数年前まで、エンターテインメントの中心の一つはテレビゲームだったが、今ではモバイルゲームがテレビCMをにぎわしている。ゲームに限らずエンタメ業界自体が「少子化なのだから仕方ない」という中で、市場規模を拡大しているのがカードゲームである。玩具協会の調査によると、08年の市場規模は740億円だが、集計外の中古販売を含めれば、プレミア価格が付いているカードの取引が多いこともあり、私自身の経験から、本当の市場は1000億円を超えていると思っている。
ウナギノボリ
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そんな成長市場のカードゲーム業界で、私が注目しているのが、バンダイのオンラインカードゲーム「ネットカードダス プロ野球 オーナーズリーグ」だ。
「オーナーズリーグ」は、10年3月の発売開始からわずか半年足らずでカードの出荷枚数は既に1000万枚を突破している。実在の選手を組み替えるなど球団を超えてチームを作り対戦する内容だが、その真価は、紙のカードとネットの融合にある。従来型のネット型カードゲームは、使用カードやアイテム購入などの課金はネットで行うのが常だった。ところが「オーナーズリーグ」は、課金はすべて紙のカードパックで行う。連動するネットゲームの登録は無料で、実際のカードがなくてもネットゲームが遊べるという従来型のネットゲームビジネスの長所も取り込んでいる。
私が感じたのは、このゲームが、バンダイがこれまでに取り組んだ商品の経験が生かされていることだ。過去にうまくいかなかったオンラインゲームのシステムを生かしているし、すべての紙のカードにシリアル番号を印刷して管理するという発想は玩具メーカーならではのものだ。ネットゲームの遊び方もチームを組んで、結果を待つだけ。SNSやツイッターが流行する中、短い時間で済む自動対戦のシステムは現状にマッチしている。
このゲームのプロジェクトの収支は非常に良好とのことで、従来のカードゲーム事業に新鮮な一石を投じたのはもちろん、サッカーなど他のスポーツ事業での展開も可能だろう。カードゲームのオリジン(起源)であるアメリカ(NBAなど)での展開も夢ではない……と私は思っている。
従来型のネットゲームのサプライヤー(製造事業者)の多くは、アカウント(登録)人数を競うやり方はもちろん、売り上げの限界も感じている。そんな中、従来型のエンタメビジネスを“逆転の発想”で変えてしまったこのカードゲームに学ぶべきところは多い。
◇筆者プロフィル
くろかわ・ふみお=1960年、東京都生まれ。84年アポロン音楽工業(バンダイミュージック)入社。ギャガコミュニケーションズ、セガエンタープライゼス(現セガ)、デジキューブを経て、03年にデックスエンタテインメントを設立、社長に就任した。08年に退任後、ブシロード副社長に就任したが10年7月に退く。音楽、映画、ゲーム業界などの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。
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