はじめの1巻:「花咲さんの就活日記」 マンガか就職か 悩むアラサーの夢と現実がリアルに

小野田真央さんのマンガ「花咲さんの就活日記」(小学館)1巻の表紙
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小野田真央さんのマンガ「花咲さんの就活日記」(小学館)1巻の表紙

 1巻が発売されたコミックスの中から、編集部と書店員のお薦めマンガを紹介する「花咲さんの就活日記」。今回は、月刊マンガ誌「IKKI」(小学館)で連載、マンガを描き続けるか就職するかで悩みながら生きる31歳の女性を描いた小野田真央さんのマンガ「花咲さんの就活日記」です。

ウナギノボリ

 花咲さんは、あるマンガ誌編集部に自分の作品を持ち込むものの、「この手の作品は売れない」とすげなくあしらわれてしまった。そして思い詰めた様子で過去にマンガを描いていた雑誌の編集長に電話をかけ、「マンガを描かせてほしい」と訴えるが、これも失敗に終わり、「もうマンガをやめる。就職する」と口にする。しかしマンガへの思いは簡単に断ち切れず、一方で31歳、未婚、彼氏なし、預金13万円という現実からも逃れることができない。

 ◇編集部からのメッセージ 月刊IKKI編集部 佐藤祐二さん「イライラして楽しんで」

 30歳を超えて、一度あきらめかけたマンガ家を再度目指す主人公・花咲さん。現実社会で、「マンガ家を目指す」という存在はあまり一般的ではないかもしれませんが、30歳前後の年齢になり、夢を追うか……、就職して安定を目指すか……を考え、将来が不安になる人は多いと思います。その年代の息苦しさをリアルに描いている作品だと思いますので、そのような人、かつてそうだった人たちに読んでほしいです。

 「マンガ描く!」と「マンガ断ち切った!」を行ったり来たりして、いろんな人に不義理をしてしまい、同じことを繰り返してしまう花咲さんにイライラして楽しんでほしいですし、作中に漂う閉塞(へいそく)感に負けない、ふとしたところで息を抜かせてくれる花咲さんのかわいさも感じてほしいです。

 もう一つ、この作品でリアルに描かれているのはマンガ家と編集者という関係。若いマンガ家さんの前には(いい意味でも悪い意味でも)立ちはだかる編集者という存在。花咲さんは、一度連載をしたことあるだけに、その時の編集者へ強い思いがあります。

 マンガへの夢か、就職か? 自分を振り回した編集者とどう立ち向かうべきか? 花咲さんはまだまだ悩み続けるのです。

 ◇書店員の推薦文書 コミック高岡 市川祐治さん「オジサンもうならせる歯ごたえを感じられる」

 いい意味で表紙のイメージと中身が違うコミックです。

 まずこの作品はよくある前向きで明るい就職活動のお話ではありません。マンガ家という夢をあきらめ、就職する。でもそんな決断なんてそう簡単にできるわけないじゃないか!という主人公の心のなかの不安とゆらぎを、細かく丁寧に一つ一つ真摯(しんし)に描き示した作品です。

 作品中での時間の経過とともに焦燥感と自問自答で埋めつくされていく主人公の内面は、とてもとても人間臭く、己の今までの人生と少なからずだぶるかのようで、読んでいてのどのひりつきさえ感じてしまいました(笑い)。

 一見、少女マンガらしいタッチの絵ですが、読めば中年のオジサンさえもうならせるような、重厚と呼んで差し支えないほどの歯ごたえを感じられると思います。

 続巻を大いに期待しております。

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