サンシャイン/歌声が響く街:監督に聞く「愛は複雑なものと描かれていることに引かれた」

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 英国の大ヒットミュージカルを映画化した「サンシャイン/歌声が響く街」が1日に全国で公開された。スコットランドの国民的人気の双子デュオ、プロクレイマーズの名曲の数々を背景に、結婚25周年を迎えたロブとジーンの夫婦とその子供たちが遭遇する悲喜こもごもが描かれていく。メガホンをとったのは、今作が監督2作目で自身も俳優として活躍する英国出身のデクスター・フレッチャー監督。作品について話を聞いた。

ウナギノボリ

 −−監督をやろうと思った一番の決め手を教えてください。

 「家族」という要素があったことと、「愛」というものを見せていることが大きかった。愛というものはただハッピーなだけではない、複雑なものだということを描いているところに引かれたんだ。それらを表現する曲が盛り込まれている点も魅力だった。

 −−プロクレイマーズが歌っている楽曲ですね。日本ではあまりなじみがありませんが……。

 プロクレイマーズに関しては僕もそれほど詳しくなかった。でも、この映画が成功している要因の一つは、曲を知っていても知らなくても関係ないということ。曲を知らなくてもストーリーの中で楽しめるからね。

 −−あなたは俳優でもあり、これまで「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」(1998年)や「レイヤー・ケーキ」(2004年)といった作品に出演してきました。そのことが監督業にどのような効果をもたらしていると思いますか?

 演技というものが、いかに複雑なプロセスを経てなしえることかということは、僕自身分かっているつもりだ。演じるということは、自分を裸にしなければならないし、感情をあらわにしたり、今回のように歌ったりしなければいけないからね。見知らぬ人(共演者)を愛したり、振られたり、それは複雑な作業なんだ。だから、俳優に演じてもらうにあたって監督として念頭に置いていることは、全幅の信頼を彼らに置くということ。そうすることで最高の演技をしてもらえると僕は信じている。

 例えば今回、ロブ(ピータ・ミュランさん)とジーン(ジェーン・ホロックスさん)の息子デイビー(ジョージ・マッケイさん)が恋に落ちる相手をアントニア・トーマスさんが演じているけど、彼女はこれまでセクシーな役ばかりだった。でも今回、僕は彼女に看護師であり、自分の選択がきちんとできる大人の女性を演じてほしいと言ったんだ。彼女にとってそれは未知の領域だったようだけれど、信頼に応える素晴らしい演技をしてくれた。彼女とのそういった作業は、僕にとっても大いに勉強になったよ。

 −−あなた自身が出演することは考えなかったのですか?

 実は、ちょっとだけ出ているんだ。よく見てもらえれば気づくと思う。だけど本格的な役を演じるつもりはまったくなかった。もし、僕という監督が、俳優としての僕を演出したら、奔放過ぎる演技にあきれて、役から降ろすだろうね(笑い)。

 −−オープニングのデイビーと友人が故郷に戻って来る場面では、ジーン・ケリーさん主演の映画「錨を上げて」(1945年)を想起しましたし、終盤のエキストラ500人が登場するクライマックスシーンでは「ウエスト・サイド物語」(61年)を思い出しました。

 僕自身、オープニングは「錨を上げて」をイメージして演出していった。ジーン・ケリーが大好きなんだ。「雨に唄えば」(51年)も大好きで何度も見ているから、今回の映画を作る上で参考にした。クライマックスシーンの男性と女性のダンスの掛け合いは、振付師がヒントをくれ、彼が「ウエスト・サイド物語」っぽい振り付けを考えてくれたんだ。ほかにもあのシーンでは、「スラムドッグ$ミリオネア」(08年)の最後に流れるボリウッド的なダンスシーンも参考にしている。あの明るさや高揚感を、ポジティブかつエキサイティングなクライマックスシーンに持ち込んだんだ。ただ、気を付けたことはある。

 −−というと?

 自然で現実味が感じられるようにすることだ。例えば、「マンマ・ミーア!」(08年)は映画としてはとてもよくできているし、メリル(・ストリープさん)がお母さんだったらきっとすてきだと思うけれど、僕らが暮らす現実世界とはちょっと違うと思ったんだ。一方、今回のクライマックスシーンは、現実味を持たせるためにエジンバラの街頭で撮影をしたんだけれど、通行止めにできなかったから、犬を散歩させている人や近所の買い物客も参加して踊っている。そういうリアルさがこの映画にはあるんだよ。

 −−“素人”が撮影に混じっていたのですか?

 そう。リハーサルと撮影に3日ずつかけたんだけど、普通の人がふらふらっとやって来て急に参加したりとかね。監督としては、「一人だけ振りが違う!」と悲鳴を上げそうになったけれど(笑い)、逆に周囲からはそれがいいと言われたし、そういう人たちがいたことで、結果的に、よりリアルで楽しいシーンになったと思うよ。

 −−主演のピーター・ミュランさんは、ケン・ローチ監督の作品などで知られる名優です。また、ジーンの同僚を演じたジェイソン・フレミングさんは、あなたとは「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」で共演し、プライベートでも交流があるとか。2人の魅力はどのようなところにあると思いますか。

 ピーターの魅力は、地に足がしっかりとついていて、誠実で、演技をしているとは一切思わせないところ、そこに実在しているかのような存在感があるところだね。ジェイソンは、もっと評価されてもいい役者だと、僕は常々思っている。友達としてはすごく楽しくて、愛情深く、心が広い男なのに、悪役やモンスターばかりやらされているのを見ると、本当の彼はこうじゃないのになあといつも思うんだ。だから今回は、彼本来の姿が垣間見られるような役を演じてもらった。彼は最初、踊れないと言ったけれど、踊らないなら出さないと言って踊ってもらった(笑い)。彼が歌う場面は撮影の最初だったんだけれど、みんなが緊張している中、万全の準備とありったけの情熱で臨んでくれた。そのお陰で、ジェイソンがこれだけやったんだからとほかの俳優たちにプレッシャーをかけることができた。だけど彼、ダンサーとしては最低だよね(笑い)。

 −−今作はあなたにとって監督2作目ですが、次はどのような作品を作りたいと思っていますか。

 まだ秘密(笑い)。でも、今いくつか脚本を読んでいる。17世紀を舞台にしたチャールズ1世とオリバー・クロムウェル卿の話になるかもしれない。まだ分からないな。でも、素晴らしい作品にするからね。

 <プロフィル>

 1966年生まれ、英国出身。1976年の映画「ダウンタウン物語」、テレビドラマなど数多くの作品に出演。ほかの出演映画に「エレファントマン」(80年)、「レイチェル・ペーパー」(89年)、「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」(98年)、「レイヤー・ケーキ」(2004年)、「スターダスト」(07年)、「キック・アス」(10年)などがある。11年の監督デビュー作「ワイルド・ビル」(日本未公開)は、英アカデミー賞最優秀新人映画部門でノミネートされた。

 (インタビュー・文・撮影:りんたいこ)

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