イメージエポック:御影良衛社長に聞く ゲーム市場参入は次世代へのバトン

イメージエポックの御影良衛社長
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イメージエポックの御影良衛社長

 ニンテンドーDS用ソフト「セブンスドラゴン」(セガ)やPSP用「ラストランカー」(カプコン)などを手掛けたゲーム開発会社イメージエポック(東京都港区)が、自らゲームを販売するパブリッシャー事業に参入する。08年をピークに縮小しつつあるゲーム市場に乗りこむ御影良衛社長に話を聞いた。

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 −−パブリッシャー参入を決めた理由は?

 二つあります。一つは、自分たちでお金を用意し、責任を持ってゲームを調整できること。もう一つは、国内のデベロッパー(開発会社)は危機的状況にあることです。パブリッシャー事業参入では、(九州のゲーム会社)レベルファイブが成功して道を示してくれました。我々もそれに続けたら、他社が救われるきっかけになるとも思っています。

 −−なぜデベロッパーは危機的状況になったのですか?

 制作にあたり、マーケティングをほぼしないからです。かつてゲームソフトは出せば売れたのですが、誕生から20年以上がたち市場が成熟から衰退期に入っています。そんな中ソーシャルゲームやモバイルゲームのような新たなプロダクツ(商品)が生まれていますが、コンシューマーの会社は「良いものを作れば売れる」と考える傾向にあります。

 −−経営やマーケティングの強い意識はどこから生まれたのでしょう。

 父が、映画「夢の涯てまでも」にかかわるなど会社を経営していて、私も中学生のころから仕事を手伝っていました。ですが父は、良いものを作ることにこだわり、私が大学2年生のときに破産しました。良い物を作ることは重要ですが、同様に収益を上げるのも大事です。元カプコンの(常務)稲船敬二さんが「経営と現場を仲良く」と言っていましたが、私もそう考えています。

 −−中学生から働いていたのですか?

 ええ。確かに変わった家でした。小学生時代に家で政治討論をしていましたし、母はイギリスにいることもあり、海外生活が多かったんです。だから外から日本を見たり、逆もあったので、国際的な感覚は強かったと思います。父の仕事の関係上、坂本龍一さんや、ピアニストの山下洋輔さん、ベンチャー企業の社長が家に来ていました。だから子供時代は、同級生と考え方がずれていましたね。

 −−映画や音楽でなく、ゲームのクリエーターを目指しますね。

 意識したのは高校1年生ですね。当時、プレイステーション用ソフト「ファイナルファンタジー(FF)7」を遊んだとき、映像のすごさに衝撃を受けました。そもそも私は、音楽と映画業界に入るつもりはなかったんですよ。理由は、産業が小さいからです。芸能とリンクしているから華やいでいますが、大金は動かせないし、国内から出られません。世界と対等に話ができるのはゲーム……と高校生のころから考えていました。ただし大事なのはゲームが好きなことで、これは大前提です。この仕事は、ゲームを愛していないとできないし、愛とビジネスが両方かみあってこそです。

 −−どうやってゲームクリエーターに?

 慶応大の日吉キャンパス(横浜市)の近くにあるコーエー(現コーエーテクモゲームス)まで10分の距離に住んでいたので、デバッグ(テストプレー)のアルバイトを始めて、大学卒業までには一通りできるようになりました。そしてナムコ・テイルズスタジオに入社したんですが、4カ月で辞めました。そのころはほとばしるようなエネルギーがあって、「何か自己表現をしないと死んじゃう」みたいな感じでした。昼は会社で働いて、夜になったら大学時代につくった池袋の会社で午前5時ぐらいまで仕事をして、3時間寝て午前9時に出社していました。

 −−とんでもない仕事量です。

 1人で10人分ぐらい仕事をして、月1000万円ぐらい稼いだのですが、自分の取り分は20万~30万円にしたので、お金があまる状況でした。そこで「会社を大きくしよう」と考えて、大学時代のアルバイトで知り合ったクリエーターに連絡を取ってスカウトしたんです。1年で30人、3年で100人になりました。当時はデザインの下請けでしたが、自身でゲームを作ろうとして生まれたのが「ルミナスアーク」(DS、マーベラスエンターテイメント)なんです。

 −−ここまで成長できたのは?

 ゲームは10万~30万本を売った場合、4億~12億円の売り上げがあります。この場合、大手のゲーム会社は30万本の売り上げを想定し、9億円の開発費をかけて3億円の利益を取りにいく……というスキームを組むのですが、達成できないと赤字になります。ゲーム会社によって変わりますが、1人当たり月300万円の販管費(コスト)があるのが普通ですが、弊社はその3分の1なんです。この販管費でゲームを作れる会社は弊社以外にないので、ブルーオーシャン(ビジネスで競合相手のいない領域のことを指す)なんです。市場を考えてビジネスを組む。ソニーやパナソニックもそうであるようにゲーム業界以外の産業は普通のことです。決してニューアイデアでなくリビルド(再構築)なんですが、ゲーム業界には拒絶感があるんですよね。

 −−11年春からイメージエポックの参入第1弾ソフトが出ます。

 「最後の約束の物語」は、PRGが好きな30~40代の人たちが楽しめる設計で、イメージエポックの覚悟を示す作品です。だから(RPGの基本的なゲーム設計の)コマンド式を採用し、戦略的要素を詰め込んでいます。第2弾の「ブラック★ロックシューター ザ ゲーム」は、私の中ではゲームをゼロから生み出すアプローチで、「ブラック★ロックシューター」を育ててくれたお客さんに認知してもらえるかがカギですね。

 −−インターネットから生まれた作品も採用されているそうですね。

 今のネットは、若者がプロアマ分け隔てなく自己表現をする場になっています。ゲーム「ルミナスアーク」や「セブンスドラゴン」のイラストは、我々がネットで絵を見つけて、メールでオファーをしたんですよ。今の若い子たちは、場を与えられると全身全霊かけるようなすさまじい情熱を発揮してくれます。もちろん大変な部分はありますが、そこは我々が体を張って守ればいい。それが会社の存在意義なのですから。

 −−一方、不景気でゲームに限らず、エンタメ産業が冒険しづらい時代でもあります。

 米国の映画ビジネスでは、保険会社が製作費を負担する仕組みがあって、監督が自分の責任で売れる作品を作ったり、逆に自分の好きな作品を作ることができる土壌があって、その保険は監督が若手を育てているかどうかも評価の対象になっているんです。父が日本でやろうとしたのは、そういうことで、やろうとしたことはすばらしいと思っていますし、私もやる価値はあると思っています。ゲーム「最後の約束の物語」では、かつての30~40代のユーザーが熱中したRPGの“文法”などの「バトン」を、RPGを知らない今の中高生に渡したい……という狙いもあります。同じ“文法”を共有すれば、違う世代でも同じ語らいができますからね。

 −−今後の目標は。

 年商5000億円の企業にしたいと思っています。もちろん到達できるかは未知の領域で、ダメになるかもしれませんが、目標に向かっていちずに走るだけですね。そしてビジネスとゲームへの愛を紡いでいければ、いい会社になるとも思っています。実は、私は最初、人が嫌いでしたが、社長になってからは、本当に人間が大好きになりましたね。そしてまずは、「最後の約束の物語」と「ブラック★ロックシューター」の二つのゲームをユーザーに満足いただけるようにすることが、当面の目標です。それが達成できなかったら先のことはないので、真剣に制作しています。こうご期待ください。

 ◇プロフィル

 みかげ・りょうえい=東京工芸大学映像学科卒。05年6月にイメージエポックを設立し、社長に就任。「ルミナスアーク」や「セブンスドラゴン」「ラストランカー」など多くのRPGを開発した。11年4月に「最後の約束の物語」で、パブリッシャー事業に参入する。

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