「エディット・ピアフ~愛の賛歌~」(07年)でオスカーに輝いた女優、マリオン・コティアールさんの主演最新作「君と歩く世界」が6日から公開されている。マリオンとともに来日したフランスの名匠、ジャック・オディアール監督に話を聞いた。(多賀谷浩子/毎日新聞デジタル)
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オディアール監督といえば、「リード・マイ・リップス」(01年)や「真夜中のピアニスト」(05年)、カンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリに輝いた「預言者」(09年)など心に迫る映像世界で一度見たら忘れられない印象を残す仏の名匠の1人。そのスタイリッシュな映像は、今回の作品でも存分に楽しめる。
「君と歩く世界」は、事故で両足を失った女性が再生していく物語でもあるが、そこはオディアール監督、ありがちなヒューマンストーリーとは一線を画している。「一緒に脚本を書いているトーマス・ビデガンと、見ている人に心臓発作を起こさせるような映画が作りたいといつも話しているんです」と話す通り、ガツンとくる大人の映画だ。
「たしかに、マリオン演じるステファニーという女性は事故で両足を失うけれど、それはこの物語の中では彼女のスタートでしかありません。この映画を作った出発点は、今、僕たちの生きるこの時代の愛とは、どんなものだろうということ。トラウマを持っている人たちが、今の時代の中で、どんな愛情を、誰にどんなふうに表現していくのか、そういうかかわりを描きたかったんです。ただ単に男女のラブストーリーというのでなく、親子や兄弟、もっと広い愛情のつながりを描きたいと思いました」
ステファニーは、シャチのショーを見せる観光施設「マリンランド」のスター調教師。そんな彼女がショーの最中に事故に遭い、心を閉ざしてしまう。彼女に再び生きる喜びを思い出させたのは、無口で粗野な5歳の息子をもつシングルファーザーのアリ(マティアス・スーナールツさん)だった。
「2人は満たされない境遇にいて、ものすごく自分勝手だし、大人になり切れていない。映画の最初の方では、ステファニーは傲慢なプリンセスみたいな女性です。でも、事故に遭って初めて愛というものを知る。もちろん、彼女はそれまでに何人もの男たちと肉体的な関係は重ねていますが、まだ本当の愛を知らない。足をなくしてアリと出会って、初めて自分の身を委ねること、信頼することを知るんです。一方で、アリも息子と離れてみて初めて、自分がいかに父親として息子に愛情を持っていたかを自覚するし、初めてステファニーに対する愛情に気づく。2人が失って初めて知るものをこの映画は描いているんです」
原作は、カナダの作家、クレイグ・デビッドソンさんの短編集「RUST AND BONE」。その中の2編の要素がつながり、監督の中で1本の映画としてのイメージが広がったという。
「デビッドソンの短編の暗い世界と、自分の映画の世界が共通しているかは分かりませんが、僕が彼の作品に引かれるのは、今のゆがんだ危機的な社会がものすごくよく描かれていること。登場人物は貧しく、体以外に売るものがないような境遇の人たち。そういった人たちの不安や狼狽(ろうばい)、そういう部分にとても動かされたんです。そんな世界を映像で表現するために頭に浮かんだのが、トッド・ブラウニングの『フリークス(怪物團)』(1932年)や、世界大恐慌のあの時代を象徴するような作品の数々。それが、当時の危機的社会と今の危機的社会ということで、リンクしたところがあります」
この映画に欠かせないのが、ステファニーを演じたコティアールさんだが、監督から見たマリオンの魅力を、「脚本を書き終わった後、突然にマリオンのイメージが頭の中に降りかかってきたんです。マリオンにはとても女性らしい魅力があるけれど、同時に、彼女の演技には男性的な力強さがある。彼女は正反対のものを両方、持ち合わせているんです。とても大衆的な部分と洗練されたところ、ものすごく柔らかいところと粗野なところ、その両方を持っている」と語る。
さらに「今にして思えば、『リード・マイ・リップス』のエマニュエル・ドゥボスも正反対のものを併せ持つ女優でした。とてもシンプルで野趣がある一方で、非常に洗練されている。好きな男優も、思えば同じ理由です。逆に好きではないのが、一つのタイプに集約されてしまう女優。マレーネ・ディートリッヒやグレタ・ガルボのような。いかにも女性らしい女の人というのは、引かれないですね。撮りたいと思わないんですよ。男の人も筋肉ムキムキで、男むきだし!という人は、撮りたくないです(笑)」とジョークを交えながら語った。
この作品でも、全編にわたり、オディアール監督作品ならではの五感に響く、スタイリッシュな映像が広がる。監督のこれまでの映画体験や影響を受けた映画人について聞くと「(エリック・)ロメールは、非常に好きですね。その他のフランスの映画監督でも、影響を受けた人たちが何人かいます。映画を見始めたのは15歳ぐらい。それから30歳ぐらいまでの間に、ものすごくたくさんの映画を見ました。世界中の映画、フランスもイタリアもスペインもブラジルも……。僕が25歳ぐらいのころまでは、フランスではモノクロとカラーの映画を同じぐらい見ることができたんです。だから、無声映画や歴史に残る名作、とにかく見られる映画は全部見ていました。それが全部、自分に蓄積されていると思います」と話しはじめた。
監督の中に蓄積されている例として「この映画の中で、アリがステファニーを抱き上げてトイレに連れて行く場面がありますよね。あの場面も、ポール・バーホーベンの映画『ルドガー・ハウアー/危険な愛』(73年)のワンシーンがふと浮かんで、このシーンを撮るヒントになったんです。それは自覚がある一例ですが、自分でも気づかないところでいろんな蓄積があるのだと思います」と話した。
今年で59歳。名匠だが気取らず、赤いソックスとおしゃれなスニーカーをはき、目を輝かせながら映画の話をするオディアール監督は、20代の若者のよう。途中に見せる笑顔がすてきなので、写真撮影時にリクエストすると「ほら、でも、やっぱり、僕の作品はノワールだし、笑顔はどうかなあ……」と照れながら笑顔を見せた。スタイリッシュだが、気さくで人間味にあふれ、見る人の心をつかむ。まさに、自身の作品そのもののようなオディアール監督だった。
<プロフィル>
1952年生まれ、パリ出身。父は監督・脚本のミシェル・オディアールさん。編集者として映画界でのキャリアをスタートさせ、後に脚本家に転身。その後、ジャン・ルイ・トランティニャンさんとマチュー・カソビッツを主演に迎え、「天使が隣で眠る夜」(94年)で監督デビュー。その後も、バンサン・カッセルさんとエマニュエル・ドゥボスさん主演の「リード・マイ・リップス」(01年)、78年の米映画「マッド・フィンガーズ」を翻案した犯罪劇「真夜中のピアニスト」(05年)、非情な刑務所内を生きる若者の姿を映し出した「預言者」(09年)などの作品を手がける。
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