友よ、さらばと言おう:カバイエ監督に聞く 仏アクション3部作完結編 2大俳優も応援

最新作「友よ、さらばと言おう」について語ったフレッド・カバイエ監督
1 / 5
最新作「友よ、さらばと言おう」について語ったフレッド・カバイエ監督

 ラッセル・クロウさん主演でハリウッドリメークされた「すべて彼女のために」(2008年)などの作品で知られるフレッド・カバイエ監督の最新作「友よ、さらばと言おう」が、1日に公開された。フランス映画には珍しく、現代的なアクションを作品に持ち込むなど娯楽性に富んだ作品を作り続けるカバイエ監督。今作は「すべて彼女のために」「この愛のために撃て」(10年)に続く3部作の締めくくりとして完成させた。「自分は常に、一観客の立場で、どういう映画を見たいかを念頭に置いて作っている」と話すカバイエ監督に、撮影の裏話や今後予定されているハリウッド進出への思いなどを聞いた。

ウナギノボリ

 ◇観客を楽しませるための映画作り

 映画は、飲酒運転で人身事故を起こしたことで人生を一変させた元刑事のシモン(バンサン・ランドンさん)と、そんなかつての相棒を気遣う刑事のフランク(ジル・ルルーシュさん)が主人公。ある日、シモンの息子が殺しの現場を目撃したことでマフィアに命を狙われるはめに。息子を守ろうとマフィアに戦いを挑むシモンと、彼に協力するフランク。彼らの“男のドラマ”が描かれていく。

 カバイエ監督の言葉を借りるなら、フランス映画は一般的に「作家性を重んじるため、見ている人に語り掛けるというより、監督が自らに語り掛ける作品の傾向が強い」という。その点、「自分を観客の立場に置きながら作品作りをしている」と話すカバイエ監督にとって、重要なのは「作品の中で描かれる不安や恐怖心、あるいは楽しみ、そういった感情がどのように観客に伝わるか」だという。例えば今回の映画で描かれる父と子の関係も、「観客にはそれぞれ自分の体験があるわけだから、すべてを語らずとも感情移入できる。今回の作品には逃げたり、追い掛けたり、ピストルを持って走ったりというシーンがたくさんあるが、それよりも私が比重を置くのは感情の部分。自分の大切な人を救うために走るというきちんとしたモチベーションがあるからこそ、観客は感情移入できる」と言い切る。

 今作は「すべて彼女のために」「この愛のために撃て」に続く3部作の完結編で、アクションシーンにも力を入れている。中でも効果的に使われているのが、クライマックスシーンで登場するフランスの高速列車TGVだ。「観客を楽しませるために映画を作っている以上、ストーリーが展開する舞台もまた、みんなが知っている場所であることが望ましい。TGVはフランス人の日常に根差した交通手段だが、列車はどこの国にもある。その点で、世界中の人たちも違和感なく想像できる場だ」と、今作で列車を選んだ理由を明かす。また、「列車というのは閉鎖された空間。だから観客の緊張感を高めやすい」ことを挙げ、それを利用して「悪人から逃げる母と子。2人を守ろうとする父親。そして、彼らを救うために行動する友人」の「三つの戦い」を描くことで、「観客を3倍不安にさせる効果を狙った」と話す。

 ◇生傷が絶えなかった撮影現場

 1作目の「すべて彼女のために」は、ランドンさん演じる主人公の感情に比重を置いた。2作目「この愛のために撃て」は、ジル・ルルーシュさん演じる主人公のアクションに比重を置いた。カバイエ監督が今作を「1作目のエモーショナルな部分と2作目のアクションの部分を合体させ、しかもアクションの部分をより強化していこうという意図」で作り、さらに「基本的にスタントは使わなかった」と明かす通り、今回のランドンさんとルルーシュさんは、「納得していた」とはいえ、かなりの肉体的アクションを自らこなすこととなった。

 そのため、生傷も絶えなかったという。カバイエ監督は「バンサンは肉離れを何回も起こしていたし、あばら骨にも打撲でひびが入った。殴り合いのシーンでは線路脇の石に頭をぶつけて、ものすごい音がしたんだ。大したことがなくて安心したけど、ケガはしょっちゅうだった。ジルも、(坂から)転げ落ちるシーンのときに太ももを10センチ以上も切ってしまった」と2人の俳優の文字通り“体当たり”の演技に思いをはせる。通常の撮影では、週末にはキャストやスタッフとパーティーをして“充電”するそうだが、「今回はそんなことは一切なく、オフにはみんな、ひたすら体を休めることに徹した」と過酷な撮影を振り返った。

 ◇仏2大俳優からの励ましに有頂天

 ところで、今作のランドンさんとルルーシュさんを見ていると、かつてのフランス映画を代表するジャンポール・ベルモンドさんとアラン・ドロンさんが思い浮かぶ。ベルモンドさんもドロンさんもカバイエ監督にとっては、「子供の頃テレビで見ていた憧れのヒーロー」で、「私もジルとバンサンを、ああいうカップルのように描けたらいいなと常々考えていた」と語る。今回の撮影では、その大物2人と対面する機会もあったという。「ジャンは、私のこれまでの映画を見てくれていて、今回の撮影現場にも来て励ましてくれた。映画のプロモーションのときにはアラン・ドロンにも会えたんだ」と今作がもたらした思わぬプレゼントに顔をほころばせる。

 さらに監督は「カウボーイが自分の妻を守るために悪党と戦うというベーシックなストーリーは、私の映画でも描かれていると思う」と西部劇からも影響を受けていると打ち明け、そこまで話すとスマートホンを取り出し、ある映像を見せてくれた。それは、撮影現場にやって来たときに撮ったという、白髪の、年をとりはしたが元気そうな、現在のベルモンドさんの動画。カバイエ監督はそれを再生しながら、「それはもう鳥肌が立つほど感激したよ」と心底うれしそうだった。

 ◇次のハリウッド作は女性が主人公?

 カバイエ監督の「すべて彼女のために」は、「スリーデイズ」(10年)というタイトルでポール・ハギス監督によって、また「この愛のために撃て」も韓国の監督によってリメークされている。外国でリメークされることについてカバイエ監督は、「観客のための映画作りをしていきたいと考える私としては、より多くの観客に見てもらえるという点でうれしいし、私自身が描く感情を重視したストーリーに普遍性があることを証明することにもなるからやはりうれしい」と素直に喜びを口にする。予定されている自身のハリウッド進出については、「英語で、米国人の俳優で撮ろうと考えていて、いま脚本を書いている段階。来年の半ばぐらいに撮影を始められればと思っている。場所は米国になるかカナダになるかまだ分からないけれど、両国とも大きいから、その分、俳優もたくさんいるだろうし、いい出会いがあると期待している。実は、今度は女性を主人公にしようと考えているんだ」と話し、内容については「作品が出来上がってからのお楽しみだよ(笑い)」と語るにとどめた。映画は1日から全国で順次公開中。

 <プロフィル>

 1967年生まれ、フランス出身。30歳の頃はファッションや広告業界で写真家として活躍していたが、映画監督への夢を捨てきれず、テレビや短編映画の監督や脚本の仕事を経て、パトリス・ルコント監督の「La Guerre des Miss」(2008年、日本未公開)の脚本をギョーム・ルマンさんと共同で手掛ける。08年、「すべて彼女のために」で監督デビュー。10年、「この愛のために撃て」を発表。ほかにオムニバス映画「プレイヤー」(12年)に監督の一人として参加している。

写真を見る全 5 枚

映画 最新記事