アニメ質問状:「新世界より」 「感情のドラマ」から「存在のドラマ」へ

(C)貴志祐介・講談社/「新世界より」製作委員会
1 / 34
(C)貴志祐介・講談社/「新世界より」製作委員会

 話題のアニメの魅力をクリエーターに聞く「アニメ質問状」。今回は、「新世界より」です。監督の石浜真史さんに作品の魅力を語ってもらいました。

ウナギノボリ

 −−作品の概要と魅力は?

 最近、特に映像化の波が激しく打ち寄せる貴志祐介先生のSF小説です。2011年、PK能力者がはっきりと認識され、社会における存在を紆余(うよ)曲折の歴史をへてギリギリに着地させた世界が、1000年後の日本の利根川流域、神栖(かみす)を舞台に描かれます。PK能力→「呪力」を全ての人間が日常的に使える世界。その神の力と神の立場を安定させるために「人間」が行ってきた歴史の上に成り立っている「薄氷を踏むように時をつむぐ世界」を子供の視点で描いていくのが第1部「12歳編」です。そしてたった2年後の「14歳編」。大人から見たら小さな年月を、子供たちは大きく世の中を見て成長します。その14歳編の中にあるたくさんの別れをへて、最終「26歳編」に突入します。子供としての視点から大人の一員としての目線を手に入れながらもその子供たちは変わることなく「正しい心」を求めて命を懸けた戦いに赴きます。

 ただひたすらに生きようとする人間の核の部分。それぞれが持つそれぞれの「信念」がとてつもない音を上げてぶつかります。文字という映像から実際の映像へ。その音がどんな音なのか、ひとりひとり違った音が感じられると思います。

 −−アニメにするときに心がけたことは?

 心がけているコトには段々とした変遷があります。スタート時、シナリオを作る際には「原作に忠実に」でした。忠実というのは「そのまま」という意味ではなく、「原作の魅力をできるだけ理解してそれをあますところなく描くべき」といった感じです。そして「SF」というジャンルですが、キャラクターを中心に据えて、SFとしてのギミックやビジュアルは説明しないまま進もうと、子供たちの背景にそれは当たり前のモノとしてあればいいといった割り切りをしました。

 キャラクターが動き出してから、実質、絵コンテに入ったころから特に意識していることに「キャラクターはその時にしゃべるべきことだけを口にする」というのがあります。その時の感情に逆らったセリフはやめようと。当たり前のことなんですが、ちょいとセリフで説明されると展開がスムーズで楽な時もあります。でも、感情に対して不自然なら言わせない。言ったら感情のラインは途切れちゃう。そんなしばりも強く付けました。ただし、伊東守だけはその不自然さをリアルとしたりもしています。

 −−作品を作るうえでうれしかったこと、逆に大変だったことは?

 1話のアフレコ後に、翌日たまたま休みだった種田梨沙さん、藤堂真衣さんが食事に参加してくれたんですが、そこで藤堂さんから出たエピソードに感動しました。

 「新世界より」の初イベントが今年春のACEであったのですが、登壇が種田さん(早季)、東條加那子さん(覚)、花澤香菜さん(真理亜)、工藤晴香さん(守)、藤堂さん(瞬)、貴志先生、そして私の7人でした。役者さんも決まった直後で、当然アフレコなどこなしていない状態で皆、初顔合わせのような状態でした。特に主役を引き受けていただいた種田さんは、それまでナレーションがメーンだったため、当然イベント等は初めての経験です。なんとかして仲むつまじさのかけらだけでも出せないかと藤堂さんは考えたそうです。種田さんとの共通の知り合いがいたため、思い切ってその人を介して食事の誘いをしたそうです。すると種田さんは二つ返事でOK。2人はイベントまでの少ない時間で親睦を深めたそうです。イベント当日スタート前も控室で皆をつなげる努力を惜しまなかったそうです。しかしその気持ちは役者全員が持っていたようで(当たり前なのでしょうが)2回目のイベントの際は出演者全員で打ち合わせの飲み会を開くという周到ぶりでした。イベントをこなすというよりは、お客さんを楽しませるための気持ちでいっぱいのようです。うれしいことはたくさんあるのですが、書き切れないので今回はこのエピソードで。

 大変なことは、いくつか設けた作品上の縛りです。現場で一番ネックになったのは「影なし作品」にしようとしたところです。各セクションなんとか対応していただいていましたが、徐々に影を付けないとフィルムが作れないというスタッフも入ってきます。単発で自分がコントロールできるフィルムなら「影なし」も想定内にできるのですが、多くのスタッフで作るテレビシリーズは想定自体が困難になってくるのだと痛感しました。

 音響現場では「12歳→すべて女性の役者」「14歳→男性はすべて男性の役者」と決め込みました。12歳と14歳の差を原作でも強めに描いていたため、思い切って男性たちは役者も変化させてみては?というところからそうなりました。12歳編では、教室の雰囲気を出す「ガヤ」で男性が声を発することができないので、ガヤのために女性の役者さんを呼ばなくてはなりませんでした。

 逆に14歳編、怜という女の子のような男の子キャラクターは、通常なら女性の役者さんが演じるのでしょうが、「男性役者のみ!」と決めてしまったために、怜役の浜添伸也さんには大変な苦労を強いるコトになりました。しかし、これは通常の作り方では出ないであろう味が出て、役者さんは大変かもしれませんが、作品にはプラスになったと思います。浜添さんありがとうございました。

 −−今後の見どころを教えてください。

 14歳編までは切ない人間ドラマが繰り広げられるのですが、17話から始まる26歳編は怒涛(どとう)の勢いで物語が転がるなかに「本当の人間ドラマ」が待っています。早季は全て失ってしまうのか? そこに希望はあるのか? どんな未来が見えるのか? 新世界より放たれたいくつもの信念が最後に収束して作品としての答えを提示することになります。感情のドラマから存在のドラマへ一気に走っていく子供たちに気持ちを合わせて見てほしいです。

 −−ファンへ一言お願いします。

 特に演出を経験しないまま監督を引き受けてしまい、理想と現実のはざまでほうぜんとするコトもあるのですが、助監督のヤマトさん(新世界のお父さん)をはじめ、あり得ないくらい素晴らしいスタッフに囲まれて作品を作っています。おかげで常に前向きな姿勢で作品に向かうことができています。その皆のエネルギーは最終回に向かってドンドン注入され、フィルムからこぼれ出すと思います。お見逃しなく、味わってほしいです(*^_^*)

 「新世界より」監督 石浜真史

写真を見る全 34 枚

アニメ 最新記事