佐野元春:幻のドキュメンタリーが復活「今の世代への刺激に」

佐野元春さん
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佐野元春さん

 ミュージシャンの佐野元春さん(57)が、27歳の時に制作、1983年に劇場公開された後、マスター・フィルムの行方が分からなくなっていたロック・ドキュメンタリー・フィルムが発見され、9月7日から公開されている。80年のヒット曲「ガラスのジェネレーション」で「つまらない大人になりたくない」と歌い上げた佐野さんとファンは、30年前のライブ映像との“再会”に何を思うのだろうか。(瀬尾忠義/毎日新聞)

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 ドキュメンタリー映像のタイトルは「Film No Damage」。83年7月、全国公開された。その後、マスター・フィルムが所在不明。再上映や製品化ができなくなり、関係者やファンの間では「幻のフィルム」と知られていた。発見場所はレコード会社の倉庫。フィルムはソニーが最新のデジタル技術で映像や音質を向上させ、再上映を可能にした。佐野さんは「フィルムが見つかって正直うれしい。また、最新技術によってフィルムがよみがえり、新たな音楽ファンに見てもらう機会ができたことは喜ばしい」と笑う。

 映像はホテルの一室で、ライブ会場に向かうために身支度する佐野さんの表情をカメラが追う場面からスタート。ステージシーンでは、ジャケットを汗で濡らしながらギターを演奏したり、ピアノを弾きながら「ガラスのジェネレーション」をエネルギッシュに歌い上げるシーンなどがふんだんにある。迫力ある映像と音響の相乗効果で、タイムスリップして30年前のライブ会場の熱気がじんじんと伝わってくるようだ。

 ライブ映像の合間には、機材のセッティングを進めるスタッフの様子や、シングル「グッドバイからはじめよう」(83年)の15秒テレビスポットCMの撮影シーンなどが流れる。制作が進んでいた80年代初期は、ミュージックビデオがほとんどなかった時代で、「Film No Damage」は、日本初とも言える本格的ロック・ドキュメンタリー・フィルムだ。

 それにしてもなぜ、映像化を思い立ったのか。佐野さんは「当時、なんとなく自分のキャリアはそう続かないのではと感じ、活動拠点を米国に移そうと考えていた。もしかしたら日本に帰らないかもしれないとの思いもあり、それならばデビューから3年間のライブ映像をフィルムで記録しようとしたんです」と説明する。

 映像の構成は佐野さんが考え、撮影はカメラマンの井出情児さんに託した。「ミュージックビデオなどがほとんどなかった時代に、ドキュメンタリーとエンターテインメント性の両方を兼ね備えた作品を作りたかった」という。

 30年前のライブ映像を見直した佐野さんの心境を尋ねた。

 「当時の僕は、新しい世代が心を震わせる音楽、新しいライブパフォーマンスを自分の手で作って日本の音楽を変えたいと意気込んでいた。フィルムには僕の音楽の原点、そして若さ、つたなさが現れている。ノスタルジーを伝えるのではなく、今の世代が見ても価値がある映像になっていると思う。新しい音楽を求める世代への刺激になるはずだ」。

 映像は、80年代の音楽だけではなく時代の空気感を感じさせ、若いころの佐野さんを知らない世代でも楽しめそうだ。

 角川シネマ新宿など全国で9月中旬まで上映中。

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