プレーンズ:ホール監督に聞く デートの場面「どうやったらロマンチックになるか頭を悩ませた」

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 ディズニー/ピクサーの大ヒット劇場版アニメ−ション「カーズ」シリーズ。あの世界観を、今度は飛行機を主人公に描いてみたら? そんな発想から生まれた「プレーンズ」が、21日から全国で公開された。農薬散布機のダスティが、大空で繰り広げられる世界一周レースでチャンピオンになるという夢に向かって邁進(まいしん)するアドベンチャー作品だ。空中アクションはもとより、友情あり、ロマンスあり、感動ありの今作はクレイ・ホール監督が手掛けた。ダスティと同じで高いところが苦手なホール監督だが、実は大の航空機好き。「自分の夢がかなったような企画」と、やりがいがあったという今作について来日したホール監督に話を聞いた。(りんたいこ/フリーライター)

ウナギノボリ

 −−ホール監督は、大の航空機好きとうかがっています。今回の監督を引き受けたのは、やはり航空機への愛着からですか?

 もちろんだよ! これは私にとって夢がかなったような企画なんだ。私の父も祖父もパイロットで、幼いころから飛行機に対する愛を彼らから受け継いできた。だから(今作のプロデューサーである)ジョン・ラセターから監督オファーの電話がかかってきたときは、迷うことなくOKしたよ。とはいえ、実は私は高いところが苦手。だからダスティ(声:瑛太さん)が高所恐怖症という設定は、私の経験から生まれたものなんだ。

 −−ダスティは世界一周レースの開催地の一つであるインドで、インド代表の美女“イシャーニ”(声:小林沙苗さん)とタージ・マハル上空でデートをします。あの場面はとても美しかったです。

 タージ・マハルには今回のリサーチのために実際訪れ、ちょうど日の出と日没時にその上空を飛ぶことができた。あのデート飛行のシーンは、男の子と女の子が手をつないで公園を歩いているイメージなんだ。私はこう見えてロマンチックでね(笑い)。だけど、飛行機2機をどうやったらロマンチックに飛ばせられるかと頭を悩ませたよ。でも、白い鳥を飛び立たせたりして、とても美しいシーンに仕上がったと自負しているよ。

 −−感情表現をする際、ダスティたちキャラクターは機体の形が変わったりすることはありません。にもかかわらず彼らの喜怒哀楽が豊かに伝わってきました。

 今回、大変だったことの一つがまさしくそれで、ダスティたちの表情や感情の機微をどうやって観客に伝えるかということだった。例えば目というのは、感情表現をする際に大きな役割を果たすものが、自動車の場合はフロントグラスが大きいから黒目をいろんなところに移動させられる。対して飛行機の風防は小さいから、移動範囲も限られてくる。口にしても、サメや犬のように下のほうに付けざるを得ないから見えにくい。それにプロペラが目や口の邪魔になってしまう。そもそも、翼が邪魔で飛行機を並べることが難しい。2機はおろか、3機を並べて話をさせようとするとすごく大変なわけだ。そういう困難なことはあったけれど、彼らの感情があなたには伝わったみたいだからよかった、とホッとしているよ(笑い)。

 −−ダスティのほかにも、勝つためには手段を選ばない世界チャンピオンの“リップスリンガー”(声・森田順平さん)やメキシコ代表で情熱的な“エル・チュパカブラ”(声・井上芳雄さん)など、キャラクターがみな個性的でした。その中には日本代表の女性レーサー“サクラ”(声・女優の仲里依紗さん)がいました。彼女のデザインはどのように生まれたのですか。

 サクラは、女らしさを持ちながらも強い意思を持つ日本の女性をイメージした。表情豊かにしたかったから、まつげを含め目のあたりをとくに意識した。塗装は、もちろん桜の花をモチーフにしている。外国人にとって桜は、日本をイメージしやすいからね。ほかにも、名前や声優などを検討し、結果、とても素晴らしいキャラクターができたと思っている。それに、(サクラに一目ぼれする)エル・チュパカブラとの相性もすごくいいでしょう? とはいっても、彼女は芯のある女性だから、そう簡単にはエル・チュパカブラのアプローチにはなびかないんだけれどね(笑い)。

 −−飛行機に愛着があるからこそのこだわりがあったと思います。製作中、アニメーターとのやりとりで意見の相違はありましたか?

 しょっちゅうあったよ(笑い)。アニメーターは、アニメーションだからこそのアイデアをいろいろ繰り出してくるものなんだ。例えば「監督、翼を波状に動かしたらどうですか」とかね。だけど、金属で作られている飛行機は決してゴム状に曲がったりはしない。「カーズ」もそうだが、ラセターの世界は、事実に根ざしているからこそ、見ている人に迫真の作品を届けられるという考え方なんだ。だからアニメーターとは常に話し合っていた。とはいえ、これを写実的なドキュメンタリーのような作品にしたかったわけではないから、アニメーションでありながらリアルだと感じられるよう、一生懸命考えて作り上げていったんだ。

 −−日本の宮崎駿監督の作品のファンとのことですが、飛行機を扱った宮崎監督の「紅の豚」(1992年)や「風立ちぬ」(2013年)はご覧になりましたか?

 「風立ちぬ」はまだ見ていないが、「紅の豚」からは影響を受けている。そもそも宮崎監督は創造性に富み、従来の作品がやってきたようなクリシェ(常とう句)を用いない作品を作る方。当然、独創性という意味でもいろんなひらめきを感じさせる。「紅の豚」は特に飛行のシーン、雲の使い方や、機体が雲間を突き抜けて行ったり、雲の下を飛んだり、そういうシーンは大いに参考にさせてもらったよ。

 −−「プレーンズ」を楽しみにしている人にメッセージをお願いします。

 勝てそうもないキャラクターが自分の夢をかなえるために奮闘するという最高のストーリーが、みなさんを待っています。めちゃめちゃ楽しくて、アクションとアドベンチャーが満載で、しかも感動できる。ぜひ見てください。

 <プロフィル>

 米カリフォルニア州バーバンク出身。カリフォルニア芸術大学(カルアーツ)で学び、卒業後、ディズニーの長編映画「An All New Adventure of Disney’s Sport Goofy」(1987年)に携わる。これまで手掛けた作品に、テレビアニメシリーズの「シンプソンズ」(92~98年)「キング・オブ・ザ・ヒル」(97~2003年)。「ティンカー・ベルと月の石」(09年)では監督を務めた。

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