新日本プロレスの“エース”棚橋弘至選手(49)が、2026年1月4日、東京ドームで開催される同団体年間最大のビッグマッチ「WRESTLE KINGDOM 20 in 東京ドーム」で現役を引退し、約26年のキャリアに幕を下ろす。自身の引退後には「推し変してね」と笑顔を見せる棚橋選手に、引退への思いを聞いた。
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「社長を依頼されていなかったら、もっと現役をやっていたかもしれないですね」と振り返った棚橋選手。新日本プロレスの社長に就任したのは2023年12月、当時47歳だった。
「プロレスラーは、自分で辞めるタイミングを見つけるのが難しい職業。いつまでも皆さんの前で戦っていたい気持ちはあるけれども、どこかで区切りをつけないといけないという思いもありました。2018年、2019年には、新日本プロレスの業績がグーッと上がって、やりきったかなという気持ちでした。
でも、2020年からコロナ禍になって、プロレスラー人生のすべてを費やして盛り上げたプロレスが自分たちの怠慢ではなく、他の原因で下がったことがものすごく悔しくて。残りのキャリアを使って、もう一度、軌道に乗せて……という思いでした。
だから、とてもいいタイミングで社長就任の話をいただいて、引退への踏ん切りがついたんです。皆さんに感謝の気持ちを伝える時間がほしくて、就任から約2年後の引退を希望しました」
引退発表は社長就任後の2024年10月。今年1月4日から始まった引退ロードでは、「縁(えにし)」「継(つなぐ)」をテーマに、これまでのキャリアで縁の深い選手や、これからの未来を担う注目選手、「ヤングライオン」と呼ばれるデビュー数年の若手選手たちと数々のシングルマッチが実現した。
「新日本のこれからの選手は勢いがあるので、闘っていて楽しい限りですね。いまは人材が充実していて選手の層が厚い。頭一つ抜け出してトップに立つことが新日本の歴史の中でも、かなり難しい時代なんじゃないかな。ファンの方も予想が立ちにくいと思います。
トップに立つためのアドバイスはしません。僕も若手のころ、『自分は絶対に正しい』と思っている頑固者でしたし、自分で気づけるかどうかが重要なので。
その中で、どうなっていくんだろうな……という意味では海野翔太、上村優也。2人が組んでタッグタイトルに挑戦した姿を、『あのころの俺と中邑(真輔選手・現WWE所属)だな』と思いながら見ていました。周りに期待をしてもらってタッグのタイトルマッチがあるというシチュエーションが、顔ぶれは変わっても未来へのポイントになる場面というか。昔の棚橋弘至・中邑真輔組を思い出しましたね」
他団体へも参戦。“男色殺法”で知られるDDTプロレスリングの男色ディーノ選手とのシングルマッチや、プロレスリングFREEDOMSのデスマッチのカリスマ・葛西純選手とのタッグマッチなど、これまでになかった試合が話題を集めた。
「最後の駆け込み需要というか……僕としてはうれしかった。やはりオファーがあれば出たいですから」と目を細め、「いろんなことができてこそ、新日本」と自信を見せる。他団体への参戦で見えてきたのは、自身の「新日本プロレスらしさ」だという。
「新日本の中では、『新日本らしくない』と言われてブーイングされた時期もありましたが、いちばん新日本としての誇り、精神を持っていたのは、僕だったかもしれないなと感じます。それに、昔はDDTさんともいろいろありましたけれど、いま、いろんな価値観を楽しんでいるファンがいらっしゃるという部分で認められるようになったのは、人として成長できた点かもしれません」
引退ロードでは撮影会やサイン会なども積極的に行い、「応援してくれる方、ファンの方に直接、お礼が言えている」とにっこり。そこではファンに自分の引退後、どの選手を推すのかと「次の推し選手」のことを聞くという。
「『次、誰を推すの?』ってリサーチしています。なかなか簡単に“次の推し”はできないみたいですけど(笑)。“棚橋ロス=タナロス”になるかもしれないって言われます。
でもね、そんなことないですよ。これまでも(アントニオ)猪木さんをはじめ、いろんな人が引退したり、退団したりして今がある。棚橋の引退も、その時はニュースになるかもしれないですけど、その先も新日本プロレスはなにごともなく走り続けると思います」
東京ドーム大会のチケットの売れ行きは好調で、追加販売が決定した。「東京ドーム大会を超満員にする」という棚橋選手、そして棚橋社長としての目標の実現が近づきつつある。
引退へのカウントダウンが進むいま、棚橋選手は「新日本プロレスのいちばん規模の大きい大会で引退できるのは幸せなこと。それに、こんなにも引退にフォーカスを当ててもらって、これだけ長い助走期間をつけて引退を迎えられるレスラーというのは過去にいないので。それだけで“100年に一人”を証明できたかな」とほほ笑む。
「ベストコンディションで、まだできるじゃんって思われながら去っていきたい。これは引退するしかないなと思われるのは、やっぱり悔しいですし、プロレスラーは虚勢を張ってなんぼですから。最後まで虚勢を張って。最後の最後までプロレスラーとして高みを目指したまま終わりたいです。
東京ドームであった猪木さんの引退試合は、観客の人数も熱量も、本当にすごかった。僕の引退試合ではあるんですけど、新日本のいまの選手にうまくつないでいけるような……。自分の試合も大事だけど、そこでまた改めて、新日本プロレスの選手の良さに気づいてもらえる機会にしたいですね」
一方で、「どんな感情で引退試合の日を迎えるかも、当日、会場がどういう空気になるのかも、わからない。まったくイメージできていないんです。こんなことは初めてですね」と明かす。そして、引退後の生活もまだ「想像できない」と言いながら、ちゃめっけたっぷりにこう語った。
「おいしいものは食べに行きたいですね。社長として、例えばシリーズ最終戦のタイトルマッチを日本各地で見て、応援してくださる方々に感謝しつつ、その土地のおいしいものを食べられたら最高です」
引退試合は2024年に新日本プロレスを退団し、現在はアメリカのプロレス団体AEWに所属するオカダ・カズチカ選手とのシングルマッチ。同大会では、東京五輪柔道金メダリストのウルフアロン選手のプロレスデビュー戦も行われる。チケットの追加販売は11月30日から。
<プロフィール>
たなはし・ひろし 1976年11月13日生まれ。岐阜県大垣市出身。1999年、立命館大学を卒業し、新日本プロレスに入門。同年10月10日、後楽園ホールでデビューした。「100年に一人の逸材」というキャッチフレーズや「愛してま~す!」の決め台詞で知られ、テレビの情報番組、バラエティー番組にも出演。2018年には主演映画「パパはわるものチャンピオン」(藤村享平監督)が公開された。