クロユリ団地：音楽担当・川井憲次さんに聞く　前田敦子から最高の褒め言葉「この曲怖い！」

　前田敦子さんと成宮寛貴さんがダブル主演した映画「クロユリ団地」（中田秀夫監督）がヒット中だ。「女優霊」（96年）や「リング」（98年）で知られる中田監督がメガホンをとったホラー作品で、団地を舞台に誰もが抱える孤独と、そこに巣くう恐怖を描いている。見るものの不安をかきたてる音楽を作り上げたのは、中田監督の作品をはじめ、「DEATH NOTE」シリーズや「GANTZ」など、数々のヒット作の音楽を手がけてきた作曲家の川井憲次さんだ。川井さんに今作の音楽を手がけるにあたってのエピソードなどを語ってもらった。（毎日新聞デジタル）

あなたにオススメ

「豊臣兄弟！」では池松壮亮が！　大河ドラマ“秀吉俳優”史を振り返る

　「クロユリ団地」は毒々しい色の花に囲まれ、近隣の人々の間では「出る」とうわさされるいわくつきの団地が舞台。介護士を目指す二宮明日香（前田さん）が何も知らずに家族とともに引っ越してきた。数日後、明日香は隣室に住む独り暮らしの老人が孤独死しているのを発見。さらに、団地で出会った寂しげな少年・ミノルとの交流から、次々と不可解な出来事に巻き込まれていく……という展開。成宮さんは団地の忌まわしい秘密を知る清掃員で明日香を救おうと奔走する青年・笹原を演じている。

　−−「クロユリ団地」の音楽を作る上で、こだわった点などはありましたか？

　川井さん：今回は童謡的なメロディーを意識して作りました。優しいメロディーだけど少し変で耳あたりのいいメロディーを作って、それが少しずつ不気味さや恐怖に変わっていく、という作り方ですね。

　−−「仄暗い水の底から」の際に、監督から“生理的に嫌な音”を要求されたとおっしゃっていましたが、今回も監督から具体的なリクエストはあったんでしょうか？　また、それに近づけるために使用した音、道具などがあれば教えてください。

　川井さん：今回、中田監督から「童謡を崩したようなものにしてほしい」というリクエストがありました。“童謡”というのがキーワードになっていたので、作り方としては、「リング」などのときとは少し違いましたね。シンプルな音の中に怖さが出ればなあと思って作っていました。ただ楽器としては、中田監督御用達の狂ったバイオリンは使いましたけど。

　−−音楽を作るときは、映像を見てから作られるんでしょうか。それとも脚本などを読んで作られるんでしょうか？

　川井さん：脚本段階ではまだ構想だけで、実作業は映像を見てからですね。映像を見てから、どの部分にどういう音楽をつけるか監督のアイデアを元に話し合って決めていきます。基本的には、監督の持っているイメージをいかに正確に、忠実に再現していくかということが重要で、その上で自分からこうしよう、ああしようという意見を聞いてもらいます。

　−−中田監督とは「リング」「リング2」「仄暗い水の底から」など、さまざまな作品でご一緒されていますが、監督とのお仕事で大切にしていることなどがあれば教えてください。

　川井さん：中田監督の映像っていうのは、すごく湿度感があって、いい意味ですごく日本的なんですね。ですから音楽もハデなモンスターが出ました的な曲ではなく、例えるなら「腐った畳」みたいな音を目指しています。語弊はあるかもしれませんが、怖さの情緒感といいますか……。日本のお化け屋敷って独特な情緒感があると思うんですが、そういったものを音楽でも出せれば、と思っています。

　−−「クロユリ団地」を見るにあたって見どころ（聴きどころ）は？

　川井さん：最後に前田さんが鼻歌を歌うシーンがあるんですが、実はあのシーン、あとから音を入れたんです。撮影のときには別の歌を歌っていて、前田さんをスタジオへお呼びして、歌っていただいたものなんです。

　−−当初からそういう予定だったんでしょうか？

　川井さん：そうですね。ちなみに撮影のときは、「チューリップ」を歌われていました。鼻歌なので、口は動いてないんですが、体を揺らしながら歌っているので、そのテンポに合わせてメインテーマのメロディーを歌っていただいて差し替えました。録音をする前、すでに前田さんにはデモを送って聴いてもらっていたのですが、スタジオに来ていただいたときの前田さんの第一声が、「怖い！　この曲怖い！」って言ってくれて（笑い）。ホラー映画の音楽としては最高の褒め言葉ですよね。

　＜プロフィル＞

　1957年4月23日生まれ。86年からアニメや実写作品の音楽を手がける。「機動警察パトレイバー」や「GHOST IN THE SHELL／甲殻機動隊」など押井守監督作品でも知られ、押井監督の「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」では08年に第41回シッチェス・カタロニア国際映画祭で最優秀映画音楽賞を受賞した。中田監督の作品は「リング」（98年）、「リング2」（98年）、「仄暗い水の底から」（01年）などの音楽を担当した。