日本でもついに公開され世界中でヒットを続けるハリウッド版「GODZILLA」。往年のゴジラファンはもとより、多くの映画ファンの注目を集める今作について、今年5月に米ハリウッドで開催されたワールドプレミアに出席、仕上がりに大満足の俳優の佐野史郎さんが、その魅力を存分に語った。
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佐野さんは、自他共に認める大のゴジラファン。今作の日本語吹き替え版では、渡辺謙さん演じる芹沢猪四郎博士らとともに米軍空母でゴジラを追う分析官の声を担当している。今作について佐野さんは「もう、素晴らしかったですよ」と絶賛し、その理由として、「第1作のゴジラの起源に触れていること」を挙げる。ワールドプレミアで初めて見る前は、「どんな形相をしているのか、熱線をはくのかはかないのか、そういうことも含め、渡辺謙さんやスタッフのみなさんにはとにかく僕に何も言わないでくれとお願いして、まっさらな気持ちで見ましたが、それはそれは素晴らしかった。オリジナリティーがあり、過去のゴジラの系譜に最大限の敬意を表している」と最大の賛辞を贈る。
1954年に公開されたシリーズ第1作「ゴジラ」は、「母親の胎内にいた」ので見られなかったという佐野さん。しかし、62年の第3作「キングコング対ゴジラ」を小学2年生のときに劇場で見てからは、途中、ゴジラがマンガ「おそ松くん」中のギャグ「シェー」のポーズをとる(65年の第6作「怪獣大戦争」)など擬人化されるのを気にしつつも、「毎回毎回楽しみに見続けていた」という。それでもさすがに驚いたのは、高校生のころ、「ゴジラ対ヘドラ」(71年)を見たとき。「ゴジラが空を飛んだんですよ(笑い)」。その後はリアルタイムで見ることはなくなったが、それでも折に触れ、すべてのゴジラ映画を見てきた。
東宝版の「ゴジラ」はこれまで人間が着ぐるみの中に入り演じていたが、今回はフルCG(コンピューターグラフィックス)だ。それについても「(CGであることを)まったく忘れさせます」と太鼓判を押す。そして、ゴジラの動きを人が演じ、それをパフォーマンスキャプチャーで取り込んでいることに触れ、「空想で動かしているわけではなく、哺乳類(ほにゅうるい)の動きを肉付けしていっている」、その作業からは「ギャレス監督の、何を作りたいか、何を見せたいかという精神が伝わってくる」と、今作のギャレス・エドワーズ監督の手腕をたたえる。ちなみに今回ゴジラを“演じた”のは、映画「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのゴラムや「猿の惑星:創世記」(2011年)のシーザーなどを演じたアンディ・サーキスさんだ。
映画には、芹沢博士がヒロシマについて触れる場面がある。その点については、「原爆の犠牲になった方々の心情に寄り添うシーンで、おそらく、ハリウッド映画史上初めて描かれたのではないか」と佐野さんは推測する。もともと54年版の「ゴジラ」には、「戦没者の慰霊」の意味が込められているとされている。佐野さんは、今回のゴジラはハリウッドで作られはしたものの、「日米という枠を超えて、相手の立場に立って描いている。そこにリアリティーがある」と指摘する。その上で、「ギャレス監督が英国人だからということがあるのかもしれませんが、そこまで踏み込んだことは、最も評価されるところだと思います」と、ここでもエドワーズ監督の映画に込めた精神を評価する。
今作は、東日本大震災によって起きた福島原発の事故も想起させる。ゴジラの出自を振り返ると、「そこは避けては通れないでしょう」と佐野さんも理解を示す。実は佐野さん自身、東日本大震災直後、東宝関係者に「今こそゴジラを作るべきだ」と直訴したことがあったという。しかしそのころすでに今作のプロジェクトが始動しており、佐野さんの思いは遂げられなかったが、「ギャレス監督は、シナリオを何度も書き直されたと思うんです。9.11についても、あれから10年以上経っていますが、ビルが倒壊するシーンは当時を思い起こさせる」と話し、今作が「ゴジラの眼差し」を通して今の世界を映し出していると分析する。
さらに佐野さんは、自身が造詣の深い日本神話に言及し、「僕にとってゴジラは、出雲の龍蛇(リュウジャ)様の化身を暗示しているし、キングギドラを見たときにはヤマタノオロチを、モスラはオシラ様を、ラドンはヤタガラスを思い浮かべた」と独自の見解を披露。その点で98年に作られたローランド・エメリッヒ監督版の「GODZILLA ゴジラ」には、そうした「日本の神話的背景が見当たらず」、その上、「(爆発した)車に息をはいたら、それによって火を吹いたような描写」になっているなど、ゴジラが「普通の動物」として描かれていることには違和感を感じたという。
今作をこれから見る人に向けて、「東日本大震災から3年余りしか経っていませんから、当時を思わせるシーンは今の日本人にはまだつらいと思います」とまずコメントし、その上で54年の「ゴジラ」が戦後の日本を立ち直らせてくれたように、今作を通じて「現実を生きる私たちが、(震災での出来事を)教訓として、あるいは糧として、自分の中で消化し、昇華させ、祈りながら生きていく」ことにつながってほしいと願っている。「ギャレス監督は、造形も含めて、この表現でいいかと何度も東宝に確認しながら作っていったそうです。音楽も、(54年版「ゴジラ」の作曲家)伊福部昭さんに敬意を表している。そういったことを思うと、矛盾しているかもしれませんが、やっぱりこれは日本の映画。日本で生まれたゴジラですよ。日米の垣根をギャレス監督は超えました」と、改めてエドワーズ監督をたたえた。
ただ、今作が会心の出来だっただけに、次に日本で「ゴジラ」が作られるときのことを懸念する。すでにハリウッドでは続編の製作も予定されている。佐野さんは、「次はバーサスものの、もっとエンターテインメント性の強い作品になるのではないか」と予想しつつ、そのうえで、「東宝さんが(日本版を)作るときは、原点に戻った、最低限大事なものを入れた作品を作ってお返しすれば」と期待を込める。
そんな佐野さんが、今作で最も印象に残っていることとして挙げたのは、ある場面での、カメラを横にすることで、立っているゴジラを横に見せるカット。「あの構図はすごい。相手の立場に立って物を見るということも含めて、深いものの見方を象徴するカットだと思う。あのカットが無音というのも、ものすごくリアルですよね。皮膚感覚に強く訴えかけてくる」と感服。さらに、映画に出てくる子供部屋に貼ってあった1枚の映画のポスターに着目し、「まずその映画を、東宝さんで作ってほしい。でももう誰かが作っているかもしれないな。ギャレス監督がプロットを持っているかもな……」とこれからのゴジラ映画に思いをはせていた。
<プロフィル>
1955年生まれ、島根県出身。「夢見るように眠りたい」(86年)で映画初主演。92年のテレビドラマ「ずっとあなたが好きだった」でブレークし、以降、多数のテレビドラマ、映画に出演。最近の主な映画出演作に「チーム・バチスタの栄光」「20世紀少年」(ともに08年)、「はやぶさ HAYABUSA」(11年)、「オー!ファーザー」(14年)、「偉大なる、しゅららぼん」(14年)などがある。大のゴジラファンで、「ゴジラ2000ミレニアム」(99年)以降、数々のゴジラ映画に出演している。
(インタビュー・文・撮影:りんたいこ)
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