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ローカルプロダクション:邦画製作に乗り出したハリウッドメジャー 日本映画の将来は?

映画
「最後の忠臣蔵」のメーンカット (C)2010「最後の忠臣蔵」製作委員会

 外国の映画会社、とりわけハリウッドメジャーと呼ばれる大手映画会社の現地法人が、現地で企画を立て、現地用に製作し、流通する手法を「ローカルプロダクション(以下、ロープロ)」という。ワーナー・ブラザース映画(以下WB)は、ロープロ作品第1弾として映画「最後の忠臣蔵」を12月18日に公開する。なぜ洋画の映画会社が邦画に乗り出すのか。また邦画にどのような影響を与えるのか取材した。

 20世紀フォックスの「サイドウェイズ」(09年、チェリン・グラック監督)、「群青 愛が沈んだ海の色」(09年、中川陽介監督)、ソニー・ピクチャーズの「レイン・フォール/雨の牙」(08年、マックス・マニックス監督)……これらはいずれも洋画配給会社が出資・製作した日本映画だ。11月13日には、パラマウントが手がけた松嶋菜々子さん主演の「ゴースト もういちど抱きしめたい」(大谷太郎監督、松竹共同配給)が公開される。

 WBでもすでに、06年公開の「DEATH NOTE デスノート」(金子修介監督)を皮切りに、「おっぱいバレー」(08年、羽住英一郎監督)、「GOEMON」(08年、紀里谷和明監督)といった邦画を市場に送り出してきた。ただしこれらの作品は、共に製作委員会を構成する他社が幹事を務め、WBは配給やビデオの発売・販売会社としての参加で、製作にはタッチしていなかった。そのWBが、初めて幹事会社として製作委員会を運営し、製作に関与したロープロ作品第1弾が「最後の忠臣蔵」だ。また、公開は先になったが、10月16日に同社のロープロ作品第2弾の「インシテミル 7日間のデス・ゲーム」が封切られた。

 映画「インシテミル 7日間のデスゲーム」は、米澤穂信さんのベストセラー小説を、「リング」などの中田秀夫監督が映像化したサスペンスミステリー。時給11万2000円という破格の求人広告に釣られ集まった10人が、とんでもない実験に巻き込まれる話で、藤原竜也さん、綾瀬はるかさんらが出演している。また、「最後の忠臣蔵」は、池宮彰一郎さんの時代小説の映像化で、赤穂浪士四十七士討ち入り後の、生き残りの2人の侍のその後を、ドラマ「北の国から」の演出で知られる杉田成道さんを監督に迎えて映像化。役所広司さん、佐藤浩市さんという日本映画界を担う2大俳優が共演した感動時代劇だ。

 ◇王道の時代劇を洋画配給会社が製作

 ロープロ作品の第1弾に「最後の忠臣蔵」を選んだ理由について、製作総指揮を務める「ワーナー エンターテイメント ジャパン」のウィリアム・アイアトン社長は「誰もが知る『忠臣蔵』の、誰も知らない物語を描いている点に引かれた」と説明する。同社は過去にも「GOEMON」などの時代劇にかかわったが、あちらはアクションがふんだんに盛り込まれた娯楽色の強い作品で、時代劇としては異色だった。ところが、今回の「最後の忠臣蔵」は正真正銘、王道の時代劇。それを洋画配給会社が製作するというのは違和感がぬぐえない。だが、アイアトン社長は「映画はストーリーテリングのメディア。観客が望むようなストーリーであればジャンルは問わない」と話す。

 ロープロの機運が盛んな背景には、「邦画のシェアが年々高まっている」ことが挙げられる。09年度の映画市場は、洋画887億円で43・1%のシェアに対して、邦画1173億円で56・9%だった。この状況を指をくわえて見ているだけでは、洋画メジャーの一翼を担う同社の名がすたる。同社では日本以外にも、インド、スペイン、フランス、イタリア、ドイツでロープロを行っているが、アイアトン社長は「日本では、ここ最近、特に邦画に対する観客の関心が高い」ことを理由に、ロープロは「今後2、3年は、われわれが幹事会社となって年間7、8本のペースで進め、3、4年後にはその数を10~12本と増やしていきたい」と意欲をみせる。

 これまで本社任せだった企画も、ロープロを取り入れることによって日本ならではの独自性が出せる。また同社では、提案された企画についてシナリオができると、二十数人いる社内スタッフがそれを読み、「彼らの意見を反映させ、脚本を改善したり、最終的にやるかやらないかの判断をしている」という。つまりロープロは、映画プロデューサーの育成という側面も持つのだ。

 ◇公開前の「リクルート試写」

 また、ハリウッドでは当たり前になった「リクルート試写」も実施している。これは、完成前の作品を一般人に見せ、そのリアクションで編集や撮り直しなどをし、内容を改めるというものだ。実は、「インシテミル」も「最後の忠臣蔵」も、同社では初めてリクルート試写を行った。「観客にできるだけ近づこうという意識の表れです」と話すのは、日本支社の久松猛朗・副代表だ。

 日本映画は監督至上主義といわれ、監督のクリエーターとしての思いが強くなるあまり、見る側の存在が忘れられがちだ。作り手にとっては、このリクルート試写のシステムは抵抗があるかもしれないが、「映画のクオリティーを上げていくためには、客観視は必要」で「一般の方々がどんなふうに受け取るのか、それを作品に反映させることで、観客に対してもフレンドリーな作品になっていく」と、現職に就く以前は日本の映画会社に長く勤めていた久松副代表は指摘する。ちなみに、今回、「インシテミル」も「最後の忠臣蔵」もリクルート試写の結果、その後の変更はなかったという。

 ◇洋画と邦画を安定供給

 同社では、稼ぎ頭である「ハリー・ポッター」シリーズが、来年の公開作をもって終わる。「シリーズ8本を合わせて(日本だけで)興収1000億円」(アイアトン社長)を目標に掲げるこのシリーズを失えば、当然、売り上げ減が予想される。その減少分を、本社任せではないロープロによって補えるようにもくろんでいる。「50億~100億円ぐらい当たる作品を日本で作って行きたい」とアイアトン社長は意気込む。

 もう一つの頭痛の種は、ビデオ、DVDをはじめとするパッケージ商品の売り上げが軒並み減少していることだ。米国ではVOD(ビデオ・オン・デマンド)の需要が伸びつつあるが、日本はまだ途上だ。「どこで(WB)ジャパンとして成長を出せるか。その点でも、ロープロへの本社の期待は非常に高い」とアイアトン社長は明かす。

 WBは洋画の映画会社であり、ロープロに乗り出すことで、扱える作品に幅が出てくる。メリットは、久松副代表の言葉を借りるなら「補完し合えること」。つまり「洋画だけなら本国の作る作品に左右されるが、邦画を作ればわれわれがコントロールしながら安定的に洋画と邦画を供給できる」(久松副代表)というわけだ。

 アイアトン社長は「(ロープロを)本格的にやっているのは(国内では)わが社くらい。わが社がもうかれば、他社も本格的に乗り出してくるだろう」と推測する。これまで日本は、ハリウッドによるアニメやマンガの実写化や、ホラー映画のリメークなどが盛んで、海外から「企画に強い」とされていた。だが正直なところ、リメークやアニメの実写化権の提供ではうまみが薄く、「企画の安売り」と指摘する関係者もいる。アイアトン社長が展望するように、洋画配給のロープロ作品が増加すれば、邦画の好調に拍車をかけ、日本の映画産業がさらに活性化することも見込まれる。日本映画界の未来を担うのは「ロープロ作品」なのかもしれない。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

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