注目映画紹介:「ひまわりと子犬の7日間」 母犬の姿から他者を理解する難しさを描いた

(C)2013「ひまわりと子犬の7日間」製作委員会
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(C)2013「ひまわりと子犬の7日間」製作委員会

 山田洋次監督の下で20年にわたって共同脚本・助監督を務めてきた平松恵美子さんの初監督作品「ひまわりと子犬の7日間」が16日に公開される。しっかりとした骨組みの脚本、丁寧な映像で、弱い者の視点で命の大切さを伝える珠玉作となった。殺処分にされる運命にある犬の母子というシビアな実話を基にしながらも、親子関係という親近感を感じる物語に落とし込み、エンターテインメント作に仕上がった。春休みに親子で観賞するのにおすすめの1本になった。

ウナギノボリ

 07年、冬の宮崎。神崎(堺雅人さん)は妻(檀れいさん)を亡くして5年、母親(吉行和子さん)と娘、息子と暮らしている。勤務先の保健所に送られてくる動物を少しでも救おうとする神崎は、規則を破って収容期間を延ばしては、上司(小林稔侍さん)に注意を受けている。娘の里美(近藤里沙さん)と息子の冬樹(藤本哉汰君)は、動物の里親探しを手伝ってくれているが、殺処分される運命については知らされていない。しかしふとしたきっかけで父親の仕事を知った里美は、泣きながら父親を責め立て、心を閉ざしてしまう。そんなある日。神崎は後輩の佐々木一也(若林正恭さん)と一緒に畑を荒らし回る野犬の保護に出向いた。人間を威嚇する犬は母犬で、生まれたばかりの子犬がいた……というストーリー。

 見る前から「動物」「かわいそう」というキーワードに惑わされないでほしい。これは、他者を理解する難しさを描いた映画だ。人間と犬、父と娘、上司と部下、さまざまな摩擦の中でその難しさが重層的に描かれている。怒っている。母犬が怒っている。当然だ。子犬を守っているのだから。誰からも理解されない野犬。しかし「ひまわり」という名前を付けられた瞬間、大切な生き物になる。冒頭に「この犬のこれまでの物語」が描かれたお陰ですっかり感情移入しているから、神崎を応援する気持ちにもグッと力が入る。寄り添ってくれる人間に少しずつ心を開いていく犬の演技(?)には、どう演出したのかと驚かされた。母犬にカッコよさを感じる神崎の娘は、上から目線では決して感じることのできない生命の強さを犬の中に見ている。ここで子どもたちに母親がいない設定が生きていた。この子どもたちもまた、たくましい。平松監督の次回作が今から楽しみだ。(キョーコ/毎日新聞デジタル)

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