ドラゴンボールDAIMA
第11話 デンセツ
12月23日(月)放送分
話題のライトノベルの魅力を担当編集者が語る「ラノベ質問状」。今回は、「サエズリ図書館のワルツさん」(紅玉いづき著、sime画)です。星海社の山中武さんに作品の魅力を聞きました。
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−−この作品の魅力は?
皆さんは本がなくなる未来を想像できるでしょうか?
先日ついにAmazonよりKindleの日本での展開が報じられました。また、競合他社もあの手この手で新製品を投入し話題をさらっています。いよいよ日本にも電子書籍が浸透し始めるのか……、というこんな時期だからこそオススメしたいのが本作です。
この作品は、電子書籍が当たり前になり、その半面、本がものすごく貴重になってしまった近未来……そんな剣呑(けんのん)な世界にもかかわらず、のどかな町中にそっとたたずむ不思議な図書館での物語です。登場するキャラクターたちが、図書館の中で本や人に出会い、そこで語られていく物語が輪郭となって、少しずつこの世界があらわになっていきます。
登場キャラクターたちもみんな一癖あって魅力的です。特に主人公のワルツさんは、そこにいるだけでほわっとしてしまいそうな温かいキャラクターですが、その深い本への愛情ゆえに、少し怖い、と思ってしまうこともしばしば。私自身、担当としてワルツさんがこれから何を感じ、変わっていくのか、それとも変わらずこのままなのか、というところはとても気になっています。
個人的に好きな回は第3話の「サエズリ図書館のモリヤさん」。紅玉さんの深い眼鏡愛(?)を感じていただけると思います。
−−作品が生まれたきっかけは?
元々紅玉さんの作品が好きで、最初にお仕事をさせていただけるなら紅玉さんにお願いできれば、と考えていました。その後幸運にもご縁がありまして紅玉さんにお目にかかったときに、こういう作品を書いてみたい、とお話をうかがったのがきっかけです。
最初にお話をうかがった段階でほぼ一巻の大筋はできあがっていたのですが、その時点では各エピソードの道行きはまだ具体的ではなかったですね。ある意味衝撃的な4話のエピソードを最後に持ってこようという打ち合わせをしたのも、かなり初期のころだったと記憶しています。惜しまれつつも閉店となってしまった(丸善丸の内本店の)松丸本舗で資料探しをしたあと、その横の喫茶店で2時間以上、ふたりで頭をひねって構成を考えていたのが懐かしいです。
−−作家さんとイラストレーターさんはどんな方でしょうか。
紅玉さんはお目にかかったときに、いつも最近の面白かったことを話してくださったり、「太田(克史・星海社副社長)が悪い」としきりにおっしゃっていたりと、打ち合わせが毎回スリリングで楽しい方です(笑い)。また、ご自身の作品やキャラクターへの愛情は本当に深く、だからこそ作品のなかでキャラクターたちが魅力的に動いているのですね。こういうときはこのキャラクターはこう動くだろう、というところにまったくぶれがないのです。すごいなあ、と原稿を読んだときはいつも感動しています。
イラストのsimeさんは一枚の絵の中にしっかり世界観を収めてくださる方ですね。作品を丁寧に読み込んでくださったので、作品を読み直したあとに何度も見返したくなるような、すごく密度の高い絵を描いていただけたように思います。今回はむちゃ振りを承知で「図書館をひとつ丸ごと作るぐらいの気持ちでお願いします!」とお願いしたところ、カバーイラストでかなえていただけました。見ていただければ分かりますが、本棚を描くのは大変だったようです……。simeさんの労作、ぜひカバーを広げてご覧いただければと思います。
−−編集者として、この作品にかかわって興奮すること、逆に大変なことについてそれぞれ教えてください。
打ち合わせで大筋の話はするのですが、どういうふうな道行きにするかは完全に紅玉さんにお任せしているので、私自身も原稿が上がってくるまでどんなお話になるかわからないのです。だから原稿が上がってくるのは本当にワクワクしますね。また、イラストが上がってくるのも楽しみの一つです。特にラフのやりとりは真剣勝負ですが、simeさんが作品をどう解釈して、一枚のラフに物語を込めるのか、そこに最初に触れられるのは興奮できるひとときです。
大変なことは、世界設定的に齟齬(そご)がでないか、科学技術の解釈に妙なところはないかなど、細部の確認ですね。この世界観だからこそ生まれる物語なので、作品中には描かれていない部分も含め、かなりの量の確認を紅玉さんと一緒にこなしていきました。量が多いのは大変ですけど、ひとつずつ、世界の中にある未踏の箱を空けていくような作業で、これはこれで楽しいやりとりでもあります。
−−今後の展開、読者へ一言お願いします。
1巻はまだイントロダクションに近いところもあり、これから少しずつこの世界や、ワルツさん自身のこと、そして本の未来が描かれていくことになります。
また星海社ウェブサイト「最前線」で先日行った「電子書籍版試し読み無料配布」のキャンペーンなど、この作品ならではの展開も次々行っていければと思っています。
今後も本好きにはまず間違いなく喜んでいただけると思うのですが、むしろ本にそれほど興味がない人にこそ手に取ってほしい作品です。装丁にもこだわりがあるレーベルですので、本がなくならないうちに、ぜひ手にとっていただければ幸いです。
星海社 編集部 山中武
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