出産・休養をへて2010年に活動を再開し、リリースやライブなど精力的に活動している矢井田瞳さんが、昨年のアルバム「panodrama」以来約1年ぶりとなるミニアルバム「123456」を18日にリリースした。バンドとエレクトロを融合したサウンドをコンセプトに、肩の力を抜きつつもメッセージを込めた作品に仕上がった。ミニアルバムについて話を聞いた。(榑林史章/毎日新聞デジタル)
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−−今回は初めてコンセプトを決めてから制作したそうですね。
はい。バンドサウンドと1980~90年代を彷彿(ほうふつ)とさせるようなエレクトロサウンドとの融合がコンセプトです。それに合うメロディーやコードを探す旅が、なかなか長かったのですが、断片的なものも含めると、踏ん張って20曲くらいは作りましたね。
−−20曲もあれば、フルアルバムにできたのでは?
確かにそうですが、そうやってなし崩し的にレコーディングに入ったのでは、今までと何も変わらないし、それでは次のステップには進めないと思って。それでプロデューサーの久保田光太郎さんと一緒に厳しく曲をジャッジして。本当にプロとして必要とされる曲か? 世に出すべき曲か? そういう話し合いを、すごく時間をかけて何度もして、それをクリアしたのがこの6曲です。
−−資料をいただいたとき、ダブルネックギターを持って写っているアーティスト写真がまず目に入ったのですが、これにはどういう意味が?
自分がこれから先どういう人でありたいかを考えたとき、やっぱりギターを弾いて歌っている人でいたかったんです。最近は、きれいにメークしてもらってきれいなライティングで撮ることには興味がなくて、それよりもいい意味で違和感があるくらいのほうが楽しいし。写真として面白みがあるものが表現できたら、それはアルバムの音にも通じると思ったので。だから、ダブルネックギターなんか持ってないし、弾いたこともないし、足を乗せているのが脚立だったり、意味もなくフォーマルドレスだったりするけど……。写真を見た人から「なんだこれは?」とバンバン、ツッコんでもらえたらうれしいです。
−−ジャケット写真もその違和感や面白みを表現していますね。
写っているのは、ニキシー管でできた時計と昔のトースターです。人工物の中に温かみがあるイメージです。タイトルが「123456」という6桁の数字なので、ニキシー管の時計がちょうど12時34分56秒になる瞬間にバシャバシャバシャって撮りました。数字は、この作品が6曲入りだし、ギターの弦は6本あるし。自分の音楽人生的にも、折り返し地点を過ぎたあたりにいる気がしていて、10を最大としたらちょうど6くらいまで来たんじゃないかという意味もあります。
−−さて1曲目の「DON’T CRY」ですが、イントロがちょっと変わっていますね。
呼ばれて飛び出てジャジャジャーン的な(笑い)。「DON’T CRY」って、めちゃめちゃこすられて(使い倒されて)きたテーマだから、単純に「泣かないで、元気出して」って言ってるだけの歌にはしたくなくて。どんなに元気出してと言われても、出せないときは出せないし。泣いた分だけ強くなれると言われても、実際はそんなことないことが多いし。そんなことを踏まえて、私なりに歌っています。それをマジメに歌うのは、少し気恥ずかしさもあったので、ノリのいい曲調に乗せました。
−−「地平線と君と僕」はアルバムで唯一矢井田さんがアコギを弾いているナンバーですね。
ああ、確かにアコギはこれ1曲だけですね。言われて気付きました(笑い)。歌詞もサウンドも耳ざわりの良さを大切にして、もしこの曲がラジオから流れてきたとき、少しでも言葉やサウンドが印象に残ってもらえるようにと思って作った曲です。自分と好きな人、自分と自分、歌詞の君と僕をそれぞれの状況に合わせて聴いてもらえたらうれしい。ミュージックビデオは光と影を巧みに使っていて、カラーなんだけどモノクロに感じるような変わった映像です。コンピューターグラフィックス(CG)でなんでも映像にできちゃう時代に、これを人力でやったんだ!というところに驚いてほしいし、何度も見て楽しんでほしいです。
−−「Oasis」は「誰かのハンカチでいたい」というフレーズがグッときますね。
誰かのオアシスでいたい……そう言える自分でありたいし、そうなれるのが理想だなと思います。自分の目を通した景色ではありますが、これもそれぞれの生活に重ねて聴いてほしいです。ハンカチって言葉は、考えに考え抜いてようやく出てきました。ちょっと控えめで品のよさがあっていいなと思っています。関西人は「Oasis」と聞いて「阪急OASIS」を想像するかもしれませんが、まったく関係ないので。念のため(笑い)。
−−「YES or NO」はパンチの効いたナンバー。「あまよの月」は、スケールの大きなシンセサウンドで、本当に多彩な作品ですね。
「YES or NO」は、制作の最後の方で書いた曲で、ちょっと嫌だなと思ったり、気持ちがやさぐれたりすることが誰でも日々あって、その瞬間、瞬間を一つにギュッと凝縮した感じです。ただ聴いたとき重くならないように、トリッキーで遊びのあるサウンドを心がけたので、楽しみながら聴いてほしいです。「あまよの月」の「あまよ」は、雨の夜のこと。雨雲に隠れて月は見えないけど、そこに月がないわけではないという意味。届きそうで届かない夢や目標はすごくもどかしいけれど、そういう気持ちを抱いているときは、すごく前向きだったり幸せだったりする。そんな胸がドキドキする感じを表現しました。
−−ラストの「GOOD OLD DAYZ」は、少し懐かしんでいる感じでしょうか。
ふと懐かしい写真が出て来たときの、なんともいえない気持ちってありますよね。そのころに戻りたいというのとも違うし、ただ懐かしむ感じとも違って、ほっこりするというか。そのころの思い出が、ただそこにあるということが表現できたらと思って作りました。ただ、あくまでも気持ちは未来に向かっているし、次の作品に期待してほしいというところで、「新しい世界でまた会おう」というフレーズで最後を締めくくっています。
−−アルバム全体に、自然体でカッコつけてなくて。それでいて聴いた人を応援するようなテイストがあってすごく心に響きました。
今の私は、不格好だろうがなんだろうが、それでもいいと思っていて。きれいごとばかりは歌っていられないというか。人生なんでもうまくいくばかりではないということを、しっかりと表現することで、歌詞の世界観が立体的になると思ったし。「ダメなときは何をやってもダメだから。隣にいてもいいのなら、ずっと隣で泣いているのを見守りますけど、どうですか?」みたいな感じです。頑張れ、頑張れ!と応援する人は、私でなくてもたくさんいる。じゃあ私に何ができるの? それを考えた結果が、このアルバムです。
<プロフィル>
1978年7月28日生まれ、大阪府出身。2000年7月にシングル「B’coz I Love You」でメジャーデビュー。シングル「My Sweet darlin’」などがヒット。09年の産休をへて10年に活動を再開。この夏は「矢井田瞳 夏の元気祭り728・815」と題したイベントを東京と大阪で開催。11月30日に愛知・Diamond Hall、12月11日に大阪・なんばHatch、12月12日に東京・赤坂BLITZでツアー「矢井田瞳LIVE TOUR 2013『123456』」を開催する。
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