周防正行監督が朔立木(さく・たつき)さんの短編小説を読んですぐに映画化を思い立ったという「終の信託」が27日、公開される。女性医師と患者の間に生まれた愛を描く。尊厳死(リビングウィル)という重いテーマを、シンプルな構成と俳優の迫力あるせりふ劇で見せていく。周防監督は「Shall we ダンス?」(96年)以来、16年ぶりに草刈民代さんと役所広司さんにコンビを組ませた。
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97年。折井綾乃(草刈さん)は、地方病院の呼吸器内科の医師で患者からの信望も厚い。長い不倫関係にあった同僚医師の高井(浅野忠信さん)に裏切られて自殺未遂を起こし、そのことが院内に知れ渡ってしまう。そんなとき、受け持ちの患者である江木泰三(役所さん)にプッチーニのオペラのCDを手渡される。江木は気管支喘息(ぜんそく)の患者で、症状が次第に悪化していた。死期が迫っていると自覚した江木は、綾乃に最期のときを託すが……。
少々感情に流されやすい女性医師の綾乃と意志の強い患者の江木。性愛とは違った愛情関係で結ばれていく長い時間を、丁寧に積み重ねて見せている。公開中の「アウトレイジ ビヨンド」にも、オペラを見ているようなシーン(関東と関西のヤクザが怒鳴り合っているところなど)があり“音楽”を感じたが、この作品にも同じく“音楽”感じた。プッチーニの有名なオペラの旋律がポイントとなっているが、ぶ厚い雲が垂れ込めているような重い伴奏の中、俳優のはき出すせりふが旋律となって、ピアニッシモからフォルテッシモへと鳴り響く。どの俳優の芝居もスクリーンを超えてこちらに迫ってくるようだ。検察の取調室の密室劇では、鼓膜がビリビリした。
「エンディングノート」など自己の死の迎え方が話題になっている今、「終末医療」や「尊厳死」について考えるきっかけを映画は与えてくれる。久々に見ごたえのある2時間超えの作品だった。27日からTOHOシネマズ日劇(東京都千代田区)ほか全国で公開。(キョーコ/毎日新聞デジタル)
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