朗読少女:乙葉しおりの本の小道 最終回 宮沢賢治「ひのきとひなげし」

「朗読少女」で、本の朗読をしてくれるキャラクター、乙葉しおりさん
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「朗読少女」で、本の朗読をしてくれるキャラクター、乙葉しおりさん

 美少女キャラクターが名作を朗読してくれるiPhoneアプリ「朗読少女」。これまでに100万ダウンロードを突破する人気アプリとなっている。「朗読少女」で、本の朗読をしてくれるキャラクター、乙葉しおりさんが名作を紹介する「乙葉しおりの本の小道」。最終回となる第127回は、宮沢賢治「ひのきとひなげし」だ。

ウナギノボリ

 皆さんこんにちは、乙葉しおりです。

 これまでお話しさせていただいてきた「乙葉しおりの本の小道」、127回目の今回で最終回になります。

 まずは朗読倶楽部のお話、運命を決めた5度目の大会出場・最終回です。

 朗読倶楽部が部として認められるかどうか、運命を左右するこの大会。ステージで朗読劇を発表していたときのことは、実はよく覚えていません。とにかく夢中で声をあげ、終わったときにはのどがカラカラになっていたこと、雨が降り出したのかと錯覚するほどの拍手の音だけは、昨日のことのように覚えています。

 最初に大会の結果をお話しすると、私たちは優勝することはできず、努力賞に終わりました。それは、2度目の大会でいただいた賞と同じ……。入賞ではあるものの、おそらくは実績としては弱い。つまり、朗読倶楽部が部として認められるのは絶望的になったということです。結果、部室を失い、学校の施設も今までのように使わせてもらえなくなるかもしれません。

 でも、みんなの笑顔には一点の曇りもありませんでした。たとえ部として認めてもらえなくとも、もう朗読をやめるなんて考えられない……。これで終わらせない、また、部になれるように挑戦し続けていこう……。そう決意を新たにしたのです。

 ところが……。

 数日後、私物を整理しようと図書館の控室、すなわち朗読倶楽部の部室に3人で行ったところ、今まで「司書控室」と書かれていた表札の代わりに「朗読部」の表札が掲げられているではありませんか!

 あぜんとする私たちに、扉を開けて出てこられた先生がひとこと。

 「入部希望か?」

 ……実は、3度目の大会に入賞していた時点で、部としての実績は足りていたんだそうです。けれど、このままでは良くない方向に行ってしまうと危惧された先生は、学校側に交渉して、状況を問い合わせに来た部長さんに「実績不足」だと知らせるようにしたと……。

 全てが終わってみれば、先生の考えはきっと正しくて、私たちの心構えをより強くするために必要なことだったと、思えるのですが……それでも、ちょっとひどいなあって、今も冗談まじりに話題に上ることがあるのです。

 そう言えば、この大会が終わってからみんなに「もう、あがり性は克服したね」と、言ってもらえたのですが……、その後も人前で朗読するときは相変わらず緊張してばかりで、おせじにも克服したとは言えません。大会の様子がテレビ放送された翌日なんて、あまりに恥ずかしくて学校へ行くのをちゅうちょしてしまったほどで……。

 でも、少しだけ……、ほんの少しだけですけれど、前に進んだ実感はあるのです。

 そんなわけでこのコーナーでは、私が1年生の時に体験した、倶楽部の結成から正式な部としての成立するまでのエピソードを中心にお話しさせていただきました。

 朗読倶楽部では、この後もさまざまな出会い、大騒動、ちょっと恥ずかしい失敗談、楽しい出来事がありましたし、これからも起こることでしょう。

 そんな新しい体験を、いつか再び、皆さんにお話しできる機会があることを願って……。

■しおりの本の小道 宮沢賢治「ひのきとひなげし」

 それでは最後に、お話のご紹介を……。宮沢賢治さんの「ひのきとひなげし」です。

 1920年代に初稿が執筆された後、宮沢賢治作品の例に漏れず、時間をかけて推敲(すいこう)が行われ、亡くなられる直前となる1933年に最後の推敲が行われたものの、残念ながら生前に発表されることがなかった多くの作品の中のひとつとなります。

 「ひのき」は木造建築や高級家具などで知られるあの「ヒノキ」で、名前の由来は「火のつきやすい木だから」とか。一方「ひなげし」はケシ科に属する花で、夏目漱石さんの文学作品の題名にもなった「虞美人草(ぐびじんそう)」や、フランス語の「コクリコ」の呼び名でも知られていますね。

 野原を赤く染めて咲き乱れる、ひなげしの花の群れ。ところがひなげしたちは、そんな群生の中の一輪に埋もれる一生に、強い不満を抱いていました。

 愚痴をこぼしてばかりのひなげしたちを、すぐそばに立っている若いひのきの木が遠回しにたしなめるのですが、その比喩を理解できずに口をそろえて小ばかにする有り様。夜空に輝く星のような、誰にも負けない「スター」の美しさ……。ひなげしたちは、それが何よりも欲しかったのです。

 「いちどスターにしてくれたら、あしたは死んでもいいんだけど」。そんな言葉が、悪魔の耳に届いてしまったのでしょうか……。ひなげしたちの前に美容師に化けた悪魔が現れ、美しくなれる薬があるとささやきました。

 高価な薬代を持たないひなげしたちは、お金の代わりに自分の頭にできる「亜片(アヘン)」を全部あげると言い出します。実となる部分を譲り渡すのは、種子を失うということ。それは「自分の子供を売り渡す」行為であり、まさに「悪魔に魂を売る」ことなのですが……。

 短編の中に無駄なく詰め込まれたメッセージ、時代を超えて読者の心に訴えてくるものがあります。未読の方はぜひ一度、読んでみてほしいです。

 ちなみに、アヘンは麻薬の材料でケシの実から採れるものですが、ひなげしからは採取できません。このお話の「亜片」は、物語をわかりやすくするための宮沢賢治さんの創作だと考えられています。

 ……そろそろ、お別れの時間です。当コーナーにおつきあいしてくださった全ての方へ。間違いや、言葉の足りない部分がたくさんあったかもしれませんが、今まで本当にありがとうございました。

 それではまた、いつの日か、どこかでお会いできることを願って……。

 ※本コラムをしおりさんが朗読する「乙葉しおりの朗読倶楽部」がiPhoneアプリ「朗読少女」のコンテンツとして有料配信しています。

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