浅野忠信:「マイティ・ソー」でハリウッド進出 上 「周囲を裏切りたかった」

国内外で演技派として知られる浅野忠信さん
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国内外で演技派として知られる浅野忠信さん

 「スパイダーマン」「アイアンマン」などで知られるマーベル・コミックの人気キャラクター“Thor(ソー)”の実写映画が2日、公開された。神の国アスガルドで王位継承者と目されながら、強過ぎるがゆえの傲慢さがあだとなり、父王によって人間界に追放されたソー。彼が人間と暮らすうちに少しずつ成長していく様子を、アスガルド征服をたくらむ敵との戦いを交えて描くアクション・エンターテインメント作だ。今作でソーに仕える忠実な戦士ホーガンを演じている浅野忠信さん。あこがれのハリウッド映画出演を果たしたが、「スタート地点に立てたということでしかない」と気を引き締めている浅野さんに話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

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 「バタアシ金魚」(90年、松岡錠司監督)での映画デビュー以来、最近では「劔岳 点の記」(09年、木村大作監督)、「酔いがさめたら、うちに帰ろう」(10年、東陽一監督)などに出演。また、07年の出演作「モンゴル」(セルゲイ・ボドロフ監督)が米アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされるなどしている浅野さんは、もっぱら国内外で演技派として知られている。その浅野さんが、なぜアメコミのヒーローものに出演したのか? 不思議がる人は少なくないはずだ。周囲のそうした反応は、オーディションを受ける際に、浅野さん自身の中ですでに織り込み済みだった。「浅野忠信がアメコミのヒーローものをやっているとなったら、あいつどうしたんだと思われると思うんです。だったら、それをやる以外(周囲を)裏切る手はない。その意味でもやりたいと思いました」と振り返る。

 もともと「アメコミを読むのは嫌いじゃなかった」といい、今回の原作は役作りのために初めて読んだ。すると、「台本のホーガンとコミックのホーガンが合体して、自分の中で新しいイメージができていった」。マンガが基になっているだけに、それまでの浅野さんのスタイルとは違う、大胆な動きや表情にも挑戦できた。それが「面白かったし、勉強になった」という。その言葉が決して誇張でないことは、今作の後に撮った、「これでいいのだ!!映画★赤塚不二夫」でのはじけっぷりが証明している。

 浅野さんはホーガンを、「戦いバカ」と評する。「周囲のみんなが、敵なんかいるわけないとワーワー言い合っている中で、彼だけは、いや(敵は)来るかもしれない。こいつらがふざけているのなら、俺が守らなきゃいけない、そういうことしか考えていない男」と分析する。そして、そんなホーガンと、英語が苦手で現場では「みんなの会話に参加できないから、黙ってニコニコしているしかなかった」という自分を重ね合わせ、共演者とコミュニケーショをとれなかったことが、むしろ役作りにはプラスに作用したと打ち明ける。

 半面、監督のケネス・ブラナーさんとは通じ合えたという自負がある。「僕のことをしっかり見ていてくれて、通訳さんが、『タッド(現場での浅野さんの呼び名)にもっと言わなくていいのか』と言うと、『あいつは分かっている』と言ってくれたり」、そういう気遣いが「うれしかった」と話す。

 そのブラナー監督は、自身も俳優で、「から騒ぎ」や「ハムレット」といったシェークスピア作品を監督したことがあり、また、舞台演出家としても知られる。だからこそ今作を単なるアメコミヒーローのアクション娯楽作にとどまらせることなく、原作が持つ父と子の確執や兄弟間の嫉妬といった人間ドラマの部分を存分に引き出すことができたのだろう。さらにそこにはそこはかとないユーモアが漂い、浅野さんいわく、そのユーモアには「奥行きがある」。「この映画はただ明るいだけじゃなく、その向こうに何かがあると思わせる。歴史を感じるというか……。それはひょっとしたら監督が英国人だからというのがあるのかもしれません」と賛辞を惜しまない。

 今後、キアヌ・リーブスさん主演のアクションドラマ「47 Ronin」やリーアム・ニーソンさん主演のSFアクション「Battleship」など海外作品への出演が続く。活躍の場が世界へと広がることで日本映画の出演作が減ることが懸念されるが、今のところは「『マイティ・ソー』を撮って、『これでいいのだ!!映画★赤塚不二夫』を撮って、アメリカに行って、帰って来て日本映画を2本撮って……とやっているので、日本の作品の方が全然多いですから心配せずに……心配なんかしてねえよと言われるかもしれません。逆に心配してくださいというか……」と照れ笑いを見せる。そして、念願のハリウッドデビューを果たしてもなお、おごることなく、日本の映画関係者に「必ず僕を使ってください」とアピールする浅野さんからは、人柄のよさと新たな闘志が伝わってきた。

 <プロフィル>

 1973年横浜市生まれ。タレントのマネジャーをしていた父親の勧めで14歳のときにドラマ「3年B組金八先生」に出演。その後、90年に「バタアシ金魚」で映画デビュー。以来、数々の作品に出演。その演技の奥行きの深さから演技派として知られ、代表作に、「ねじ式」(98年)、「地雷を踏んだらサヨウナラ」(99年)、「殺し屋1」(01年)、「劔岳 点の記」(08年)などがある。03年には「地球で最後の二人」がベネチア国際映画祭コントロコレンテ部門で主演男優賞を獲得したほか、07年の主演映画「モンゴル」は米アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた。また「トーリ」(04年)やオムニバス「R246 STORY」(08年)の1編では監督も務めた。 

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