はじめの1巻:「ふくしまノート」 震災後の「福島のいま」を伝えるルポマンガ

「ふくしまノート」(竹書房)1巻の表紙
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「ふくしまノート」(竹書房)1巻の表紙

 1巻が発売されたコミックスの中から、編集部と書店員のお薦めマンガを紹介する「はじめの1巻」。今回は、月刊マンガ誌「ウーマン劇場」(竹書房)で連載、東日本大震災、福島第1原子力発電所の事故後、福島県出身のさまざまな家族を取材した井上きみどりさんのマンガ「ふくしまノート」です。

ウナギノボリ

 東日本大震災による原発事故後、仙台市に住む作者の井上さんは「隣の県に住む住人として、福島の人々と子供たちの『今』を伝えたい」という気持ちで福島県内の家族を取材した。乳幼児2人を抱えて南相馬市に住み続ける夫婦や、同市の医療施設で看護師をしていた夫婦、相馬市の女子高生など七つの家族のエピソード全11話に加え、井上さん自身のエピソードも収められている。

 ◇編集部からのメッセージ 竹書房制作局 星野信夫さん 「作者の主観を入れない『福島のいま』」

 東日本大震災から1年たったころ、井上さんが連載していた作品が1冊にまとまったので、そろそろ次回の連載のテーマを決めようと考えていたところ、真っ先に彼女からあがったのがこの「ふくしまノート」の企画でした。たくさんの問題を抱えている福島を題材にするわけですから、続けていくのは正直、いろいろな問題が生じて難しいかなと思いましたが、井上さん自身が仙台在住であり、被災者の立場として取材した内容を忌憚(きたん)なく描けるのではと、最終的にはぜひお願いしますということで連載がスタートしました。

 本作品では、震災後の「福島のいま」をありのまま伝える、それ以上でもそれ以下でもない、作者の主観はいっさい入れない、というスタンスをとっています。

 「子供たちはどう思っているのか?」「大人たちは子供たちの未来をどう考えているのか?」を中心のテーマに井上さんが現地を飛び回って、一人一人丁寧に取材して構成しています。

 取材先の中心はもちろん福島県内ですが、ある時は避難先である近県の仮設住宅を訪ねたり、ある時は子供たちの保養を目的とした沖縄の施設を訪ねたりと、わずか数ページの連載に数カ月にわたる取材をかけて描いてもらっています。少しでも多くの方に読んで知ってもらえたら幸いです。

 ◇書店員の推薦文 伊吉書院類家店 中村深雪さん 「福島と真剣に向き合うきっかけに」

 東日本大震災のあの日から暮らしが変わってしまった人々が一体どれだけいることでしょう。その中でも「福島」にスポットを当てたこの1冊。福島に今も住む方、戻りたいけど戻れない方、外から「福島」とひとくくりにはできないそれぞれの事情や心情が、井上先生の綿密な取材により丁寧に描かれています。あの時の行動、これからの不安、それらを語る方々にすらも正解が見当たらないことばかりで、読んでいて胸が苦しくなります。これは福島に暮らす人もそうでない人も知るべきことであり、この本を読むことで日本中が福島ともっと真剣に向き合うきっかけができればいいと思います。

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