モンスターズ・ユニバーシティ:ダン・スキャンロン監督に聞く「大学時代のマイクはお肌ツルツル」

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 2001年に公開され(日本では02年)大ヒットしたディズニー/ピクサーによる長編アニメーション映画「モンスターズ・インク」。あれから十余年の歳月をへて、ついに続編が完成した。しかも、それは前作の人気キャラクター、サリーとマイクの大学時代の話だ。「前日譚(たん)には、物語がどんな終わり方をするかを、みんなが知っているという難しさがある。半面、その終わり方を劇的に使うことが、僕らの強みにもなる」。そう語るのは、今作で長編アニメーション作品の監督デビューを果たしたダン・スキャンロン監督だ。脚本も共同で手掛けたスキャンロン監督に聞いた。(りんたいこ/毎日新聞デジタル)

ウナギノボリ

 「モンスターズ・ユニバーシティ」では、前作「モンスターズ・インク」でサリーのサポート役だったマイクにスポットが当たっている。人間の子供たちを怖がらせて悲鳴を集め、それをエネルギー源としてモンスターシティに供給する企業、モンスターズ・インク。6歳のころ、そこを社会科見学で訪れ、子供たちを怖がらせるモンスターたちに一目ぼれし、自分も“怖がらせ屋”になることを心に誓ったマイク。18歳になった彼は、憧れのモンスターズ・ユニバーシティに入学。その後、どのような経緯でサリーと親しくなり、のちにモンスターズ・インクが誇る最強の怖がらせ屋コンビになっていくかまでを描いていく。

 舞台は大学だ。キャンパス内には、マイクとサリーはもとより、初めて目にするモンスターたちがうじゃうじゃいる。その数、実に400体! そこには、前作から引き続き登場しているキャラクターがいくつかいる。例えば、前作で悪役だった、あの“カメレオンもどき”のランドール。毛むくじゃらのイエティもいる。モンスターではないが、マイクの宝物のぬいぐるみ、リトルマイキーも姿を見せる。さらに、スキャンロン監督が「ネタバレになるから書かないで」とくぎを刺す、あのキャラクターも登場する。

 前作を知る人には「おまけの楽しさ」が味わえる一方で、「初めてこのシリーズを見る人が、彼らはなぜこんなに目立ってるんだ?と感じさせないよう」、見せ方には配慮したという。そこには、シリーズ作品特有の“知る人ぞ知る”的ネタに走ることなく、誰もが楽しめるストーリーを追究するというスキャンロン監督の姿勢がうかがえる。

 時間が過去にさかのぼるのだから、当然、マイクもサリーもほかのモンスターたちも“若返らせ”なければならない。「基本的にサリーもほかのキャラも、少しやせさせて色を明るくするという手法をとっている」そうだが、とはいえマイクはあの容姿。6歳の“ベビー・マイク”も、18歳のマイクも、その後のモンスターズ・インク時代のマイクも、歯列矯正用の器具をつけている以外、年齢による差は出しにくいと思うのだが……。

 するとスキャンロン監督は「子犬は、体は小さいけど足は大人サイズだったりするよね。それと同じように、マイクも足は大きく、でも体全体はキュっと縮めた。あとは目玉。プロダクションデザイナーのリッキー・ニルバが僕に、『目玉を18歳にしろって? 目玉は目玉じゃないか』と言っていたけど(笑い)、若いときのほうが、白目の部分が大きくなっているんだ。それから皮膚。『モンスターズ・インク』のマイクは、よく見ると皮膚がかっさかさ(笑い)だけど、今回の大学生マイクとベビー・マイクは保湿が十分で、肌はツルッツルなんだよ」と解説。そうした皮膚感や毛並み、透明度をアップさせる技術は、「割と最近のもの」だそうで、その技術が、今作ではフルに発揮されている。

 ユニークなキャラクターが続々と登場する今作だが、ユニークなのはストーリーも同じだ。今作では、大学生活において挫折を味わったマイクとサリーが、意外な形で自分たちの夢にたどりつくという変則的な結末が用意されている。それについてスキャンロン監督は「挫折というものを体験した彼らが、そこからどうするのか。それをちょっと違った形で描きたかった。挫折を経験すると誰でも落ち込むけれど、それによって別の道を見つけることができるといういい面もある。あるいは、以前よりもっとすてきな場所にたどり着けるかもしれない。実際、僕の知人にも、紆余(うよ)曲折あって、今この仕事にたどり着いたという人がたくさんいる。観客のみなさんにも、夢や成功にたどり着くのは一本道ではない、いろんな道があるんだということを伝えたかった」と作品に込めた思いを語る。

 ちなみに、スキャンロン監督自身、子供のころからの夢は「ある程度実現できていて」、大きな挫折は今のところないそうだが、それでも10年ほど前、大きなリスクを背負ったことがあったという。当時、オハイオ州のアニメーション会社で働いていたスキャンロン監督は、カリフォルニア州で仕事がしたくてその会社をやめてしまった。そして、カリフォルニアにある大手アニメスタジオすべてに履歴書を送ったが、なしのつぶて。「あの夏は、それまで住んでいた家を引き払い、母の家に居候していたけど、本当につらかったよ」と当時を振り返る。そして3カ月後、やっと1社から採用通知が。それがいまのピクサーだというからラッキーだ。ご本人も「僕が入りたかったのはピクサーだったから、夢がかなったも同然」と喜んだという。しかもその年はちょうど、「モンスターズ・インク」が公開された年。それから約10年。その続編を手掛けることになるのだから、運命とは分からないものだ。

 スキャンロン監督自身が好きなシーンに、オープニングの、6歳のマイクがモンスターズ・インクを訪れ、自分の夢に目覚める瞬間を挙げる。「自分の夢に出合って、それに向かって走り始めるわけだからね」と笑顔を見せる。

 スキャンロン監督は6月21日に37歳になった。この日はちょうど、今回の作品「モンスターズ・ユニバーシティ」の全米公開日。週末3日間の興行収入は8200万ドル(約82億1600万円)で初登場1位。この数字は「トイ・ストーリー3」に次いでピクサー・アニメーション作品の歴代2位の記録だ。初監督作公開日というプレッシャーの中で迎えた誕生日はスキャンロン監督にとって忘れられない記念日となった。映画は7月6日から全国で公開。

 <プロフィル>

 1976年、米ミシガン州生まれ。2006年「カーズ」の脚本に参加したほか、ストーリーアーティストを担当。「トイ・ストーリー3」(10年)でもストーリーアーティストを務めた。ほかに、短編「メーターと恐怖の火の玉」(06年)の原案、共同監督、オリジナルビデオ作品「101匹わんちゃん2 パッチのはじめての冒険」(02年)のストーリーボードアーティストを担当。12年の「メリダとおそろしの森」にも参加した。未公開作の実写映画「Tracy」(09年)では、監督、脚本を務めた。現在はサンフランシスコ在住。

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