エラーを繰り返すというか。そこはある種、舞台げいこに似通っているのかもしれません。どうしても1クールの作品だと、「もっとこうしてみたら、どうだったんだろう?」というものは後々生まれてくるものだと思うのですが、今回は「いろいろやったな、試してもらったな」と思えて、すごく丁寧に録(と)っていただきました。
下野さん 僕の場合は、「いろいろなことを試したい」という意向を収録の終盤になって初めて聞いたんです。だから、リテークが多いと、やはり「これは何がダメだったんだろう」「これもだめか?」「どうしたらいいんだろう」という戸惑いが正直ありました。後々になって「試したかったんですよ」と言われて「早く言ってくださいよ」と。緊張感と困惑のある収録でした。
佐藤さん ディーノは、面倒臭いやつなんですよ。そんな自分を完璧だと思っている面倒くさい男が、今回このナーサリーに巻き込まれたことで、どう成長させられるのか、ご注目いただければいいのかなと思っております。
下野さん 吸血種もので、連続殺人事件が起こるという壮大な話と、子育てを同時に扱うという斬新な設定の作品で、最終的にどんな展開になっていくのか全く見えない、というのが魅力でもあるのかなと思います。エンリケは4人の中のバランサーのような雰囲気があるんですけど、彼自身、実はそんなに大人っぽくないからこそ、あのフランクさにつながっているところもあって。そんな彼がどうやって成長していくのか、ご覧いただきたいです。
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