ダンダダン
第8話「なんかモヤモヤするじゃんよ」
11月21日(木)放送分
ここ数年、テレビアニメ「ガールズ&パンツァー(ガルパン)」や、ブラウザーゲーム「艦隊これくしょん-艦これ-」など実在した兵器やパイロットをフィーチャーした戦記ものコンテンツが人気だ。現在までに2回のテレビシリーズと劇場版が公開された「ストライクウィッチーズ」も大戦中の空軍兵器をモチーフとしており、テレビアニメが放映されるなど「歴女」(歴史好きの女性)ブームを呼んだとされる「戦国BASARA」シリーズも日本の戦国時代がテーマであり、広い意味では“戦記もの”だ。
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一度きりであれば偶然かもしれないが、ほぼ毎年のようにヒット作が途切れずに現れ、「ガルパン」に至っては舞台のモデルとなった茨城県大洗町がファンの“聖地”となり、観光を活性化して町おこしを助ける現象は、一部マニアの域を超えている。「戦記もの」が、なぜ息長く広い支持を集め続けているのだろう。
戦記ものが作られ続ける理由は分かりやすい。歴史上の事件や人物は、版権や使用料に気兼ねせずに使える「貴重なフリー素材」というのがまず一つ。すでに数十年から数百年も人々に親しまれた「原作」でもあり、新作の懸念材料である知名度をクリアする上でも申し分ない。
コスト的な事情以上に、戦記ものは物語を作る人々のイマジネーションがわき出る源泉だ。「鎧伝サムライトルーパー」など戦記から想像を膨らませたジャンルは数十年来のアニメの定番であり、「キングダム」をはじめ戦国マンガも枚挙にいとまがない。数ある歴史小説も、後世に残された資料から生まれた2次創作といえる。
視聴者・ユーザー視点から見れば、戦記ものは、嫌う人がいないコンテンツである。一国の武将や無名の庶民までが生きる群像劇であり、主人公も子供時代から晩年までの人生が描かれ、年齢性別を問わず誰もが「自分」を重ねられる物語だ。
優れたコンテンツは間口の「広さ」と内容の「深さ」を備えている。ゲームやアニメはパッケージの購入や月額課金の負担を背負い続けるリピーターを引きつける「深さ」に重きが置かれるが、戦記ものはドラマやキャラクターから「史実」へとつながっており、歴史家が一生をかけるほどの「深さ」は保証されている。
ひいては生涯学習にも通じる。戦記ものは「現代と地続きの歴史」をベースとしているから、閉ざされがちな「オタク的な知識」は、開かれた「教養」に近づく。家族やオタク以外の友人とも話ができる教養は、イコール「時間を無駄にしていない」という感覚になる。時間消費型のコンテンツであるアニメやゲームにとって貴重だ。
逆に言えば「深さ」を知る人々の層がゼロからの創作よりも分厚い分だけ、戦記ものはごまかしが効かず、制作側の浅さがバレやすい分野でもある。その点、現在の戦記ものコンテンツを手がけている中核スタッフは、「アニメから戦記」というより「戦記畑からアニメ(主に萌え)」にアプローチした「筋金入りの戦記マニア」が関わり続けている。「ストライクウィッチーズ」や「ガルパン」などのヒットコンテンツは、そろってスキが非常に少ない。戦記ものを普及させるために心を砕いてきた人たちの長年の積み重ねの上にブームが花開いているのだ。
かつては量産されて数々の戦場で活躍した航空機や戦車から、一隻ずつ名前が違い活躍の場を与えられなかった不遇な個体もある艦船へと人気が広がっている。より「深さ」を増していくコンテンツを追うためには、昔であれば高価な書籍や図書館通いなどの金銭・時間的な負担を強いられた。そうした「深さ」のコストを、インターネットやSNSは劇的に下げた。ツイッターなどでリアルタイムに情報交換されたフローの知識は、ネットに「ストック」され、PCやスマートフォンでいつでもアクセスできる。戦記に詳しいベテランが情報を提供し、新人たちが感謝を表すコミュニティーが育ちつつある戦記ものは、今後ますますユーザーの裾野を広げていきそうだ。(多根清史/アニメ批評家)
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