ホビット:ジャクソン監督らに聞く 最新技術での困難な撮影も「映画人生において一番楽しい経験」

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 映画「ロード・オブ・ザ・リング」3部作で知られるピーター・ジャクソン監督が、同じ原作者J.R.R.トールキンによるベストセラー小説「ホビットの冒険」を3部作で映画化。その第1弾となる「ホビット 思いがけない冒険」が14日に封切られた。作品のPRのために、ジャクソン監督と主演のマーティン・フリーマンさん、リチャード・アーミティッジさん、さらに「ロード・オブ・ザ・リング」からの続投となるフロド役イライジャ・ウッドさん、ゴラム役アンディ・サーキスさんがこのほど来日。記者会見の後、ジャクソン監督と、フリーマンさん、アーミティッジさんがインタビューに応じた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

ウナギノボリ

 ジャクソン監督が「『ロード・オブ・ザ・リング』3部作と『ホビット』3部作には、統一感がなければならない」と語る今作の舞台は、「ロード・オブ・ザ・リング」の60年前にさかのぼる。フロド(ウッドさん)の養父ビルボ・バギンズ(イアン・ホルムさん/フリーマンさん)は、魔法使いのガンダルフ(イアン・マッケランさん)に誘われ旅に出る。それは、恐ろしいドラゴンに王国を奪われたドワーフ族とともに、彼らの王国を取り戻すための危険な旅だった。途中、サーキスさん演じるゴラムと出会い、彼が“いとしいしと”と呼ぶ指輪を手に入れ、それによってビルボの運命は大きく変わっていくのだが、その若かりしビルボを演じているのがフリーマンさんであり、ドワーフ族の王で伝説の戦士トーリン・オーケンシールドを演じているのが、アーミティッジさんだ。

 今作は、ハイフレームレート(通常は毎秒24フレームのところ、毎秒48フレームの映写を可能としたもの)という人間の肉眼により近づけた画像を可能にした最新のデジタル技術で撮影されている。それが3D上映されることで映像は精彩さと生っぽさが増し、その上映設備がある劇場では、観客は、臨場感をより強く味うことができる。新しい技術だけに撮影が困難だったことは想像にかたくないが、当のジャクソン監督は「『ホビット』を撮ることが、私の映画人生において一番楽しい経験だ」と苦労などどこ吹く風のようだ。それでも「困難というより撮影に時間がかかった場面」に、狼のような生き物ワーグにドワーフが追いかけられるシーンを挙げ、「ドワーフたちの衣装が重たい上に、特殊メークをしていて、しかも真夏の撮影だった。私はTシャツに短パン姿で快適だったけれど、彼らは1、2テーク撮るとヘロヘロになり、その場に倒れこんでいた」と俳優たちに同情を寄せた。

 一方、撮っていて楽しかったシーンには、フロドとゴラムが初めて出会い、なぞなぞ対決をするシーンを挙げた。台本にすると約12ページ、時間にするとおよそ9分。その間、フリーマンさんとサーキスさんには「長回しで、舞台の芝居のようにやってもらった。アングルを変えて何度かカメラを回した。俳優として、演じがいがある場面だったんじゃないかな」とその努力を称えた。

 266日も要した撮影スケジュールは、フリーマンさんの都合に合わせて調整した。というのも、フリーマンさんが出演する英国のテレビドラマ「SHERLOCK(シャーロック)」の撮影のために、2カ月ほど英国に帰国する必要があったからだ。その間、「スタッフは体力を充電できたし、私も編集ができた」と喜ぶが、それほど、ジャクソン監督にとって、いや今作にとって、フリーマンさんは不可欠な存在だった。

 そのフリーマンさんが演じるのは、平和を愛するホビット族のビルボ・バギンズ。戦いに長けているドワーフ族とは異なり、この第1部「ホビット 思いがけない冒険」においては、「盾や棒といった道具を使っての戦い方をある程度練習し」、身の危険を感じるほどのことはなかったというが、「集中しないとけがをしそうになることはあった」そうだ。むしろ勇気を試されたのは、第2部「ホビット スマウグの荒らし場」(13年12月13日公開予定)に出てくる場面でのこと。「その撮影では水や岩が出てきて、それこそ毎朝、今日も無事に済みますようにと祈っていたよ。すごく怖かったけれど、それについては、いまここで明かすことはできないな」と恐縮していた。

 一方、もう1人の主人公でドワーフの王トーリンを演じたアーミティッジさんには、勇気を試された場面はたびたびあったようだ。中でも深く脳裏に刻まれているのが、プロローグのフラッシュバックのシーン。そこでトーリンは、6体のみにくいオークと戦いを繰り広げるが、「自分が持っていた盾が口にぶつかって唇が切れたんだ。そのときちょうど、第2班の監督をやっていたのが(ゴラム役の)アンディ・サーキス。彼は、血をダラダラ流しながらうなる僕を見て、『大丈夫か』といいながら、『いい感じだ』と満足していたよ。そういうアクシデントは頻繁にあったね」と笑顔ながらも恨み節だった。なんとも痛々しいエピソードだが、そこまでのことをやったからこそ、迫力ある映像とハラハラドキドキ、そしてワクワクの冒険譚(たん)の“序章”が仕上がったのだろう。ぜひとも、ビルボとトーリン、そして、ほかのドワーフたちの勇姿を大きなスクリーンで、できればジャクソン監督が「まさに本物の世界に近づくことができる」と称賛するハイフレームレート3Dで見てほしい。映画は14日から全国で公開。

 <ピーター・ジャクソン監督のプロフィル>

 1961年生まれ、ニュージーランド出身。8歳のときから8ミリカメラで短編映画を撮り始める。87年、「バッド・テイスト」で監督デビュー。その後、脚本も書いた94年の「乙女の祈り」が米アカデミー賞脚本賞にノミネートされ、96年、米映画「さまよう魂たち」を監督、脚本、製作。その後発表した「ロード・オブ・ザ・リング」3部作(01、02、03年)が世界的大ヒットとなり一躍時の人に。05年に「キング・コング」、09年に「ラブリーボーン」を監督、脚本、製作。そのほかに「第9地区」(09年)、「タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密」(11年)などの製作を担当する。

 <マーティン・フリーマンさんのプロフィル>

 1971年生まれ、イングランド出身。「The Office」(01~03年)をはじめとする数々の英ドラマに出演。映画では「ラブ・アクチュアリー」(03年)、「銀河ヒッチハイク・ガイド」(05年)、「ホットファズ 俺たちスーパーポリスメン!」(07年)などに出演。日本ではテレビシリーズ「SHERLOCK(シャーロック)」(10年~)のジョン・ワトソン役でブレーク。今作に加え、「ホビット」3部作の第2部「スマウグの荒らし場」(13年公開予定)、第3部「ゆきて帰りし物語」(14年公開予定)でもビルボを演じる。

 <リチャード・アーミティッジさんのプロフィル>

 1971年生まれ、イングランド出身。「MI-5 英国機密諜報部」(02~11年)をはじめとする英テレビシリーズで人気を博す。日本では「ロビン・フッド」(06~09年)で多くのファンを獲得。また、「キャプテン・アメリカ ザー・ファースト・ベンジャー」(11年)で初めて米映画に出演。マーティン・フリーマンさん同様、今作に加え、「ホビット」3部作の第2部「スマウグの荒らし場」(13年公開予定)、第3部「ゆきて帰りし物語」(14年公開予定)でもトーリンを演じる。 

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