ダンダダン
第8話「なんかモヤモヤするじゃんよ」
11月21日(木)放送分
尼子騒兵衛さんによる人気漫画「落第忍者乱太郎」(朝日新聞出版)を原作にした国民的アニメ「忍たま乱太郎」が、「妖怪大戦争」「ヤッターマン」、さらには本格時代劇「十三人の刺客」などで知られる三池崇史監督によって実写映画化され全国で公開中だ。三池崇史監督に撮影についてや主演の加藤清史郎君について聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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「落第忍者乱太郎」は86年から朝日小学生新聞で連載されており、93年にはアニメ化され、現在もNHKEテレで放送が続いている。時は戦国時代。忍者の“たまご”の乱太郎が、一流の忍者を育てるための学校「忍術学園」に入学し、仲間たちとともに学ぶ姿が描かれている。映画では、加藤清史郎君が乱太郎にふんし、きり丸(林遼威君)やしんべヱ(木村風太君)といった「一年は組」の仲間たちが登場する。そのほか平幹二朗さんや中村玉緒さん、鹿賀丈史さん、松方弘樹さんといったベテラン俳優が、奇想天外な特殊メークで登場し、普段見ることのないギャグを連発するなどの“熱演(怪演?)”を見せている。これまでも、「過去に作ってきたものを大事にし、その範囲内でやってきたことを守ろうとする人より、そういうものを捨て去り、まだ自分は何もやっていません、これからです、という俳優をだいたいキャスティングしてきた」と話す三池監督に、撮影秘話や作品に込めた思いなどを聞いた。
「もともとはじけた方なんですよ。ただ、その(はじける)場がないだけ」と監督は評する。だが、それにしても今作における忍術学園園長・大川平次渦正を演じた平さんのはじけっぷりには驚く。大胆にもヌードシーンまで披露している。台本上は最初からそうなっていたそうだが、三池監督が「まさかこちらから(パンツを)脱いでとは言えない」と躊躇(ちゅうちょ)していたところ、逆に平さんから「監督、ここは脱いだほうがいいですかね」と提案され、「そりゃあ脱いだほうがいいですけど……」と“問題”の温泉シーンが出来上がったという。
そうした平さんの化けっぷりもさることながら、古田新太さん演じる“食堂のおばちゃん”も、テレビアニメに登場する肝っ玉かあさん的キャラとは異なり、監督いわく「すっごい機嫌の悪いおばさん」と化している。マンガやアニメを実写化する際、原作に忠実である必要はないが、ビジュアルがイメージとかけ離れ過ぎていると、原作ファンにそっぽを向かれかねない。そのため、ある程度は原作に配慮せざるを得ないし、加えて必ずしも原作者が映画ならではのデフォルメに賛同してくれるとも限らない。
しかし、そこはこれまで、「クローズZERO」や「ヤッターマン」といったマンガやアニメの実写映画化をこなしてきた三池監督は「(原作を)リスペクトしているということが原作者に伝わっていれば、あとはこちらがキャラクターを預かって、考えている形でやればいい。ようは、(作品やキャラクターを)愛しているということが原作者に理解してもらえればいいのです」と持論を展開。ちなみに今回、原作者の尼子さんときちんとした話し合いの機会を持ったのは撮影前に一度きりだったそうだが、その時点で互いの信頼関係を築くことができたという。
主人公は09年のNHK大河ドラマ「天地人」に出演して以来、天才子役の名をほしいままにしてきた加藤君が演じた。その名子役ぶりは、今作でも遺憾なく発揮されており、まん丸めがねで青地に○と#文様の忍者服姿の彼は、まさに乱太郎そのもの。そんな加藤君の“特殊性”について三池監督は次のように語る。
「小さな役者じゃなくて、普通の少年であること。普通のいいヤツというのかな。業界のマニュアルで生かされているのではなく、普通の感覚で生きている。可愛いんですよね。彼の演技が好きというより、加藤清史郎が幸せになるといいなという愛情を持つんですよ。だからみんなに好かれるし、おのずと頑張れと応援したくなる」とその人間性を手放しで褒める。その一方で「せりふを音でちゃんと聞くし、そのシーンがなんのためにあるのか、映画の一秒一秒にどういう意味があるのか分かっている」と演技力の高さも認める。
具体例として、三池監督は、撮影中のあるエピソードを紹介した。最近の三池監督の現場ではワイヤレスマイクを使っているためチャンネルさえ合わせれば俳優一人一人の声が聞こえるという。ある本番前、加藤君の声を拾ったところ、「あー、今の笑顔じゃだめなんだ。ここで出会ってこうなんだから、そういうことじゃないんだよな」と独りで話している声が聞こえたという。そして相手の子役にも「今のはこうだから、こうじゃなきゃだめなんじゃないかな」と話し合っていたという。そんな加藤くんを三池監督は「そういう意味ではプロ」と絶賛する。
これまで数々の作品を世に送り出し、新人からベテランまで大勢の俳優と仕事をしてきた三池監督をもってしても、「感覚的には天才的なところがある」と言わしめる加藤くん。その天才ぶりを、改めてこの「忍たま乱太郎」で確認してほしい。
ところで、最近の映画は、市場の流行をリサーチし、ウケることがある程度約束されたもので、かつ、広く、多くの人々の共感を得やすいものを作ろうとする傾向にある。今作「忍たま乱太郎」もその流れで生まれたものであることは、監督本人も認めている。忍術学園の上級生たちを主役にしたミュージカル演劇の人気が高いことも知っている。だからといって、安易にその流れに迎合するつもりはなかった。
「『忍たま乱太郎』をやるからには、『忍たま乱太郎』の欠点がなければいけないんです」。“忍たま乱太郎の欠点”とは、つまり「主人公を落第生として扱い、彼らが立ち直る話ではなく、ダメなものはダメなままでいい」とする点。ところが周囲は、その欠点を取り除くことで「映画というコンテンツとして、一般の人がもっと楽しめるようにする」ことを考える。それを三池監督は「全否定した」。自分が監督した「忍たま乱太郎」は、「いい映画じゃダメ。たまたま感動しちゃった、ぐらいのことはあってもいいけど、心底感動しちゃダメなんです」と強調する。
「ワクワクした感じが、今の映画にはほとんどない」ことも、業界に身を置く人間として痛感している。だからこそ今作を「気楽に見てもらって、あ、いいね、みたいに考えてほしい」と考えている。そして願わくば、これを見た子どもたちが、「映画って簡単そう。これだったら僕でもできるぞ。映画、作ろうよと思ってもらえればいい」と話す。どうやら今作は、子供から大人までが楽しめるファミリームービーである以外に、三池監督の、映像作家の“たまご”を生むきっかけとなってほしいとの思いも込められているようである。
<プロフィル>
1960年、大阪府出身。日本映画学校を卒業後、今村昌平監督や恩地日出夫監督に師事。91年に監督デビュー。以来、極道モノからアクション、ホラー、ファミリー向け、青春モノなどジャンルを問わず作り続け、映画業界内では器用な作り手として名高く、海外での評価も高い。10月には、今年のカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された時代劇「一命」の公開を控えている。他の主な作品に「着信アリ」(04年)、「妖怪大戦争」(05年)、「クローズZERO1、2」(07、09年)、「スキヤキ・ウェスタン ジャンゴ」(07年)、「ヤッターマン」(09年)、「十三人の刺客」(10年)など。
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