ノア 約束の舟:アロノフスキー監督に聞く 方舟の3分の1を実際に作り「リアリティーをもたせた」

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 旧約聖書の「創世記」に記された「ノアの方舟」伝説を、ラッセル・クロウさん主演で映画化した「ノア 約束の舟」が、13日から全国で公開中だ。メガホンをとったのは「ブラック・スワン」(2010年)でナタリー・ポートマンさんにアカデミー賞主演女優賞をもたらしたダーレン・アロノフスキー監督。人類最古の伝説の映画化に挑んだアロノフスキー監督に話を聞いた。

ウナギノボリ

 「(ノアの方舟という)これほど面白く偉大な物語を、これまで誰も映画にしていなかったことが不思議でならなかった。それが作れるのだから、これほど最高の機会はない、そう思っていた」と語るアロノフスキー監督が「ノアの方舟」の映像化を考えるようになったのは13歳のとき。学校で、平和についての詩が課題になった。そのとき、ノアと方舟をテーマに書き、それが国連のコンテストで優勝した。そのことが、ストーリーテラーを目指すきっかけになったという。課題を出した先生への恩返しは、今作に出演させる形で実現させた。クロウさんがふんするノアがすれ違う片目の老婆と、ノアの夢の中に出てくる死体を演じているのが先生だ。恩師なのだから、もう少しいい役を演じてもらってもよさそうなものだが、「出演できるということだけで彼女は大喜びしてくれた。もちろん彼女には感謝しているし、もっといい役をあげたいところだけれど、僕は昔っからいたずらっ子だったから、あえてそういう役をやってもらったんだ」と笑顔で語る。

 映画には、巨大なノアの箱舟が登場する。原典によるとその大きさは、現在のメートルに換算すると、高さ約13メートル、幅約22メートル、長さ約133メートルにも及ぶ巨大なものだ。この舟を、アロノフスキー監督は「長い間悩んだ末に聖書の記述通りにする」ことを決意。建造には半年かけた。ただ、すべてを作ることは困難だったため、実際の大きさの3分の1だけを作り、あとは視覚効果に頼った。しかし、それでも長さ約52メートルにも及んだという。しかも内部は原典に忠実に3層構造にした。これによって俳優たちも「リアリティーを持った演技ができるようになった」と話す。また、動物が箱舟に乗り込むシーンついては、「観客が驚くシーンにしたかった」とあえてコンピューターグラフィックス(CG)で描く方を選択した。そういった数々の英断が、今作の迫力とリアリティーを後押ししている。

 とはいえ、旧約聖書における創世記のノアについては、その記述はわずかしかない。しかもノアは、方舟を下りるまで一言も話すことはない。演じたクロウさんにしてみれば、手がかりが少ない分、役作りは困難だったに違いない。その点についてアロノフスキー監督は「彼(クロウさん)とはとにかくたくさん話し合った」と証言する。そして、「ラッセルは、すべてを理解していないと演じられないタイプの役者。だからとにかく詳細を話し合った。シーンについて、せりふについて、あるいは、感情について。彼はそれをすべて解釈した上で演技をしてくれた」とその姿勢と演技をたたえる。

 アロノフスキー監督は今回の作品について、聖書を題材にしてはいるが宗教的意味合いは持たせず、「神話」と位置付けてアプローチしていった。その理由を「創世記の最初の10章は、世の中がどのように成り立っていったのかが描かれている。その後に登場するアブラハムは歴史上の人物であり、神との対話はあるが、奇跡についてあまり描かれなくなる。でも、天地創造の6日間は奇跡を中心とした物語で、現実を帯びていない神話的なもの。にもかかわらずそれが何度も語られてきたのは、世の中を説明するためにある物語、宗教とは無関係の人類の物語だからだと思う。だから神話としてとらえた方が、より力を持つと判断した」と話し、今作が誰にでも受け入れられる普遍的な物語であることを強調する。

 映画は、人類の創生を描くとともに、ノアとその家族についての物語ともいえる。映画には、蛇が脱皮したあとの抜け殻が重要なアイテムとして登場する。それについてアロノフスキー監督は「(聖書における)『エデンの園』には、アダムとイブが禁断の実を食べ、羞恥心が芽ばえ、衣類を身にまとうというくだりがある。その衣類が蛇の皮だったという説もある」と断った上で、次のように説明する。「私たちは、より特別な意味を蛇の皮に持たせたかった。蛇の皮には、(アダムとイブが)エデンから追放される前の状態、すなわち、罪を知らない世界、純粋さを象徴させている。だからそれには特別な力があり、ノアの一族が代々受け継いでいくという意味合いを持たせたんだ」。

 日本の観客へのメッセージを求めると、アロノフスキー監督は「これは宗教に関係なく、神話ととらえればすべての人のものだと思う」と話した上で「世界各地に洪水にまつわる伝説は残っているし、日本にも津波があった。それも長い時をへて神話になっていくだろうし、(2012年10月に起きた)ニューヨークのハリケーン“サンディー”もいつかは神話になっていくだろう。そういうふうに、人間と水、海は切っても切れない関係だし、それが大きな神話を生み出していく。ちょうど『指輪物語』や『トロイの木馬』が神話になっているようにね」と締めくくった。映画は13日から全国で公開中。

 <プロフィル>

 1969年、米ニューヨーク市生まれ。98年、脚本も兼ねた「π」で長編監督デビュー。2作目の「レクイエム・フォー・ドリーム」(2000年)は、カンヌ国際映画祭でプレミアを飾るとともに、「ローリングストーン」誌をはじめ150以上の年間トップ10リストに入るなど高く評価された。「ファウンテン 永遠につづく愛」(06年)をへて、「レスラー」(08年)はベネチア国際映画祭で最高賞である金獅子賞を獲得。そして「ブラック・スワン」(10年)は、米アカデミー賞作品賞をはじめとする5部門でノミネートされ、主演のナタリー・ポートマンさんに主演女優賞をもたらした。

 (インタビュー・文・写真/りんたいこ)

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