小野憲史のゲーム時評:PS4は最後の据え置き型ゲーム機か

PS4やXbox ONEが展示された世界最大級のゲーム見本市「E3」
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PS4やXbox ONEが展示された世界最大級のゲーム見本市「E3」

 超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、現在はゲーム開発と産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、世界最大級のゲーム見本市「E3(エレクトロニック・エンタテインメント・エキスポ)」で登場した二つの新型ゲーム機について語ります。

ウナギノボリ

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 米ロサンゼルスで11~13日に開催された「E3」で、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)がプレイステーション(PS)4、マイクロソフトがXbox ONEを展示して注目を集めた。共に米国では年末に発売予定で、先代のPS3から7年ぶり、Xbox360からは8年ぶりの新型機となる。

 もっとも、サードパーティーの多くは会場でPS3、PS4、Xbox360、Xbox ONE、PCの全機種でソフトを出展し、PS3とXbox360が現役であることが示された。ソフトは新旧ゲーム機用に発売されながらゆるやかに世代交代が進む見込みだ。同じ現象は過去にもあり、PS2に至っては00年の国内発売から13年の生産終了まで、世界で13年にわたって愛される長寿ゲーム機となった。

 では7年後の20年にPS4とXbox ONEを巡る市場はどうなるだろうか。現在と同じように大作ゲームを出し続け、業界のショーケースとしての役割を担い続けているだろうか。そして再び「次世代機」を巡るニュースが注目を集めているだろうか? 「おそらく、そんなことはないだろう」というのが会場での主な見解で、つまるところ「これが最後の据え置き型ゲーム機になるだろう」というわけだ。

 PS3とXbox360の登場した05~06年、ゲーム市場は大きくPS2、ゲームボーイアドバンス、PCに分かれていた。しかし今やスマートフォンやタブレット、スマートテレビなども加わり、プラットフォームが分散。市場も日米欧だけでなく、アジア、中南米、東欧、アフリカと広がった。ビジネスモデルでは、パッケージの売り切りスタイルから、アプリのアイテム課金モデルに変わりつつある。人気ソフトも欧米は据え置き型の大作ゲーム、日本はスマホ向けの無料ゲーム、東アジアではPCオンラインゲームと異なっている。ゲーム業界はかつての「1強皆弱」から、地域性の強いモザイクモデルに移行しつつあるのだ。

 ハードウエアを巡る状況も急変している。00年代までゲーム機を設計するには、ゲーム向けにカスタマイズされた半導体が必須だった。PS3では東芝、IBM、ソニーで「セル」チップが共同開発されたほどだ。しかし今や半導体の性能向上と価格低下に伴い、ベンチャー企業でもゲーム機の製造販売が可能になった。

 さらにゲームをサーバー上で実行し、映像や音声をインターネットでリアルタイムに配信するクラウドゲームでは、端末の性能は関係なく最新のゲームが楽しめる。米半導体大手のエヌビディアはE3の会場で技術デモを披露し、クラウドゲームによるサーバー向けビジネスをアピール。同様の技術はSCEが13年に買収したガイカイも持ち、PS4向けに過去のゲーム資産配信で活用される予定だ。

 このようにゲームビジネスを巡る環境が激変する中で、総じてゲーム機の販売競争から、家電や携帯端末などを巻き込んだインターネット上でのサービス、プラットフォーム競争に、ここ数年で急速に移行していくと考えられる。ゲーム業界だけでなく、グーグルやアップルなどのIT大手、サムスンなどの家電大手にも参入機会は等しく開かれており、開発者にとってゲームソフトの販売機会は拡大している。過去の因習や業界の枠を自ら破壊し、本当にユーザーが求める価値を提供できる企業だけが生き残れるだろう。ゲームクリエーターも変化を恐れず、変化を楽しむ姿勢が求められている。

 ◇プロフィル

 おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーのゲームジャーナリスト。08年に結婚し、妻と猫3匹を支える主夫に“ジョブチェンジ”した。11年から国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表に就任、12年にNPO(特定非営利活動)法人の認定を受け、本格的な活動に乗り出している。

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