注目映画紹介:「孤高のメス」 医療問題を扱いながら人との交流を描く温かい映画

 真剣なまなざしで手術中の堤真一さんのアップを使った映画のポスターに、ちょっとおじけづきそうになるが、テーマは硬派でありながら、見終わったときの印象は意外にも温かかった。「孤高のメス」(成島出監督)は現職医師の大鐘稔彦さんの同名小説シリーズを映画化。成島監督が脚本を共同で執筆した「クライマーズ・ハイ」(08年)で骨太な新聞記者を演じていた堤さんを主人公の外科医に起用し、再び骨太な内容で酔わせてくれる。

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 新米医師の中村弘平(成宮寛貴さん)は、看護師だった母・浪子(夏川結衣さん)の遺品の中から古い日記帳を見つけた。そこには、市民病院での仕事に限界を感じ、泣き言が赤裸々につづられていた。時は20年さかのぼった89年、米国の病院で肝臓移植を手掛けたことがある外科医の当麻鉄彦(堤さん)が、ある市民病院に第二外科医長として赴任する。オペ中に都はるみの演歌を流し、あくまでマイペースな当麻の姿が、看護師・浪子の目には新鮮に映る。患者よりも組織を大事にするこれまでの医師たちとは違い、目の前の患者と真剣に向き合う当麻から次第に影響を受け始める医局のスタッフ。しかし、第一外科医長の野本(生瀬勝久さん)ら一派は当麻に反発。そんな中、当麻を応援していた市長(柄本明さん)が、肝硬変で倒れ病院に運ばれてくる……。

 「脳死」「臓器移植」といった難しい問題を扱いながら、そのことを強調し過ぎることもなく、淡々と自分のすべきことをこなす一人の医師の仕事ぶりにスポットを当てている。そして、彼の仕事ぶりがじわじわと周囲に伝わっていくところを、看護師・浪子の目を通して観客にも感じさせてくれる。幼い子どもを女手一つで育てながら奮闘する浪子の母としての姿、隣人の母子家庭との交流を丁寧に描き出し、温かい映画に仕上げた。

 堅実な作りでリアルに描いた医療シーンにも好感が持てる。堤さんの手つきも“玄人はだし”だ。「医師であり続けることは、医師になることの何倍も難しいんです」と当麻は言う。こんなカッコいいせりふを話しても、くさくならない俳優はほかにはいない。5日から丸の内TOEI1(東京都中央区)ほか全国東映系で全国公開。(キョーコ/毎日新聞デジタル)

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