サム・ライミ監督:「僕は根っからのエンターテイナー」 最新作「オズ はじまりの戦い」で来日

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 サム・ライミ監督の作品といえば、古くは「死霊のはらわた」(81年)から、最近では「スペル」(09年)まで、もちろん途中には、「スパイダーマン」という世界的大ヒットシリーズはあったが、やはり“ホラー監督”というイメージが強い。あれほどおぞましく、しかも魅力的な作品を作り上げるライミ監督とは、一体どんな人物なのか。8日公開の最新作「オズ はじまりの戦い」のPRのために、主演のジェームズ・フランコさん、共演のレイチェル・ワイズさんとともに来日したライミ監督に話を聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

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 インタビュールームに入ってきたライミ監督は、こちらに歩み寄ると丁寧なおじぎをし、握手をしながら「サムです」と自己紹介。ライミ監督は、映画には真摯(しんし)に向き合い、取材を受ける際には必ずスーツ着用で臨むと話には聞いていたが、その通りの紳士だった。この日も紺色のスーツ姿で現れた。

 ライミ監督が今回手掛けたのは、ホラーでもスプラッターでもない純粋なファンタジー。もちろん、ところどころにライミ監督らしい、観客を驚かせる仕掛けはあるものの、これまでの作風とは明らかに異なる。

 不朽の名作「オズの魔法使」(1939年)の前日譚(たん)として位置付けられる今作は、フランコさん演じるオズという奇術師が、自分と同じ名前の魔法の国に迷い込み、邪悪な魔女の支配から国を救おうと、美しい3人の魔女らと戦いを繰り広げながら、“偉大なオズ”になるまでを描く。

 「オズの魔法使」が、「人生で一番好きな映画といっても過言ではないぐらい大好き」と話すライミ監督は、その「オズの魔法使」における、「旅の途中で出会った(ドロシーやかかしといった)仲間たちとの絆や、自分自身を見つけるというテーマ、それらすべての土台となる“愛”というもの」を今作に反映させることに努めたという。

 原作「オズの魔法使い」は、米作家のライマン・フランク・ボームによって1900年代初頭に書かれた児童文学。全14冊のうち、ライミ監督が読んだのは4冊。しかもそれは子供時代ではなく、今作の脚本を読んだあとだったという。そこから興味を持ったのは、「オズの正体が、(原作では)いま一つ分からない。(ミッチェル・カプナーさんの)脚本は、それを原点にストーリーをつむいでいる。そこが面白いと思ったのです」と、監督を引き受けた理由を語る。

 今作には、ミシェル・ウィリアムズさん演じる“南の魔女”グリンダ、レイチェル・ワイズさん演じる“東の魔女”エバノラ、ミラ・クニスさん演じる“西の魔女”セオドラの3人の魔女や、翼の生えた猿のフィンリー(声:ザック・ブラフさん)といった、魅力的なキャラクターが登場する。なかでも目を引くのは、邪悪な魔女の攻撃で孤児となった“陶器の少女”(声・ジョーイ・キングさん)だ。白く滑らかな肌を持ち、ちょこまかと動く彼女は可愛らしくて日本でもアイドル的な存在になる可能性大だ。そう指摘すると「ほんとに? クール!」と目を輝かせたのち、「確かに、彼女は陶器だから壊れやすい。でも中身は勝気で、元気いっぱい。外見と内面が違うキャラクターは、日本のアニメのヒロインを思わせるかもしれないね」と納得していた。

 映画監督を、アーティスト肌とエンターテイナー肌の2種類に分けるとすると「僕は根っからのエンターテイナー」と自称する。写真撮影の際、おすまし顔ばかりではつまらないと思ったのか、「怖い顔する?」と自ら申し出て、“ホラー監督風(?)”のポーズをしたのは、その心の表れか。いつも自分の映画は劇場で見て、観客の反応をうかがうのだという。なぜなら映画は「観客に喜んでもらってこそのものだ」と思うからだ。そのため、「観客が心底楽しんでくれている様子を見たら、自信が湧いてハッピーだし、反応がいまいちだと、ものすごく落ち込む」という。今作は、観客と一緒に見る機会がまだないため、「僕にとってのお気に入りになるかどうかは、まだ分からない。それが決まるのは、観客の反応を見てからだね」と謙虚に語る。

 そのライミ監督が、演出していて最も楽しかった場面にエンディングを挙げる。「スクリーンから喜びと幸福感が湧き出てくるんだ。特に、オズが陶器の少女に向かっていう言葉。あれは本当にぐっとくるシーンで、一番のお気に入りだ。それに、ハッピーエンドの物語を、僕はこれまで撮ったことがないしね」と笑顔を見せる。今作は8日に世界で同時公開される。もしかしたら、あなたが劇場で見ているそのとき、ライミ監督もどこかで“一緒に”見ているかもしれない。

 <プロフィル>

 1959年生まれ、米ミシガン州出身。子どものころから映画が好きで、10歳になる前から8ミリカメラで映画を撮っていた。自主映画を基にして作り上げたホラー「死霊のはらわた」(81年)で長編映画監督デビュー。その後も、「ダークマン」(90年)、西部劇「クイック&デッド」(95年)、犯罪スリラー「シンプル・プラン」(98年)、サイキックミステリー「ギフト」(00年)などを世に送り出す。「スパイダーマン」シリーズ3作品(02年、04年、07年)は世界的大ヒットを記録。09年にはホラー「スペル」を監督。プロデュース作品に「ハード・ターゲット」(93年、ジョン・ウー監督)、「呪怨 パンデミック」(06年、清水崇監督)、5月公開予定のライミ監督のデビュー作のリメーク「死霊のはらわた」(13年、フェア・アルバレス監督)がある。

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