ダンダダン:作者・龍幸伸に聞く誕生秘話 根底に流れる希望 リアリティーにこだわり テレビアニメ化も話題の「ジャンプ+」人気作

「ダンダダン」のコミックス第1巻のカバー(C)龍幸伸/集英社
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「ダンダダン」のコミックス第1巻のカバー(C)龍幸伸/集英社

 集英社のマンガ誌アプリ「少年ジャンプ+(プラス)」で連載中の人気マンガが原作のテレビアニメ「ダンダダン」が、MBS・TBS系の深夜アニメ枠「スーパーアニメイズムTURBO」で10月3日から放送される。龍幸伸さんによるマンガで、2021年4月に連載を開始するやいなや話題となり、「少年ジャンプ+」の総閲覧数は4億4000万を超えるなど人気を集めている。オカルト、青春、ラブコメ、バトルと多くの要素が盛り込まれながらも、そのどれもが際立つ、異色の“オカルティック青春物語”で、妖怪、宇宙人といった怪異たちの背景、過去も描かれ、じんわりと心が温かくなり、希望をもらえるような読後感もある。さまざまな魅力を持つ「ダンダダン」はどのようにして生まれたのか。作者の龍さんに聞いた。

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 ◇化け物を悪者しない 読む人に希望を

 「ダンダダン」は、宇宙人を信じない少女・モモ(綾瀬桃)と、幽霊を信じないオカルトマニアの少年・オカルン(高倉健)が圧倒的怪奇に出会う……というストーリー。心霊スポットのトンネルで妖怪ターボババアに遭遇したオカルンは、呪いによる力で変身できる体になり、霊媒師の家系のモモは、セルポ星人に襲われたことをきっかけに秘められた超能力が目覚める。二人は、特殊な力を発動させ、次々と現れる怪異に立ち向かうことになる。

 “化け物に化け物をぶつける”という発想は、ホラー映画「貞子vs伽椰子」から着想を得たという。同作は、映画「リング」シリーズと「呪怨」シリーズのクロスオーバー作品で、異なる呪いにかかった少女たちの呪いを解くため、霊媒師が呪いの元凶である「リング」の貞子と「呪怨」の伽椰子を戦わせるという秘策に出る。

 「1行でその作品を表すログラインを大量に書き留めていた時期があって、いざマンガを描くとなった時に、『貞子vs伽椰子』のログラインを見つけて、“化け物には化け物ぶつける”というのが、すごく面白いな、これで作ってみようと。その要素自体は昔からあるので、目新しさはないのかもしれませんが、どちらも自分たちを襲ってくるものをどうぶつけるか?という演出の仕方に『なるほど』と思いました」

 「貞子vs伽椰子」は、ホラー映画ではあるが、日本ホラー界の2大ヒロインが激突するというエンタメ要素もあり、その点にも影響を受けた。

 「やはり、妖怪ものは、昔の悲惨な出来事から作られる要素が多いので、もうちょっとエンタメ寄りにしたい、楽しい感じにしたいという思いはありました。いろいろな怪談を聞いていても、化け物や妖怪は、元々人間だったし、なりたくてなったわけじゃない。だから、悪者って感じじゃないんですよね。葛藤を抱えている人たちなんじゃないか、と考えています」

 「ダンダダン」に登場する妖怪や宇宙人は、最初こそオカルンたちの脅威として登場するが、その裏には悲しい過去、背景がある。ただ、怪異たちとの戦いが終わると、敵だった怪異たちもどこか救われるような、希望が見える描写がある。

 「やっぱり希望がないと悲しすぎるじゃないですか。とにかくエンターテインメントなので、読んだ人に絶対に希望というものをちゃんと見せて終わらせたいと思っています」

 ◇ギリギリを攻めたキャラクターデザイン

 「怪異は悪者じゃない」という龍さんが描く妖怪や宇宙人は、ビジュアルも魅力的だ。特撮ドラマ「シルバー仮面」「宇宙猿人ゴリ」などを見ていたという龍さんは「昔の特撮って、なんだか可愛いんですよね。工夫して作っている感じ、手作り感がすごくいいというか」と語り、デザイン面では、特撮に影響を受けている部分もあるという。たしかに、「ダンダダン」の怪異は、怖いけれど親しみやすいような、不思議な魅力がある。

 「特に宇宙人のデザインは、成田亨さんのデザインにすごく影響を受けているので、全体として突飛な感じに発想を飛ばすのが難しいところがあるんです。突飛な感じのデザインは、描いたはいいけど入り込めないというか。僕自身、デザインはぱっと見た瞬間に『ハッ!』と思わせなければいけないものだと思っています。だから、『ダンダダン』では、そこら辺のギリギリを責めているというか。元々人間だった妖怪の場合は、ぱっと見でで『この妖怪だ』と分かりやすい。一方、宇宙人の場合は、ちょっと取っつきづらい、入り込みづらいような、ギリギリのラインで描いているかもしれないです」

 ◇「ベルセルク」の影響 表現に手を抜かずリアリティーを追求

 どこか心を温かくしてくれる希望のある展開、キャラクターのデザイン、そして、リアリティーを大事にしていると語る龍さん。そのマンガ家としての源泉はどこにあるのか。好きなマンガを聞いてみると、故・三浦建太郎さんの「ベルセルク」を挙げる。

 「世界観をあそこまで作りこんでいる作品って、ほかにないんですよね。ファンタジーものはたくさんありますけど、作品内にリアリティーがある作品はあんまりないなと。ファンタジーだからリアリティーがないのは当たり前じゃんと思うかもしれないけど、そういうことじゃなくて、その作品の世界の中にいたら『こういうものがあるかもしれない』『本当だ』と思える。それがちゃんと描かれている。マンガ、アニメと、いろいろな媒体がありますけど、要は表現、相手に伝えるということなんですよね。相手に伝えるために見せる、見せるために世界を作っておく。それだけでその世界に入り込める。だから、あんなすごい作品はほかにないよなと。ノーベル賞あげたほうがいいんじゃないかって」

 「ベルセルク」の影響もあり、「画面の表現は、できるだけ手を抜かないようにしています。リアリティーを損ねたら、その時点で表現をさぼってるってことになってしまう。それはできるだけしないように努力しています」とこだわりを語る。

 「ダンダダン」も廃虚、廃トンネルなど心霊スポットの描写はかなり緻密だ。筆者も取材で心霊スポットと言われる廃虚を訪れたことがあるが、その時の恐怖がよみがえるようなリアリティーがある。

 「心霊スポットのような“怖い場所”に関しては、汚しをたくさん入れることを意識しています。伊藤潤二さんの作品でも、ものすごく細かい線がたくさん入っているんですよね。それが執念にも思えるというか、気持ち悪さがある。僕も執念、情念を込めて描いています」

 まさに思いを込めて描かれている「ダンダダン」。それがテレビアニメでどう表現されるのか、気になるところだが、「原作にはないようなシーンもありますし、うまく原作のニュアンスをくみ取って演出してくださっていて、『そう来たか!』『ナイス解釈!』と思うようなシーンもあります。楽しみにして見ていただけたら」と笑顔で語っていた。

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