注目映画紹介:「春との旅」 仲代達矢の9年ぶり主演作 小林政広監督が他者とのつながりを描く

 喜寿(77歳)を迎えた名優、仲代達矢さんの、9年ぶりとなる映画主演作「春との旅」(小林政広監督)。09年暮れに行われた完成披露試写会の席上で、その仲代さんに「晩年に、この映画に出合えたことを誇りに思う」といわせた作品だ。

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 原作、脚本、監督を務めたのは、「バッシング」(05年)や「愛の予感」(07年)など、野心的な作品を作り続け、仏カンヌやスイスのロカルノなど、数々の国際映画祭でその手腕が高く評価されている小林監督。01年に起きた9.11米同時多発テロ事件直後に企画を思いついたといい、およそ10年かけて完成させた。

 日本海を望む北海道のとある漁師町。そこで、孫娘の春と暮らしていた元漁師で足の不自由な忠男は、春が失職し、職探しのために都会に出て行くことになったのを機に、春を連れ、自分の“終(つい)のすみか”を求め、兄弟を訪ね歩く旅に出る。

 小林監督の作品を知る人なら、今作のオーソドックスな物語を「意外」と思うかもしれない。その一方で、出演者は、忠男役の仲代さんはじめ、大滝秀治さんや淡島千景さんら、一流ながら商業映画にはなじみにくい役者さんばかり。いちばんの“若手”である春役の徳永えりさんにしても、決して今風のアイドルではない。映像も陰鬱(いんうつ)ならテーマも地味。しかし、そこにこそ、大作主義に迎合しない、小林監督ならではの心意気がうかがえる。

 さらに、この映画に出てくる“他人”は、忠男と春に対して遠慮がある分、優しく、血のつながった肉親は、遠慮がない分、冷たい。他者に対する遠慮の度合いは、その人と自分との信頼の厚さやきずなの太さ、さらには愛情の深さに反比例するものなのかもしれない。これまで一貫して他者とのつながりを描き続けてきた小林監督の持ち味が、ここにも表れている。22日から新宿バルト9(東京都新宿区)、丸の内TOEI2(東京都中央区)ほか全国で公開。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

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