小新井涼のアニメ考:「隠れオタク」の擬態化と表徴

「隠れオタク」の判別方法を語る“オタレント”の小新井涼さん
1 / 3
「隠れオタク」の判別方法を語る“オタレント”の小新井涼さん

 週に約100本(再放送含む)のアニメを視聴し、アニメを使った町おこしのアドバイザーなども務める“オタレント”の小新井涼さんが、アニメにまつわるさまざまな事柄についてつづります。第2回は、小新井さんが、自身も経験がある「隠れオタク」について語ります。

ウナギノボリ

 ◇

 オタクの自覚は小学校3、4年生くらいから持ち始めていました。自分がアニメ好きというのを隠していかにも一般人として振る舞う“擬態化”を始めたのも同じくらいの時期です。そこから高校2年生あたりまでをいわゆる「隠れオタク」として振る舞ってきた私ですが、“オタクカミングアウト”を経て今は一転このように(若干行き過ぎなくらい)自分がアニメ好きということを公表しております。

 自分の好きなものを必死にひた隠すと聞くとなぜそんなことをするんだろうとちょっと不思議に思われるかもしれません。しかし改めて考えてみると、そこには隠したい理由や、隠れてオタク活動をするための知恵なんかもちゃんとあったりするのです。

 そんな経緯もあって今回は、自分の経験を踏まえつつ「隠れオタク」という存在について考えていきたいと思います。

 まずは隠れオタク時代にしてきた自分なりの一般人への“擬態化”というものをご紹介します。とは言っても特別なテクニックや裏技なんていうものはありません。大事なのはとにかくオタク仲間以外の前では「アニメってなにそれおいしいの?」としらを切りきることです。割とただの根性論ですね。

 しかし注意していても、ついつい話の流れでコアなオタクネタを口走ってしまい、その場が凍りついてしまう瞬間もあります。そんな時は「おおおお弟がハマっててさー!」ととっさに家族を犠牲にしました(後ですごく謝りました……)。

 努力のかいあってうまく擬態化できていても安心してはいけません。これは友達の話……。私ではなく友達の話なのですが、普段はマナーモードにしている携帯が運悪く授業中に鳴ってしまい、よりによって着メロにしていた電波ソング(MOZAIC.WAVさんの「最強×計画」だったかなあ……)がクラス中に流れ、あわててせきでごまかしたという出来事がありました。一瞬の油断で必死の努力があやうく水の泡ということでさすがにかなりあせりましたよ。いや、友達の話ですがね。

 最初にも言いましたが、そもそもなぜそんなにも自意識過剰に自分の好きなものをひた隠しにする必要があったかというと、「アニメ好きということを不用意に周りに広めないように」という気持ちが強かったように思います。

 好きなキャラクターや作品の趣向やカップリング(異性同性限らず恋愛関係を連想させるキャラクターの組み合わせ)というのは、初対面の人に対して自分の性癖を話すのと同じくらいハードルが高く、また開けっぴろげにするものではないなという感覚がありました。それに、二次創作やコスプレなどが版権的に“グレーゾーンなこと”であるという認識からも、オタクのコミュニティー外に、むやみやたらとそれらの文化を広めまいとするために保守的になってしまうのも理由のひとつでした。

 そんなこともあり、隠れオタクは同じ趣味である人の前でのみ自分の素を出すようになります。しかしお互いに自分がオタクであることを隠しあっていては同志を探し出すのも至難の技です。そんな時オタクがさっそうと取り出すのが、伝家の宝刀「オタクリトマス紙」です!

 とはいえ実際に「オタクリトマス紙」というものがあるわけではないのですが、日々の会話の中で「こやつ、もしや同志……!」と感じた時に、相手がオタクかどうかを確認するための質問や判断材料などのことを勝手に名づけています。その回答いかんによってはオタクであるかないかなどに加え、どのレベルやジャンルにおけるオタクかなども分かったりする便利なアイテムです。

 たとえば、最近見たアニメを聞いた時に「今期(クール)だと……」という単語が反射的に出る人はかなり深夜アニメをたしなんでいるとみていいでしょう。そもそも非オタはなかなか「クール」でアニメを区切りません。

 その他にも、非オタが聞いても分からなそうな名ぜりふややりとりのテンプレートを会話にまぜてみるのもありです。これは状況によっては捨て身の作戦ですが、仲間がいれば一気に打ち解けられるかもしれません。最近ですと「心臓を捧げよっ!」とかですね。右手を左胸に持っていった人がいたらその方は「調査兵団」です。あなたの仲間です。

 実家住まいだったり、地元が近いのにお盆と年末に3日ずつバイトを休むあの子にそっと「有明?」とたずねる方法もあります。そっとうなずけば十中八九コミケ参加者です。

 他にも方法は人それぞれにあると思いますが、これらの例は隠れオタクをあぶり出すための“踏み絵”ではなく、あくまでも隠れているオタク同士が仲間を探す“リトマス紙”としてとらえてもらえればと思います。

 前回のコラムで少し触れた通り、さまざまな過渡期を経て“オタク”という言葉への認識は、誕生当初からかなり変わってきています。今後さらにオタクという単語のマイナスイメージが少なくなるにつれ“開けっぴろげにできないこと”という意識が薄らげば、いつか“隠れオタク”がいなくなる日も来るのでしょうか。

 そうなるとしても、コアな話をするコミュニティーの場は残しつつ、好きなことを好きと言うことを認めてもらえるようになれるのならばそれもすてきだと思うのです。

 ◇プロフィル

 こあらい・りょう=埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。アニメ好きのオタクなタレント「オタレント」として活動し、ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」やユーストリーム「あにみー」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)のアニメを見て、全番組の感想をブログに掲載する活動を約2年前から継続。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、社会学の観点からアニメについて考察、研究している。

写真を見る全 3 枚

アニメ 最新記事