ブック質問状:「遠野物語remix」 名著を再構築した京極夏彦の深い知識に仰天

京極夏彦さんの「遠野物語remix」(角川学芸出版)のカバー
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京極夏彦さんの「遠野物語remix」(角川学芸出版)のカバー

 話題の書籍の魅力を担当編集者が語る「ブック質問状」。今回は、京極夏彦さんの「遠野物語remix」(角川学芸出版)です。角川学芸出版の書籍編集部の担当編集に作品の魅力を聞きました。

ウナギノボリ

 −−この作品の魅力は?

 「遠野物語」は、1910(明治43)年に民俗学者の柳田國男によって書かれました。座敷童やかっぱなど、岩手県遠野に伝わる怪異談を集めた名著として知られていますが、実は文語体で、現代人には少々読みづらいのです。この名著を、京極夏彦さんが小説家の観点から再構成(=リミックス)し、現代的によみがえらせました。現代語にしたのはもちろん、説話の順序を並び替えたりしたことで、物語としての奥行きが加わりました。読んでいると、静かな、不可思議な世界観が立ち上がってくるんです。

 −−作品が生まれたきっかけは?

 柳田國男の没後50年にあわせ、角川ソフィア文庫では今年1月から「柳田国男コレクション」を刊行しています。そんな流れの中で、「遠野物語」の現代語訳を京極さんに依頼しようという声があがりました。名文家・柳田の不朽の名著をどのように現代によみがえらせるか……。京極さんは「そのまま訳すのはあまり意味がないのではないか」とおっしゃいました。「音楽でいう再演奏、『リメーク』しても、時にクオリティーさえ落ちてしまう」と。そして「オリジナルの音源を生かして、ノイズを取り去ったり音質や音圧を調整したりする『リミックス』をしよう」ということになりました。

 −−京極さんはどんな方でしょうか?

 京極さんは小学生のころから柳田の作品を読んできたそうです。すごい小学生ですよね(笑い)。お話しするたびに、柳田や民俗学への知識の膨大さ、思索の深さに驚かされます。今回、書店員さんへのプレゼントや、電子書籍の購入キャンペーン用に、缶バッジを作りました。オビの裏表紙にも絵を載せましたが、イラストもレイアウトも京極さんがしてくださったんです。さらに、web KADOKAWA(http://www.kadokawa.co.jp/)やアマゾンで見られるPVも京極さんがお作りになったんですよ。これがまたとてもすてきで……。ぜひ、こちらも見ていただきたいです。

 −−編集者として、この作品にかかわって興奮すること、逆に大変なことについてそれぞれ教えてください。

 最初に原稿を読んだときは本当に興奮しました。「これは…!」と。幽霊がでてくるわけでも怨霊がでてくるわけでもありません。でも、ひたひたと怖い。一気に読み終えました。この作品を一人でも多くの方に届けたいと日々、自分の中で考えをめぐらせています。大変といえば大変ですが、営業や書店の方など、期待もひしひしと感じますので精いっぱい応えていきたい、と思います。

 −−最後に読者へ一言お願いします。

 これまで原著を読んだことのない方はもちろん、柳田國男を知らない方、また京極作品に触れたことのない方も、先入観なく読んで楽しんでいただける本です。ぜひ、手にとってみてください。東北を知るにもいいですし、一つ一つのお話はそれほど長くなく、また内容も優しいので、怖いお話が好きな子どもに読んで聞かせてあげるのもいいと思います。

 角川学芸出版 書籍編集部 担当編集

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