03~08年、私は映像コンテンツを買い付けたり、DVDソフトを販売した時期がありました。この事業に挑んだのは、私が映画世代であり、自身で映画を製作してみたかったから……というのが理由です。
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その映像ビジネスは当時、映画館での劇場公開作の収益は減少をしていたものの、DVDソフトの売れ行きがバブルとも言うほど順調で、マイナスをカバーできた時代でした。ただし、DVD自体は低価格化が進んでいて、数を売るということが命題でした。ご存じの通りバブルは長く続かず、現在の斜陽はぶりはご存じの通りでしょう。倒産した独立系映像会社もあり、暗中模索が続いています。その中で新メディアとして脚光を浴びたのがブルーレイ・ディスク(BD)です。
スペックはDVDの5倍の記録容量を持ち、地上波デジタルなどの記録メディアとしてもてはやされました。導入に至ってはHD-DVDとの覇権争いもあり、ハリウッドの映画会社の陣営争いまでに発展したことは記憶に新しいでしょう。
そして映画「アバター」(J・キャメロン監督)の登場です。この作品の力により3D映像の技術革新が進み、足踏み状態だったBDの販売が促進された面があります。しかし、BDが出るのは大物ソフトばかりで、いまだにDVDのリリースが多いことを不思議に思う人も多いでしょう。その理由は、ズバリ「BDの参入障壁の高さ」です。08年ごろから、BDの製造原価は安くなりましたが、実は製造原価とは別の費用がかかることは意外に知られていないと思います。BDには製造にあたり三つのライセンスが必要なのです。
一つ目は「AACS」(Advanced Access Content System)で、プレス用マスターの作成で必要になります。これはソフトウエアのプロテクト(コピー防止管理)のシステムで、米国のライセンス管理会社と契約してIDを入手する必要があります。二つ目は「ISAN」(International Standard Audiovisual Number)です。これはソフトウエアごとに個別番号を割り振り、著作権使用料の管理を行うものです。最後はBDのロゴの許可承認を得るための「LLA」(Logo Licence Agreement)です。この三つで約50万円の初期費用がかかります。さらに「AACS」は有効期間はわずか1年で、1年ごとに更新料がかかります。
さて本題に戻りましょう。あなたが映像会社の社長として、これほどの初期コストを支払ってまで参入するでしょうか?
BDは、コンテンツホルダーを守る狙いで、中小の映像メーカーに参入の余地を与えるものだったはずです。しかし、実際は年に相当数のバックオーダーがないと元が取れないため、大手しか参入できないわけです。
かつてDVDのブームを支えたのは中小や独立系の映像メーカーなどから出る豊富なラインアップでした。BDが普及しないのは、「権利保護」という名のもとに行われる“搾取”にあると思っています。
著者プロフィル
くろかわ・ふみお=60年、東京都生まれ。音楽ビジネス、映画・映像ビジネス、ゲームソフトビジネス、オンラインコンテンツ、そしてカードゲームビジネスなどエンターテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。ブログ「黒川文雄の『帰ってきた!大江戸デジタル走査線』」(http://blog.livedoor.jp/kurokawa_fumio/)も更新中。
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