年末に発売が決まったソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の新型ゲーム機「プレイステーション(PS)4」。現行機「PS3」の登場から7年ぶりとなるが、PS3と同じブルーレイディスク(BD)ドライブを採用するなど性能の高さを強調せず、他の機器との連携などの多彩なサービスをアピールした。初代PSからの“スペック至上主義”は一段落した形で、ソニーグループの総合力が問われる形になりそうだ。(毎日新聞デジタル)
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PSの歴史をまとめると、映画ばりの豪華な映像をゲームに持ち込んだ”重厚長大”路線だ。94年に発売された初代PSは、当時のゲーム機の主流であった小容量のカードリッジロムでなく、大容量のデータが書き込めるCD-ROMを採用。これが当時の大人気ゲームだった「ファイナルファンタジー7」を自陣営に呼び込み、業界トップになったのは有名な話だ。00年に発売された2代目「PS2」、06年のPS3でも「グラフィックの美しさ」はキャッチフレーズとなった。
今回の発表でSCEは、PS4の“心臓”にあたるCPU(中央演算処理装置)の性能やメモリーの容量を飛躍的に高めてさらに美しい映像を生み出したものの、さほど強調していない。SCEの広報部は「(PS3とPS4の)CPUを単純に比較する数字は出していない。PS4は確かにPS3の後継機だが、PS3も並行して売っていく」と話す。
20日に米ニューヨークで開かれたPS4の発表会でも、発売の前年の05年にあったPS3の発表時とはトーンが変わった。PS3の発表では、グラフィックの美しさをアピールし、PS3のCPUである「CELL」も話題になった。だが今回のPS4では、グラフィックにも一応は言及したものの、「ゲームのプレーの可能性を広げる」「ゲーム開発の効率化」という言葉が目に付いた。さらなる高性能の追求よりも、開発に配慮するバランス性を重視したのは明らかで、「PS3と違って、PS4はゲーム開発が容易」というゲームクリエーターへのメッセージ性が強い。
さらにメディア(記憶媒体)が変わらないのも路線変更の象徴の一つだ。94年に発売された初代PSは、当時では大容量のCD-ROMを採用。00年のPS2はDVD、06年のPS3はBDとステップアップした。メディアの最大容量は、大量のデータを必要とする高精細なグラフィックにも直結する。PS4がPS3と同じBDを採用したのは、「これ以上のグラフィックは必要ない」という決断にも思える。
高精細なグラフィック、メディアの変化など、ゲーム機の進化が分かりやすかったPS3までのゲーム機。だがPS3のグラフィックがもともと映画ばりの美しさだったこともあり、PS4のグラフィックに、素人が一目で分かるほどの違いはなかった。さらに、クラウド技術の便利さも強調したが、これも「メリットがよく分からない」という人は多いはずだ。
クラウド技術とはさまざまな意味があるが、ここではインターネットを利用して、負荷のかかる計算を別のコンピューターやサーバーにさせることを指す。マシンパワーのない端末でも、別のコンピューターや複数の機器に計算させることで、リッチなサービスを受けるという発想の概念だ。米グーグルのメールサービス「Gmail」は、サーバー側にメールのデータを蓄積することで、利用者はPCやスマートフォン、ゲーム機からも自在にアクセスできるが、これもクラウド技術の一つだ。
そして、ゲームにも「クラウドゲーム」というサービスがある。実際の演算処理をサーバー側で行い、画像などの軽いデータをストリーミングで利用者側の端末に送ることで、端末の性能に依存されずに、奇麗なグラフィックのゲームを気軽に楽しめることから業界では注目されている。SCEは昨年7月にクラウドゲーム大手のGaikai(ガイカイ)を300億円で買収済み。だが、元々高性能のPS4で、「クラウド技術がどう生きるのか」と言うと理解しづらい話になる。
おそらく将来的には、ソニーグループの持つゲームや映画などの多彩なコンテンツを、奇麗な映像で、さまざまな端末で即座に簡単に楽しめるのだろう。だがそれは、体験して初めて分かることで、誰にでも通用する「分かりやすさ」がない限りは、コアユーザー以外が手を伸ばすのは難しくなる。また、ソーシャルゲームの伸張などさまざまな端末でゲームが気軽に楽しめる中で、ソフトメーカーの見方もシビアになっており、普及していないゲーム機に有力タイトルが投入される可能性も低くなっている。
また「プレイステーション」ブランドには、SCEが約20年にわたり築いてきたゲームファンからの信頼が息づいているが、PS4では普及へのネックが早くも明らかになっている。BDドライブを搭載しながら、PS4ではPS3のBDのパッケージゲームが遊べないことだ。ソフトの互換性がないということは、PS3の「買い替え需要」が見込めないことも意味する。携帯ゲーム機のPSVitaでは、PSPのソフトメディアの「UMD」が使えず、結果としてPSVitaも普及に苦労している。PS4でその苦戦を繰り返さないためにも、クラウド技術などを活用した何らかの戦略が必要となるだろう。
ゲーム業界に詳しいエンターブレインの浜村弘一社長は「コントローラーやタッチパネル操作など考えられる要素を積み込み、家庭用ゲーム機の集大成になった。またソニーは、ゲームだけでなく、映画や音楽、電子書籍を含めたエンターテインメント構想を掲げている。ゲームファンに加え、(ゲームを遊ばない)一般ユーザーにアピールできるのが強み」と話している。もちろんゲーム機の普及のカギを握るのは、人気のコンテンツなのは言うまでもない。PS4の普及には、ゲーム事業を担当するSCEだけでなく、ソニーグループのバックアップが今まで以上に必要なのは間違いなく、総力戦の勝負になりそうだ。
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