ゴースト:大谷太郎監督に聞く こだわったろくろのシーン「ラブストーリーを描きたかった」

インタビューに応じる「ゴースト もういちど抱きしめたい」の大谷太郎監督
1 / 1
インタビューに応じる「ゴースト もういちど抱きしめたい」の大谷太郎監督

 女優の松嶋菜々子さんと韓国の人気俳優ソン・スンホンさん出演のラブストーリー「ゴースト もういちど抱きしめたい」が13日から全国で公開。年商150億円企業の女社長、星野七海(松嶋さん)が、韓国から陶芸を学ぶために来日したキム・ジュノ(ソンさん)と恋に落ちるが、幸せの絶頂で七海は暴漢に襲われ死んでしまう。天国に行かず、ゴーストとなってジュノのかたわらにとどまることにした七海は、暴漢がジュノの命も狙っていることを知り、なんとか彼に危険を知らせようとする……という物語で、90年に公開された「ゴースト ニューヨークの幻」(ジェリー・ザッカー監督)を原案にしている。25日からの韓国での公開も決定したこの作品でメガホンをとったのは、これまで、「有閑倶楽部」や「銭ゲバ」などのドラマの演出を手掛け、これが映画初監督となる大谷太郎監督。「『ゴースト ニューヨークの幻』は好きな作品のひとつでした」と語る大谷監督に、作品に込めた思いを聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

あなたにオススメ

 −−台本を初めて読んだときの印象は?

 (ハリウッド版「ゴースト ニューヨークの幻」にあった)ろくろを回すシーンがないというのと、(ハリウッド版より)サスペンス色が強いというのが最初の印象でした。そこで僕の方から、ろくろのシーンは絶対にやりたいし、(ジュノが)陶芸家であるというのも加えたいということと、「サスペンスよりラブストーリー色を強く出したい」とお願いしました。

 −−ろくろのシーンは大谷監督からの提案だったわけですね。

 そうです。皆さんに聞いても「あのろくろの映画ね」というほどなので、あのシーンは外せないし、ろくろの場面をうまく生かさないとオリジナル版を作った方たちに失礼だという思いがありました。

 −−とはいえ原案の象徴的なシーンを入れることは、オリジナル版をなぞったと思われてしまう、いわば“地雷を踏む”ような危険もはらんでいます。

 たとえそれが地雷だとしても、原作者に対するリスペクトとして、むしろ踏むべきであると思いました。

 −−そのろくろのシーンで、七海は器に“あるもの”を描きますが、あの絵はかなりユニークです。

 何かを描くというのは、企画段階の台本では、ジュノが絵描きだったからなんです。あの絵柄は、実はうちの娘のいたずら描きが手本になっています。ヘタクソなんですけどね(笑い)。美術のデザイナーやスタッフなどいろんな人に描いてもらったんですが、「無邪気な絵のほうがいいかな」と思ったので使うことにしました。

 −−ハリウッド版の2人はすでに恋人同士でしたが、この作品では、七海とジュノの出会いから描いています。2時間という枠の中でそこから描くことは難しかったのではないですか?

 難しかったですね。普通のラブストーリーならそれだけで2時間になる。だけど「ゴースト」というくらいなので、七海が亡くなってゴーストにならないと話が進んでいかない。その一方で、本来接点のない2人が出会い、幸せのピークで別れるほうが、感情の起伏を表現しやすい。ですから、2人の出会いから別れまでを冒頭30分で描き、そこにろくろのシーンや2人にとって象徴的な器のシーンを盛り込むという制約を、あえて自分に課しました。

 −−時間を区切ってここまで描くという手法はテレビドラマで培った技ですね。

 見ている人の気持ちを決まった時間の中で飽きさせることなく、次のストーリーに乗せていくというのは、テレビの演出のクセかもしれません。ただ今回は、わざわざ映画館に見に来てくださる方が相手。CMの間にトイレに行って、しばらく戻って来ないとか、録画して早送りをして見るということはないので(笑い)、すべてを見てくださるものと思って、時間をうまく使うことを心掛けました。

 −−松嶋さんとソンさんとは初仕事だと思いますが、いかがでしたか?

 お二人とも、きちんと役作りをしていらっしゃいましたし、撮影現場でお願いしたことも、それを自分の中に取り込んだ上で、さらにいいものを出してくるという点でとても力量が高く、お陰でやりやすかった。特にソンさんは、日本語で演じなければいけないし、異国のスタッフに囲まれて演技をしなくてはならない。また、実は彼のせりふは、最初はほとんど韓国語だったんです。でも、日本に留学している役なら日本語でしゃべりたいと彼の方から言ってくれて。例えば映画の中で、ジュノが看護師さんとすれ違うシーンがありますが、撮影直前に「普通、日本ではこういう場合はなんと言うんですか?」と質問されて、「お疲れさまです、などと言うと思います」と答えると、その場で練習して「お疲れさまです」と言っていました。そういう(演技の)すき間も自分で埋めていくような、自分に厳しく、しかも演じることに対して貪欲(どんよく)な方です。

 −−七海とジュノの“懸け橋”となる霊媒師役の樹木希林さんも異彩を放っていました。

 樹木さんには樹木さんなりの演技プランがあって、最初に、東京の片隅にある一軒家の古びた日本家屋で霊媒師の稼業をしている役、というようなお話をしたら、「大丈夫です、衣装は自分でそろえます」とおっしゃったんです。ですから、靴にしても、カツラにしてもカバン、サングラスまで、すべてご自前なんです。

 −−そんな演技の達者な方々が出演している「ゴースト」。見どころを挙げると?

 僕はラブストーリーを描きたかったので、七海とジュノの気持ちの強さを見てほしいというのと、撮っていて気が付いたんですが、目の前にいる好きな人には、「愛している」ときちんと口に出して言わないとダメだし、それが言えることがとても幸せなことだと思ったんですね。ですから、映画を見に来てくれた人には、自分の気持ちを相手にきちんと伝えられることの幸せに気付いてもらえたらいいですね。

 <プロフィル>

 1967年東京都出身。早稲田大学卒業。日本テレビ90年度入社。情報番組をへてドラマ制作部門に。日本テレビのディレクターとして、これまで連続ドラマ28作品、スペシャルドラマ10本、深夜ドラマ10作品を演出。98年、単発ドラマ「入道雲は白 夏の空は青」でギャラクシー賞、ATP最優秀賞を受賞。ギャラクシー賞は、07年の「ロミオとジュリエット~すれちがい~」、08年の「あの日、僕らの命はトイレットペーパーよりも軽かった」、09年の「銭ゲバ」でも受賞した。他の主な作品に、「共犯者」「ごくせん」「ヤスコとケンジ」など。今作が映画初監督。初めてハマったポップカルチャーは、小学校低学年のときに見たアニメ「マジンガーZ」。「父がアニメの演出家で、『マジンガーZ』の演出をしていたんです」といい、「サンタクロースに超合金のマジンガーZの人形を頼んだ」ほど好きだったが、高額だったので買ってもらえず、最近おもちゃ量販店で復刻版を見つけ「即買いしました」とか。

映画 最新記事