「海猿」の原作者として知られる小森陽一さんが、警視庁に実在する「警備犬」を徹底取材し、それを原案に作られた映画「DOG×POLICE 純白の絆」が全国で公開中だ。正義感が強く血気盛んな警察官、早川勇作と、血統は優秀ながら劣勢遺伝(アルビノ)として生まれた純白のジャーマンシェパードのシロの活躍を描く。早川を市原隼人さんが演じるほか、彼の同僚で教育係の女性ハンドラー、水野夏希役に戸田恵梨香さん、2人の上司・向井寛役を時任三郎さんが演じている。「従来とは全く異なるアクションエンターテインメントにしたかった。そのために僕自身が見たことのない映像を目指した」と語る七高剛監督に撮影のエピソードや見どころなどを聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)
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犬が登場するとなれば、多くの人は癒やしの映画だと思うだろう。ところが、冒頭のショッピングモールの爆破シーンには度胆を抜かれる。七高監督は「どうしても冒頭で、これは癒やしの映画ではないことを宣言したかったんです」と、その意図を話す。
ロケーション担当のスタッフが日本全国のショッピングモールに当たり、やっと広島の複合商業施設から許可をもらい実現できたというそのシーンは、通常ならCG処理で済ませるような場面だが、CG嫌いの七高監督はこのシーンに限らず、俳優や動物に危害が及ばない限り、あくまでも“本物”にこだわった。「画の迫力もそうですが、俳優にとっても迫る演技というのは、そういう状況下にあった方がやりやすい」と思ったからだという。
七高監督が、今作のオファーを受けたとき、まず浮かんだのが、「火の海に包まれ、犬と主人公が絶体絶命の境地に陥る映像」だった。「それをシーンとして起こしてみたい」、そこから製作が始まった。ならば爆弾魔がいた方が効果的ではないか。実際、警備犬は、災害救助に当たったり、爆発物の検索など犯罪を未然に防ぐのが仕事。それを踏まえて、小森さんの取材内容を基に、脚本家の大石哲也さんと物語をふくらませていった。ちなみに、火の海のアイデアは、クライマックスでしっかりと使われている。そして、「隼人くんも、恵梨香ちゃんも、(火によって)熱い思いをしたと思いますが、素晴らしい演技をしてくれました」と納得のいく映像に仕上がったようだ。
商業施設を実際に爆破したり、犬を火で取り囲んだり、そんな邦画の製作現場では無謀ともいえることに七高監督があえて挑むのは、ニューヨークの大学で4年間映画を学んだことが、少なからず影響している。「リミテーション(制約)を作らないということは向こうの学校で学んだ。例えば、これくらいのレベルの映画だったら、これくらいでいいよねと上限を自分の中で作ると、それはスタッフによってどんどん下げられてしまう」。冒頭の爆破シーンも、実は最初、躊躇(ちゅうちょ)したという。スタッフに相談すると「コーヒーショップの屋根が飛ぶ」程度にまでレベルが下がっていった。犬を火の海の中に入れるというアイデアも、「何を考えているんだ」と反発を食らった。「でもそれでは面白くない」「娯楽としての映画は作れない」と発奮。「なんとかして面白い画を撮りたいと突き進め、障害を少しずつ突破していった」と打ち明ける。
最近は、映画でもテレビドラマでもCMでも、批判が起こらないよう、予防線として「これは演出です」などのテロップが流れる。もちろんそうする事情は七高監督も理解している。だが、映画については、「そこから一線を越えてもいい」と考えている。「2時間という限られた時間の中で楽しんでもらいたい」。何より「観客の皆さんには(当日券で)1800円を払っていただいている。それに見合うだけの画と迫力を追求したい」という意識が強いからだ。
同時にそこには、七高監督自身が「観客を信じる心」がある。今回表現したかったことの一つに「あまりせりふを多くせず、芝居で感情を表現する」ということがあった。これには、じゃべらせた方が感情が分かりやすいのでは、という意見もあったが「お芝居としてしっかり見せれば、観客はエモーショナルな部分でついていけると僕は信じている。ですから今回はそういう作りを心掛けました」と振り返る。
撮影は、3月上旬、広島での爆破シーンから始まった。それがスムーズに済み、これからだと思っていた矢先の東日本大震災が起こった。警備犬訓練所として茨城県に作られたセットが倒壊するなど、撮影は3週間ストップした。このまま進めるべきか否か現場も悩んだという。実は七高監督は神戸出身で、95年の阪神大震災のときに知人を亡くし、親戚も家が倒壊するなどの被害に遭っている。そうした経験を元に、10年には、自ら企画し演出した「嵐」の櫻井翔さん主演のドキュメンタリードラマ「阪神・淡路大震災から15年 神戸新聞の7日間」が放送されている。だからこそ「今回のことも人ごとではなかったですし、こんな状況だからこそ負けていられない」と奮起した。「被災された方の現状を見ると、セットの倒壊などささいなこと。いつかこういうエンターテインメント作品が必要になる時期が必ず来るはず。そう思って、キャストやスタッフが一丸となって撮影に臨みました」と力を込める。
そうして完成した今作を、七高監督は「いままで見たことのないアクションエンターテインメント作」としながら、「その中でもバディー犬だったり、仲間だったり、人間同士の絆、動物との絆をヒューマンタッチで描いているので、アクションとヒューマンの両面で楽しめる娯楽作になっているはずです」と胸を張る。そして、「次回は東京スカイツリーあたりを使って、もっと迫力のある画を撮りたい」とシリーズ化に意欲を見せる。なるほど、確かに「リミテーションを作らない」監督だ。
<プロフィル>
高校生のときに、マーティン・スコセッシ監督やオリバー・ストーン監督などニューヨーク出身の監督作品にかぶれ、当初希望していた西海岸の大学から進路変更し、ニューヨークへ。94年、ニューヨーク大学映画学科卒業後、1年間現地で仕事をし、その後帰国。伊丹十三監督、本広克行監督、羽住英一郎監督などのドラマや映画で助監督を務め、01年にドラマ「G‐taste」で監督デビュー。09年、劇場映画「LONG CARAVAN」を監督。主なテレビドラマに「トップキャスター」(06年)、「猿ロック」(09年)、「警視庁失踪人捜査課」(10年)など。また、自ら企画、演出したドキュメンタリードラマ「阪神・淡路大震災から15年 神戸新聞の7日間」(10年)はギャラクシー賞奨励賞に輝いた。初めてハマったポップカルチャーは、テレビで見た、ブルース・リーやジャッキー・チェンさんなどの70年代の香港カンフー映画と、クリント・イーストウッドさんやジュリアーノ・ジェンマさんが出演した60年代のマカロニウエスタン作品。
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