名探偵コナン
#1146「汽笛の聞こえる古書店4」
12月21日(土)放送分
手塚治虫の名作マンガ「ブラック・ジャック」の“幻のオリジナル版”などで構成される「ブラック・ジャック ミッシング・ピーシズ」(立東舎)。2023年11月に発売され、4950円と高額ながら、発行部数が1万部を突破するなどヒットした。同書に続き、初出時にカラーページで発表されたエピソードなどを集めた「ブラック・ジャック ヒストリカル・カラー・ピーシズ」(同)が11月15日に発売されることになった。奇跡的に発掘された資料も多数掲載されることもあり、新刊も話題になりそうだ。「ブラック・ジャック」は、1973~83年に「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)に連載された。これまでも関連書籍が多数刊行されており、今さら新発見はなさそうなものではあるが、連載終了から40年以上たった令和の時代に“幻”の“ミッシングピース”が発見された。同書の制作に関わった手塚プロダクションの資料開発部の田中創さんに発掘の裏側を聞いた。
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手塚は、雑誌に連載された作品がコミックス化される際、大きく手を入れることで知られている。コミックスが版を重ねたり、形態が変わったりした際にも手を入れることがある。つまり、さまざまなバージョンが存在し、「ブラック・ジャック」の場合は、エンディングが全く違うエピソードもある。「ブラック・ジャック ミッシング・ピーシズ」では、今回初めて連載時の“幻のオリジナル版”を復刻した。
手塚は多作だったこともあり、その生涯で15万枚描いたといわれ、現在、手塚プロダクションが保管している原稿などはおよそ10万点にもおよぶ。作品別に保管しているが、膨大なこともあり、資料が紛れてしまっていることもあるという。ほかの作品の資料の中から“ミッシングピース”が偶然、発見されることもある。また、出版社で発見され、返却されることもある。
今では信じられないことだが、手塚はファンレターの返信に原稿を添付することもあったという。雑誌に掲載されたカラー原稿は、連載当時に発売されたコミックスに掲載されることがなかったので、気前よくファンに渡してしまうことがあったのだ。仕事場の見学に来たファンに資料をプレゼントすることもあったといい、手塚がファンを大切にしていたことが分かる。手塚直筆となれば、文化的、歴史的な価値も大きいが、今とは時代が違って、重視されていなかったのだろう。
つまり、貴重な資料の一部は散らばってしまっている。「ブラック・ジャック ミッシング・ピーシズ」「ブラック・ジャック ヒストリカル・カラー・ピーシズ」は、失われた断片を発掘、再構成することで、令和の時代に“幻のオリジナル版”を復元した。
「ブラック・ジャック ミッシング・ピーシズ」では、オリジナル版とコミックス版を見比べることで、“マンガの神様”とも呼ばれる手塚の創造性、独創性の一端に触れることができる。では、何が変わっているのだろうか?
「手塚は直しが多いマンガ家です。構成が大きく変わっていることもあります。コマを組み直したり、足したりして、エンディングが変わっていることもあります。セリフを変えることもあります。テレビネタなど古くなったネタを変えたり、時代背景によって病名、言い回しを変えていることもあります。変えることは悪いことではないのですが、オリジナル版は連載当時の空気感、風俗を知ることができるので、それ自体に資料的な価値があると思います」
コミックス版は、オリジナル版を基にコマを切り貼りしたり、修正したりしているので、オリジナル版の原稿は失われてしまっている。復刻する際は、掲載誌を見ながら、パズルのように原稿を組み直す。コマなどが見つからなかった場合は、雑誌をスキャンすることになる。
「立東舎の復刻シリーズの場合、組み直す際の原稿(設計図)を新たに作り、それを基にOffice ASK(オフィスアスク)さんがレストアをしていきます。雑誌からスキャンする際、インクがにじんでいたり、線が裏写りしたりしているので、修正しながら復元します。同社の技術が素晴らしいので、復刻できていますが、実はすごく手間がかかっています。『ブラック・ジャック』の既刊は全て手塚が手を入れた単行本用の原稿を使っているので、意外にもこれが初のオリジナル版なんです」
11月15日に発売される「ブラック・ジャック ヒストリカル・カラー・ピーシズ」は、初出時に4色や2色の鮮やかなカラーページとして発表されたエピソードを中心に17編で構成される。 現存する原稿を使用した復刻となり、ブラック・ジャックの出自にまつわるエピソードを選んだ。名作「友よいずこ」は、無修正の生原稿状態で掲載される。
奇跡的に発掘された未使用ネームと未発表原稿、アニメの絵コンテ、直筆のシノプシス原稿など貴重な素材も多数収録される。未使用ネームが掲載されるのも大きなポイントだ。
「実は手塚のネームはほとんど残っていないんです。直接描いてしまうので、ネームが残らない。だから、どこにも出ていないものです。もうないだろう……と思っていたのですが奇跡的に発掘されました」
田中さんは「ブラック・ジャック」について「脂がのっている時期の作品ということもあり、手塚の腕のよさを感じます」とも語る。
カラーページや発掘された貴重な資料から、当時の手塚の熱量を感じられるはずだ。
(c)手塚プロダクション
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