海底から突然出現したKAIJU(怪獣)と、人間が開発した最終兵器、人型巨大ロボット「イェーガー」が戦いを繰り広げる米映画「パシフィック・リム」が公開中だ。「パンズ・ラビリンス」(2006年)や「ヘルボーイ」シリーズなどで知られるギレルモ・デル・トロ監督の最新作で、「イェーガー」に乗り込む2人のパイロットの1人、森マコを演じた菊地凛子さん。2人が心を完全にシンクロさせることで動かすことが可能になる、そのパイロットの1人にキャスティングされ、「人が信じ合わないと動かないそのコンセプトは人生にも置き換えられる。そこが作品の魅力」と話す菊地さんに、撮影の苦労やエピソードなどについて聞いた。(毎日新聞デジタル)
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−−アクションシーンがとてもカッコよく、かつ迫力ありました。今回のアクションシーンのためにどんな準備をされたのでしょうか?
撮影に入る約2カ月前にウエイトリフティングやビーチでのブートキャンプ、マーシャルアーツなどパイロットになるためにやらなければならないトレーニングはぜんぶやらせてもらいました。その中でも一番大変だったのはブートキャンプですね。軍隊の人がやるようなプログラムだったんですが、季節は夏のロサンゼルス(LA)のビーチ! 砂浜を走るだけで「死ぬ……」って思うような状況でした(苦笑)。たとえば、ビーチで「あのポールまで走ってこい」って言われるんですけど、そのポールがどこにあるのか全然見えない(苦笑)。蜃気楼(しんきろう)なんじゃないかって思うほど遠かったり。いままで経験したことのないことをたくさん経験させてもらいました。あんなに大変なトレーニングは生まれて初めての経験でした。また、トレーナーの先生が厳しくて、毎日体重を計るだけでなく、筋肉がどれだけ増えたか、何を食べたのかもチェックされるんです。
−−その2カ月間のトレーニングの成果は、撮影に入ったときに、どんなふうに役立ったのでしょうか。
(この役を演じるにあたって)撮影自体よりも撮影に入る前の準備、トレーニングの方が大変だと思っていたので、実際に撮影に入ったら楽になれると思っていたんですね。でも、大きな間違いでした……。撮影の方が全然大変だったという(笑い)。ロボットの操縦席はリアルサイズのロボットの頭の部分を作っていて、建物の5階ぐらいの高さから1階に突き落とされるようなこと(衝撃)もありました。そんな大変な撮影が待っているので「準備をしっかりしてくださいね」という(意味での準備の)2カ月だったんです。でも、いま思えばあれほどの達成感はなくて。うれしかったのは、(マコがローリー・ベケットさんと操縦する)ジプシー・デンジャーの頭の操縦席での撮影が終わったとき、ギレルモ監督がロボットの形をしたゴールドの像をプレゼントしてくれて。その像には「(あなたは)生き残りました」的なメッセージが入っていて。うれしかったですね。
−−遊び心あふれるすてきなはからいですね。そんなギレルモ監督の演出はどんなものだったんでしょうか。
操縦席での撮影のときはヘルメットをかぶっていて、その内側にマイクがセットされているんです。で、撮影が続いている中、集中力が切れてくると、マイクごしに監督がトトロの歌を歌ってくれたりとか(笑い)。あと、トレーナーからは食べちゃいけないって言われているのに「チョコレート食べるか?」って言ってきたり。とてもいたずら好きでとてもチャーミングな監督です。
−−KAIJUと戦うため、イェーガーに乗り込むパイロットは心をシンクロさせるという設定が、人と人との絆を描くドラマにつながっていきます。アクションだけじゃない人間ドラマとしてのこの映画の魅力を、菊地さんはどうとらえていますか?
ロボットを操縦するのは2人以上で、しかもその2人が信じ合わないと動かない。世界を救う戦いに挑むためにはまずお互いを信用し合わないとならないんです。そういうコンセプトって人生にも置き換えられるなって思うんですよね。この映画はロボットを動かすというのがテーマだけれど、人が誰かとかかわり合おうと覚悟して、その人のいいところや悪いところを受け止めて前に進んでいこうということは、人生にもいえると思う。そこが魅力でもありますね。
−−ということは、この映画に出たい、マコ役を演じたいと思ったベースには、そういうストーリーやテーマにほれ込んだのも理由ですか?
そうですね。あとは、ギレルモ監督がキャストを信用してくれる方というのも大きいです。監督が絶対的な信頼をしてくれるからこそ、2カ月間の準備期間中、相手役のチャーリー・ハナムとのスティックファイティングのシーンであるとか、ブートキャンプであるとか、2人で一緒に乗り越えることができた。そして、その期間をへて初めてあの操縦席に立って、お互いをシンクロさせることができたんです。2人のうちのどちらかの集中力が切れたら「大丈夫だよ、頑張ろう!」って励まし合いました。それが、この映画の核になっていると思うんです。互いを信じ合うことによって大事なものを守ることができる、そこには深い愛、広い愛があると思いました。
−−アクションと演技の両方をこなす、とても難しい役だったと思うのですが……。
ギレルモ監督は、演技や役作りは心配していなかったようで、とにかく(キャストの)体力を心配していました。けれど、ハリウッドの長い製作期間(今回は2カ月間の準備期間)は役作りを助けてくれます。ある程度の時間を与えてもらうことで監督やキャストとの間に信用も生まれますし、何よりも体作りは時間が必要。今回はありがたい準備期間をいただきました。
−−撮影現場には大掛かりなセットが組まれていたと聞きました。撮影を通して一番驚いたことはなんですか?
どのセットにも驚かされたんですが、やっぱりさっきの話にも出てきたロボットの頭部、操縦席のセットですね。本当にリアルサイズのロボットの頭がスタジオにあるんです。それがすごく大きくて、「ウィーンウィーン、ガンガン」って動いているのを見て「わあ、すごいな」って思っていたら、ギレルモ監督が「凛子はあそこに乗るんだよ!」って。「えっ!? あんな高いところに?」って驚きましたね(笑い)。あとはスタジオの中に大雨を降らせたり、ヘリコプターがあったり、規模が大きすぎました。
−−最初にオファーを受けたときは、実物大のロボットの中で操縦するとは思っていなかった?
全然、想像していなかったです。グリーンスクリーンで撮影するのかなって思っていましたから。でも、ギレルモ監督はできる限りリアルサイズのセットを作って撮影していました。さすがにKAIJUが動いたのは見たことがなかったですけどね。
−−そういう監督のこだわり一つとっても、作品への愛、映画への愛を感じますね。
すごく感じます。監督のためにみんなが頑張ろうって思っていたというか。そういう思いが映画にも表れていて。監督の日本に対する愛、オマージュ、尊敬もこの映画の端々から伝わってきます。
−−コンピューターグラフィックス(CG)が加わった、完成した映画をご覧になった感想も聞かせてください。
子どものころから怪獣やロボット映画を見て育ったんですが、この映画はただの怪獣映画じゃない、ただのロボット映画じゃないというか……、自分が出演しているのを忘れて見入ってしまうほど夢中になれたんですね。そういう意味では、いままで見たことのない作品でした。SF映画ではあるけれど、それだけじゃない、家族の絆や愛、友情、国を問わず人々が信じ合って戦う姿があって、それを多くの人に見てほしいと思いました。
−−もう何度も映画を見ているそうですが、何度見てもこのシーン好きだなと思うシーンはありますか?
たくさんあるんですけど……。やっぱり、ジプシー・デンジャーの動きが普通のロボットの動きじゃないことですね。ハートもあるし、何よりも刀を持っているというロボットは初めてだったので、刀を出してきたときは「すてき!」って思いました。あと、マコが初めて登場するシーンにかんして、監督がすごくこだわりを持っていてくれていたこともあって、その登場シーンも好きです。
−−最後に、演じたマコのキャラクターについて、マコのこういうところが好きとか、気に入っているところを聞かせてください。
マコは「凛子に近いキャラクターなんだよ」と言われていたので、頭で考えずに自分らしく演じた方がキャラクターに寄り添えるのかなと思って演じていました。マコはものすごく芯が強くてタフかと思えば繊細な一面も持っている女性。男性に対して奥手だというのも可愛らしくて(笑い)。育ててくれた父に対する尊敬や愛も彼女の言動からにじみ出ている、とても大好きなキャラクターです。
<プロフィル>
1981年1月6日生まれ、神奈川県出身。1999年に新藤兼人監督の作品「生きたい」でデビュー。2001年に出演した熊切和嘉監督の「空の穴」がいくつかの国際的な映画祭で称賛され、04年に出演の石井克人監督の「茶の味」はカンヌ映画祭で監督週間オープニング作品になった。アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督の「バベル」(06年)で第79回アカデミー賞、第64回ゴールデン・グローブ賞の助演女優賞にノミネートされて一躍国内外で有名になる。この作品をきっかけに、「ブラザーズ・ブルーム」(08年、未公開)や「ナイト・トーキョー・デイ」(09年)など海外の作品にも出演、一気に国際派女優として名をはせる。その後も「サイドウェイズ」(09年)、「ノルウェイの森」(10年)などに出演。待機作に、13年12月公開予定の日本の侍を題材にハリウッドで映画化した「47 Ronin」(キアヌ・リーブスさんとの共演)がある。
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