スタジオジブリ:内情に迫ったドキュメンタリー 砂田監督が泣く泣くカットした宮崎駿の言葉とは?

最新ドキュメンタリー映画「夢と狂気の王国」について語った砂田麻美監督
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最新ドキュメンタリー映画「夢と狂気の王国」について語った砂田麻美監督

 デビュー作「エンディングノート」で数々の映画賞に輝いた砂田麻美監督が「スタジオジブリ」の内情に迫った映像をまとめたドキュメンタリー映画「夢と狂気の王国」のDVDとブルーレイディスク(BD)が21日に発売された。世界各国で愛される作品を生み続けるスタジオジブリで核となるメンバー、長編アニメの製作からの引退を表明した宮崎駿監督、高畑勲監督、鈴木敏夫プロデューサーらを中心に密着し、砂田監督が自らカメラを携えて約1年にわたってスタジオに通い詰め撮影を行った。今回のDVD化を機に、砂田監督に改めて映画について聞いた。

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 −−初作品「エンディングノート」で脚光を浴びた中での製作でしたが気負いなどはありましたか。

 2本目は全然違うものを作ろうと思っていて、フィクションをやろうとも思っていたし、そもそもドキュメンタリーをやるつもりがなかった。ドキュメンタリーをやるとしてもカメラや音声クルーを連れて行くオーソドックスな撮影を、と思っていたので、また一人かとは思いました(笑い)。

 −−今作が映画という形に行き着くまでの経緯を教えてください。

 最初はDVD化のために作るドキュメンタリーで、ジブリに関連した何かということでした。宮崎監督も高畑監督もインタビューができないなどの条件があり、難しい企画でしたし、自分は今までジブリに縁もゆかりもなかったので、もし自分が大のジブリファンで小さい時からジブリ漬けだったら逆にやっていたか分からないですね。

 −−改めて映画という形にしてよかったと思うことはありますか?

 スタジオジブリに流れる“空気”を一番感じ取ってもらえるのが映画館だと思います。編集は普通の部屋でやるため、周りのいろいろなものが視界に入り、スクリーンで試写するとテンポが変わって見えるので編集し直したりする。暗闇の中で見る映像と、日常生活の中で見る映像は違うものなので、最初に暗闇の中でどういうふうに光が動いていくか、どういう角度から紙や鉛筆の音が聞こえてくるかというのを表現できたのは、すべての人がジブリに行けるわけではないので“疑似体験”という意味では一番近い形だったのではないかと思います。

 −−約1年ほどスタジオジブリに通い詰めたわけですが、初期と終盤で印象は変わりましたか。

 スタジオジブリに対してイメージする、不思議な本当に存在しているのかいないのか分からない、秘密に包まれた場所という部分では変わりませんでした。みんなが、どういうところなのだろうと思う不思議さは実際に行ってもそのまま。行ったら“魔法がとけちゃった”のではなく、働いている人たちやスタジオから見える四季ごとに全然違う表情など、すべてがある意味、イメージ通りの場所でした。

 −−イメージは変わらなかったということでしょうか。

 行ったことで感じ方が変わった部分は勤勉さの度合いが、特に3人の働く量が、想像以上だったということ。毎日決められた時間に決められた分量をコツコツと休まずにこなしていく。明らかにこの3人は誰よりも働いていて、すごいことだなと思いました。

 −−大量の素材をまとめていく際に重視した点は?

 通うことで感じた“スタジオジブリのリズム”というものを崩さないようにしました。自分はたまたま行くことや撮影を許されたのですから、みんなに“おすそ分けする義務”がある。私という目を通してだけれども、演出という意味においてできるだけ忠実に描きたいと思った。スタジオ前の大きな木の下から見上げた時の光のこぼれ方や、作業している宮崎監督の横顔など、誰もが1日ジブリに行くことを許されたら、どういう角度からどういうふうに見つめるかを考え、驚きとか新鮮な気持ちをなるべく残したいと思っていました。

 −−作業を進める中で泣く泣くカットしたシーンはありますか。

 ある日、屋上で2人で話をしている時に、宮崎監督が「生まれ変わったらダンゴムシになりたい」とおっしゃったんです。ダンゴムシを息子さんが家に持って帰って来た時があって、(宮崎監督が)水槽に入れ、夜中に懐中電灯で照らしたら「オームに見えた。だからダンゴムシは無欲ですごく立派だ」と。最後まで(その部分を映画に)入れたいなと思っていたのですが……。

 −−興味深い発言ですね。監督が特に印象に残っている場面はありますか。

 雪の日に宮崎監督が傘を差して通勤してくるシーンが好き。雨の日も風の日も鉛筆を動かし続けるという宮崎監督をすごく感じますし、シンガポールから来たアニメーターの方が働いていて、その人に「ほら雪だよ」と言っている子どもみたいな宮崎監督のカットがすごく好きです。

 −−宮崎監督が子供たちをバックに歩くシーンは、未来を感じさせながらもどこか哀愁が漂っている。あのシーンをクライマックスにした決め手は?

 スタジオを守るように立つ大きな木が新緑になった時、宮崎監督が後ろから子供たちがついてきていることを気付いているようないないような(雰囲気で)後ろを振り返らず歩いてくる。背中を子供たちに見せてまっすぐに歩く姿がすごく“スタジオジブリ”だと思いましたし、アニメーションを通して子供たちに見せてきたものを感じさせるワンカットですね。

 −−すごく印象深い場面になっていますが、どのように撮影されたのでしょうか。

 あのようにアトリエからスタジオに行く道でカメラを構えて待っていたのはあれ1回だけ。あのカットを撮れた時にドキュメンタリーの意味というものを強く感じました。ドキュメンタリーじゃなければ絶対に作れなかったカットですね。

 −−突然ですが、初めてはまったポップカルチャーは?

 テレビドラマです。将来映像の仕事に就きたいと思ったきっかけになりました。

−−特に好きだった作品を教えてください。

 言うのが少し恥ずかしいんですけど(笑い)、『高校教師』が好きでした。(脚本家の)野島(伸司)さん(の作品)がすごく好きだったのでよく見ていました。

−−2作続けてドキュメンタリーが続きましたが、次回作はどのようなジャンルに挑戦したいですか。

 次回はフィクションをやりたいと思っていますが、しばらくは小説など文章を書くことがしたいと思っています。

 −−DVDで初めてこの映画を見る人に向けて、見どころとお勧めの見方などお願いします。

 字幕をオンにすることにより宮崎監督らの会話がまったく違うとらえ方ができるので、ぜひ字幕をオンにして何を会話しているのか、宮崎監督が何をつぶやきながら「風立ちぬ」を作っていたかを見てもらうと、劇場とはまた違う楽しみ方ができると思います。

 *……ブルーレイディスク5800円(税抜き)▽DVD4700円(税抜き)、発売:ウォルト・ディスニー・スタジオ・ジャパン/レーベル:ジブリがいっぱいCOLLECTIONスペシャル

 <プロフィル>

 1978年生まれ。慶応義塾大学在学中から映像ドキュメンタリーを学び、卒業後はフリーの監督助手として是枝裕和監督らの映画製作に従事する。「市川崑物語」(2006年)、「歩いても 歩いても」(07年)、「空気人形」(09年)などの製作に参加し、12年には初監督作品「エンディングノート」を発表し、山路ふみ子映画賞・文化賞、報知映画賞・新人賞といった国内外の多数の賞を受賞する。

 (インタビュー・文・撮影:遠藤政樹)

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