ドラゴンクエスト(ドラクエ)の次回作「10」(Wii、Wii U)がオンラインゲームになることが発表された9月5日、そのニュースはゲームファンばかりでなく、投資家にも衝撃をもって受け止められた。開発・発売元のスクウェア・エニックス・ホールディングスの株価はニュースが流れた直後に急落。現在も下げ続けている。オンラインゲーム化はファンの不評ばかりでなく、相場からも嫌気されている。だが一方で、テレビゲームのオンラインゲーム化の流れは避けられないと見る関係者は多い。株価が下がった訳は? オンラインゲームはなぜ嫌われるのか? ドラクエのオンラインゲーム化に伴う四つの疑問を追った。
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今回、スクエニ株が急落した背景には、同社のもう一つのビッグタイトル「ファイナルファンタジー(FF)」が過去2回、「FF11」(02年発売・サービス開始)と「FF14」(10年9月発売)でオンラインゲーム化されており、その際、ソフトの売り上げ数が激減するなど、“つまずいた”とのイメージを残していることがある。「FF11」は日米欧で最盛期に約50万人の有料会員を抱えたが、FFシリーズのソフトの売り上げは通常、日本だけでも200万本前後売れるビッグタイトルで、「FF13」は世界でも600万本を売っている。この数字の違いがオンラインゲーム化はうまくいかないというイメージを世間に植え付けた。
しかし、買い切りで終わるパッケージソフトとは違い、オンラインゲームは課金というビジネスモデルに違いがある。確かに売り上げの数だけを見るとFF11ははるかに見劣りするが、04年の中間決算の時点で既に同社のオンラインゲーム事業は黒字化を達成し、以後は長期にわたり高い収益を上げており、経営的には大成功している。ちなみに「FF14」のつまずきは、ゲームの完成度が不十分のまま正式サービスに踏み切ろうとしたためで、オンラインゲーム化が直接の原因ではない。
ゲーム雑誌「ファミ通」を発行するエンターブレインの浜村弘一社長は「株価の急激な下落は、FF11のことを知らない人たちが反応したのだろう。FF11は、(年間の月額利用料だけで)ソフト3本分にあたる売り上げを生み出し、スクウェア・エニックスの収益を支えている」とみている。
今回のオンラインゲーム化は投資家ばかりでなく、インターネットでゲームの情報を積極的に発信するようなファンの間でも不評だ。オンラインゲームは、パーティーを組んで一つの目標に向かって立ち向かい、仲間とは濃密なコミュニケーションが楽しめるといった従来のテレビゲームにない魅力がある。一方で、仲間のほしいアイテムを取るのに協力せざるを得ないといった人間関係のわずらわしさなどもあり、長時間を費やして遊ぶことで希少なアイテムが手に入る仕組みになっていることが多い。そのため毎日短時間で遊ぶようなライトユーザーには向かず、ヘビーユーザー向きとされており、オンラインゲーム化は従来のドラクエファンからユーザーを限定してしまうということで嫌われる原因となっている。
そもそも収益を上げているFF11が世間から成功と見なされなかったのは、有料会員数が通常のパッケージソフトで得られるFFの売り上げ本数にはるかに及ばないためで、その原因はライトユーザー層の取り込みができていないためだ。今回の「10」が成功したといえるには、パッケージソフトの固定ファンがそのままオンラインゲームに移行する。いわばライトユーザー層をどれだけ取り込めるかが大きな成否を握っている。
そのため「10」はライトユーザーへの敷居を低くするさまざまな仕掛けを施しているという。開発を指揮するシリーズ生みの親でゼネラルディレクターの堀井雄二さんは発表会で、従来のパッケージソフトのように仲間がいなくても1人でもAI(人工知能)キャラクターを連れて気軽にプレーできることを強調。さらにゲームをしない時、自分の分身となるキャラクターをオンライン上に預けることで経験値が上げられるなどの工夫があり、短時間でもゲームを止めやすく、既存のオンラインゲームの課題を克服できるという。また、既存のオンラインゲームのような複雑な操作は必要なく、これまで通りの「ドラクエ」の操作で、魅力的な冒険が楽しめることも繰り返した。
スクエニがオンラインゲームを志向するのは、FF11での経営的な成功もさることながら、「人とつながって遊ぶ」というゲーム市場のソーシャル化の流れと無縁ではない。
現在ゲーム業界は、携帯電話のソーシャルゲームが市場を席巻しており、利用者も10~30代と幅広い層の支持を得ている。テレビゲームが要求される技術の高度化やソフトの複雑化、それに伴う開発費の高騰に悩む中、ソーシャルゲームは短期間で開発し、顧客の囲い込みが容易で、アイテム課金で高い収益性を誇るなどビジネス的にも成功している。こうした背景もあり、ゲーム関係者の間で「次はソーシャルゲームの時代だ」という声は日増しに強くなっている。
そうしたゲームのソーシャル化の流れは家庭用ゲーム機の世界でも例外ではない。ゲーム機のネットワーク接続の技術は既に進んでおり、無線通信で協力プレーの楽しさを説いた「モンスターハンターポータブル」シリーズ(カプコン)が「3rd」で約450万本を販売し、「ドラゴンクエスト9」(約415万本)を上回るヒットを記録(いずれもエンターブレイン調べ)。通信を使った協力プレーの魅力はヘビーユーザーからライトユーザーへと広がりつつある。また「ドラゴンクエスト9」の「すれちがい通信」は社会現象化した。浜村社長は「ソーシャルゲームの原点は『人とつながって遊ぶという意識』で、そういう意味ではモンハンもドラクエ9もソーシャルだ」と指摘する。
それでもファンや投資家の拒否反応が強いのは、月額課金やアイテム課金というオンラインゲームの課金制度への不信感が根強いためだ。パッケージソフトは一度購入すればお金はかからないが、オンラインゲームやソーシャルゲームを十分に楽しむためには、継続してプレー料金の支払いやアイテム購入が必要となり、ゲームのメーンユーザーとなる子どもには敷居の高いものとなる。だが、スクエニは「10」の課金制度について明らかにしていない。
今回、株価が下がったり、ユーザーの不安や不信の声がネットであふれたのは、FFでのオンライン化の失敗というイメージが先行したという理由があるが、その後も、株価がジリジリと下がっているのは、シリーズ初の本格的なオンラインゲームにもかかわらず、課金制度を中心とした情報不足が大きく影響しているようにみえる。
課金については「あらかじめパッケージの価格に含めるなど方法はある」(浜村社長)という指摘もある。発表会見で堀井さんは「ドラゴンクエストの名前が付く以上、手軽に短時間でも遊べるようにしたい」と語り、ライトユーザーにも支持される新たなオンラインゲームの姿を追求しようとの意気込みがみてとれた。今後は課金などについて早い情報開示はもちろん、誰もが気軽に参加できる課金制度の構築が求められるだろう。(毎日新聞デジタル)
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