ライアーゲーム:劇場版「再生」松山博昭監督に聞く 「勝つことがすべてじゃない」が今作を象徴

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 テレビドラマの劇場版2作目として今年3月に公開され、興行収入21億円を記録した大ヒットした映画「ライアーゲーム−再生−」のDVDとブルーレイディスク(BD)が19日に発売された。「ライアーゲーム」は、甲斐谷忍さんの人気マンガが原作で、戸田恵梨香さん演じる女子大生、神崎直が巨額の金額を賭けてだまし合う「ライアーゲーム」に巻き込まれ、松田翔太さん演じる天才詐欺師・秋山深一と共に頭脳戦に挑むサスペンス。07年と09年にテレビドラマ化され、10年には劇場版「ライアーゲーム ザ・ファイナルステージ」が公開された。今回の「再生」では、謎の復活を遂げたライアーゲーム事務局が秋山つぶしを仕掛け、それに秋山が挑むというストーリー。今作オリジナルのヒロインとして、多部未華子さん演じる篠宮優が登場。テレビシリーズから演出を手掛け、このシリーズとはかれこれ5年の付き合いになるという松山博昭監督に撮影裏話などをたっぷりと聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

ウナギノボリ

 ◇神のお告げあり?

 −−「ライアーゲーム−再生−」を改めて振り返ってのご感想を。

 いやあつらかった(笑い)。昨年の10~11月の2カ月で撮ったんですが、キャストがそろったのが11月。全員が集まるシーンの9割がたは、後半の1カ月で撮りました。お陰で、その1カ月間、休みは3日間しかなかった。僕が普段かかわっている連続ドラマでさえ、7日以上撮り続けることはない。それよりもハードなスケジュールで撮っていました。

 −−今回はシリーズ史上最高傑作といわれ、また、原作ファンの間では「意外なオチ」として知られる“イス取りゲーム”を扱いました。映画化に当たって配慮した点は?

 原作では、桐生(新井浩文さん)と張本(船越英一郎さん)という2人のプレーヤーが主体で物語が進みますが、映画の主人公は飽くまでも秋山(松田さん)。ですから、彼のクライマックスシ−ンが最後にくるようなストーリーを考えました。

 −−今回のヒロイン篠宮優は映画オリジナルキャラクターです。前作までのバカ正直で人がいい神崎直とは違って、自分の損得勘定で動くようなところがありますね。そんなキャラクターに多部さんを起用した理由は?

 多部さんは芯の強さとはかなさの両方を持っている。それに加えて目に独特の力がある。篠宮はおっしゃる通り、完全な善人ではありませんが、彼女ならそれを表現できると思ったんです。

 −−松田さんとは、今回どんなやりとりをなさったのでしょう。

 これまでの「ライアーゲーム」のコンセプトは、ゲームに参加してきた悪いやつらが、神崎直というヒロインとかかわったことで正直者になっていく話。その中に松田さんが演じる秋山も含まれていた。今回は、その秋山が新たなゲームに参加して、本来の戦い方……だまし合うことより信じ合うことの方が強いということを、それを知らない少女、篠宮優に教えるという物語。だから今回は、その成長した秋山をやってみせてくださいと最初にお話ししました。劇中、秋山に「ライアーゲームは勝つことがすべてじゃない」といわせていますが、あれこそが、これまでの秋山ではない一番の象徴(的なせりふ)なんです。

 −−演じ終えた松田さんを見てどう思いましたか。

 もともと秋山のキャラクターというのは26歳ぐらいの設定なんです。テレビシリーズが始まった当初は、松田さんは21歳。それから5年たって、秋山のもともとの年齢に彼自身が近づいてきた。松田さん自身の円熟味、安定感といったものが、今回の秋山にフィードバックされたと感じています。実際、撮影中モニターを見ながら、今回の秋山には大人の色気が漂っていて、カッコいいと思いましたよ。

 −−プレーヤーとして登場する小池栄子さんが異彩を放っていました。

 彼女が演じた月乃エミというキャラクターは、これまでずっといじめられて育ってきたせいで卑屈になり、自分に自信が持てず、長いものに巻かれてしまうタイプの人間。小池さんご本人が「いままではいじめる役のオファーが多かったから、こういう役は非常に面白い」といってくれました。小池さんはそれを完璧に演じてくれたし、彼女のお陰で作品に深みが増したと思います。

 −−小池さんの出演には紆余(うよ)曲折あったそうですね。

 紆余曲折というか、当初はスケジュールが合わず彼女の出演をあきらめかけたんです。そうしたらうまい具合に調整がついて、彼女が戻ってきてくれた。前回の「ザ・ファイナルステージ」のときも、田辺誠一さんと荒川良々さんで同様のことが起きていて、あの2人が戻ってきたとき、神のお告げじゃないですが、うまくいくと確信しました。だから今回も、小池さんがOKになり、実は当初スケジュール調整が難しかった多部さんからもOKが出たとき、うまくいくかもしれないと思ったんです。

 ◇「なんでヨコヤがいるんだ!」

 −−今回のDVDとBDのプレミアムエディションには2本のスピンオフ作品が収録されていて、その1本では、芦田愛菜ちゃんふんするアリスが、なぜライアーゲーム事務局の人間になったのかが明かされています。

 芦田愛菜ちゃんは人気子役なので、ぜひ映画に出演してほしかった。ただ、彼女をプレーヤーとして登場させるのは、スケジュールの都合もあり難しかった。ならばと、事務局サイドの人間として登場させることにしました。それを決めた段階で、江角マキコさんが演じる、やはり事務局の人間Ω(オメガ)との関係をスピンオフで描こうと考えました。

 −−原作ファンの間で根強い人気を誇る福永ユウジ(鈴木浩介さん)が、今回は事務局側の人間に協力させられるという設定で登場します。

 浩介さんには、本編のゲームに出てもらいたかったんです。でもスケジュールが合わなかった。だけど少しでも出てほしい、出られないなら浩介さんのアップから始めたいという思いがあり、考えた末に、ファイナリスト一人一人が事務局に呼ばれてゲームをするという設定にしたんです。そのときの対戦相手をヨコヤノリヒコ(鈴木一真さん)と決めたのは撮影の数日前。彼らのからみでスピンオフを作り、映画の冒頭につなげようと考えついたのはそのあとです。だから浩介さんは、現場に来るまで、誰が対戦相手か知らなかった。当日現場に来たとき鈴木(一真)さんを見て、「なんでヨコヤがいるんだ!」と驚いていましたよ(笑い)。

 −−DVDやBDならではの見方を。

 映画は、大きなスクリーンで大音量で見るよさはありますが、「ライアーゲーム」については非常に情報量が多いですし、あえて説明しない情報がたくさんある。しかも役者が多く、裏でいろんなことをしているので、DVDやBDで家で繰り返し見ることで初めて分かることがたくさんあるはすです。半面、細かい情報がなくても楽しめるように作っているつもりです。そのためにキャストのみなさんには、大変なことが起きる場面ではその都度、“逆転”の度合いをリアクションで表現するよう演出しています。ですから1度目は、登場人物の感情の展開を素直に見て、2回目、3回目であそこはどうだったっけと考えながら見るといいのではないでしょうか。

 −−それぞれのキャラクターに集中して見るといいですね。

 どうでしょう、20人いますからねえ。20回再生はきついかも(笑い)。今回は、第4の勢力として、秋山、張本、桐生のどの“国”にも属さない“ガヤ(外野)”というプレーヤーたちが登場しますが、その中の嶋(池田鉄洋さん)のリアクションに注目するといいかもしれません。彼もかなりうその芝居をしていますから。

 −−「ライアーゲーム」シリーズが一段落ついたところで、今後やってみたい作品は?

 最近演出したテレビドラマ「鍵のかかった部屋」もミステリーでした。このところそうしたミステリーやサスペンスものが続いているので、このへんで恋愛ものがやりたいですね。

 <プロフィル>

 1973年生まれ。岐阜県出身。フジテレビジョン編成制作局ドラマ制作センター所属ディレクター。テレビドラマ「ライアーゲーム」シーズン1(07年)、シーズン2(09年)の演出を手掛け、10年に公開した「ライアーゲーム ザ・ファイナルステージ」で映画監督デビュー。今作が劇場用映画2作目の監督作。テレビドラマの演出に「鍵のかかった部屋」(12年)、「幸せになろうよ」(11年)、「ハチミツとクローバー」(08年)などがある。初めてはまったポップカルチャーは「機動戦士ガンダム」。

*「ライアーゲーム−再生−」

「プレミアム・エディション」19日発売。BD:3枚組み(本編BD+特典映像BD+特典映像DVD)、9135円。DVD:3枚組み(本編DVD+特典映像DVD2枚)、8190円。※BD、DVDともに特典映像には「フクナガVSヨコヤ」「アリスin LIAR GAME」のスピンオフ2本と、キャストインタビューや舞台あいさつ集を収録。封入特典あり。/「スタンダード・エディション」19日発売。BDは4935円、DVDは3990円。発売元:フジテレビジョン、販売元:ポニーキャニオン (C)2012 フジテレビジョン/集英社/東宝/FNS27社

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