「安芸の小京都」と呼ばれる広島県竹原市を舞台にしたテレビアニメ「たまゆら」が、江戸時代の家屋を残す美しい町並み、瀬戸内の穏やかな自然などをアニメで再現して話題となっている。県外からもファンが訪れているという現地の盛り上がりを追った。(毎日新聞デジタル)
ウナギノボリ
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「たまゆら」は、亡き父の故郷の竹原に戻ってきた写真好きの女子高生・沢渡楓(さわたりふう)の日常と、友人3人との交流を中心に描いた心温まる物語だ。日常の幸せを丁寧に描いた青春ストーリーと共に話題になっているのが、アニメで描かれる場所がそのまま現地に登場することだ。
重要伝統的建造物群保存地区になっている同市本町をはじめ、近隣の呉や忠海、大崎下島なども描かれる。特にファンの間では、竹筒にろうそくをともして夜の町をライトアップする同地の秋の風物詩「憧憬の路」を題材にした第7話が人気で、その存在をアニメで知ったファンが、実際の「憧憬の路」(10月29~30日)が放送前にあったことを惜しんだという。佐藤順一監督が偶然に体験した雨上がりの夜に輝く「憧憬」の美しさに感動してアニメにしたのだが、そのアニメの出来の良さが、結果として若い世代に町の魅力を売り込む“武器”になったのだ。
効果は目に見えて出ている。竹原は元々、古い町並みを目当てに年配の観光客ばかりだったが、19~20日のイベントでは既存の観光客に加えて若いアニメファンが殺到。グッズの購入やモデルの店に長い列ができた。また、訪れた人たちが多く、同地で宿泊の予約が取れないため、近隣の町のホテルに泊まったり、車中で一夜を明かした人もいるほどで、イベント中の若い人の多さに、地元の人たちも驚いていた。
実際にアニメに出てくるお好み焼き屋「ほぼろ」のモデルになった同地の人気店「ほり川」には、アニメの放送後から「アニメを見た」という県外からの若い客が訪れて、食事をしているという。
アニメで実在の町をモデルにすることは、関係者やファンの間ではよく知られており、「らき☆すた」の舞台となった埼玉県久喜市と幸手市、「あの花」の埼玉県秩父市はその代表例だ。しかし、基本的には、アニメのシーン中に本物の地名を入れるのは、トラブル防止の観点から避けており、あくまでもモデルにとどめているが、「たまゆら」は、この“慣習”を破っている。松竹の田坂秀将プロデューサーは「『日常にある幸せ』をテーマにした作品なのに、架空の町だとファンタジーになってしまう。本物の町であってこそ視聴者のイメージもわく」と明かす。
そのため関係者と折衝を重ねた。竹原市はもちろん、第1話で登場する神奈川県横須賀市、駅名を使ったJR西日本にも話を通した。カメラの名前も本物にするため、キヤノンやニコンの協力を取り付けるなど時間はかかったという。だが、アニメの舞台が各地をモデルにした事例も多く、町おこしに一役買っていることから、理解を得られるのも早かったとも。
竹原市は、市役所にアニメの看板を掲げ、月の広報誌の表紙に取り上げているなど積極的で、来年2~3月に開かれる「たけはら町並み雛(ひな)めぐり」でも、「たまゆら」のキャラクターをポスターに起用してアピールしている。
同アニメはもともとテレビで放送しないOVAから始まったが、人気を受けてテレビアニメとなった。今後の展開次第では、実名を使ったアニメの手法が増えるだけでなく、町おこしに頭を悩ませる地方自治体の引きあいもありそうだ。
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