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思い出のマーニー:“二つの顔を持つ”この映画を作った意味 米林宏昌監督が語る

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「思い出のマーニー」について製作秘話や作品に込めた思いを語った米林宏昌監督

 全国で公開中のスタジオジブリの最新作「思い出のマーニー」(米林宏昌監督)。夏休みの映画の中で飛び抜けたヒットとはいえないまでも、観客動員数では公開から5位以内をキープし続けている。自分の殻に閉じこもっていた主人公の女の子、杏奈がマーニーとの出会いによる心境の変化を繊細に描いた一面と、もう一人の主人公・マーニーは何者なのかというサスペンス的な一面の“二つの顔”を持つこの作品を作った意味について、米林監督が熱く語った。

 ◇原作を読んで一度は断った

 前作「借りぐらしのアリエッティ」(2010年)でやり残したことがある−−。公開直後は達成感を感じたものの、製作期間の短さから「思い返してみると、やっぱりあそこはああしておけばよかったなと、そういうことを思うようになった」という米林監督。2作目は納得できるものを作りたい。そんな思いを鈴木敏夫プロデューサーに話したところ、渡されたのが「思い出のマーニー」の原作本だった。

 「やっぱり読んでみてすごく面白くて、感動する内容だった。でも映像化するのは難しい。というのも杏奈の一人語りで心の描写がつづられる話なので。その表現はものすごく繊細で面白いんですけれど、アニメーションにするには少し難しいだろうなと感じた」という。

 「僕の実力だとちょっと無理です」と一度は断ったものの、イメージイラストを描いてみて思いついたのは「杏奈を絵を描く女の子にしたらどうかなあ」ということだった。「そうすれば描いている姿勢とか、描いている絵そのものとか、物を見ているときの目線とか、そういったもので杏奈の心理を表現できるんじゃないかと」ひらめいた。また、「原作にはない月夜の下で2人でダンスをしているシーンであるとか、夜のピクニックを楽しんだりしているシーンのイメージイラストを何点か描いているうちに、続けてみたいなと、(自分に)できるんじゃないかと思うようになった」と語る。

 ◇「宮崎さんの話を聞く会」を乗り越え

 前作の「借りぐらしのアリエッティ」のときは宮崎駿監督がスタッフの一員として参加していた。「部屋の一角に宮崎さんが自分の席を設けて、常に監視されている状態での作業だったのでその分、宮崎さんの目を少し意識した作品にしてしまったなと、そういった反省もあったので、今回は純粋にお客さんが楽しめる作品を作るのにはどうしたらいいかとそういうことを第一に考えて作りました」という。

 ただ、「思い出のマーニー」は宮崎監督も大好きと公言している原作だけに、「宮崎さんが『風立ちぬ』(13年)の製作で忙しい最中に『こういうイメージはどうだろう』とたびたび(マーニーの)イメージ画を持って来られて。これは(双方にとって)まずいというふうに鈴木さんが判断して。宮崎さんとほかのスタッフも何人か交えて『宮崎さんの話を聞く会』のような機会を作りました」ということがあった。「そのときに宮崎さんが、舞台は瀬戸内だと。そこに和洋折衷の家があって、ここに船を泊めてという絵を描いたんです。その絵がすごく『崖の上のポニョ』(08年)に似ていて、なんか(米林監督がイメージしているのとは)違うんじゃないかなと思って。でもそれ以降、宮崎さんはノータッチなんです」と一通り収まると、米林監督は舞台をイメージしていた北海道の湿地と決め、ロケハンを始めた。

 ◇原作の二面性を残して物語を練った

 原作でも前半はマーニーと杏奈のやりとりで後半はサスペンスと二つの話になっている。米林監督は「両方入れたいと思いながら、これは難しい。また原作で前半にマーニーが出て来て、後半はまったく出てこないというのはすごく映画的じゃないなと思いました。そこは物語の構成を変えたりしましたが、マーニーが誰なのかという部分はやっぱり残さなきゃいけないなと思いました。僕はどっちかというと杏奈とマーニーの情感の方が好きなんですよ。そこは入念に描きましたが、物語にとってみたら後半の部分というのはものすごく重要で。だから両方入れなくちゃいけないという形で作っていきました」と二面性を残しながら構成を練った。

 ◇主人公と同世代に響く作品を心がけた

 今作は宮崎駿監督も「かぐや姫の物語」(13年)の高畑勲監督も関わらない初めてのジブリ作品として注目を浴びるのは必至だった。プレッシャーはなかったかと聞くと、「それに関するプレッシャーはなくて。すごく面白い原作だったので、この原作をどうすればお客さんに伝えられるだろうか、そういうプレッシャーはあったんですけれど。宮崎さんがこれを見てどう思うかとか、今後のジブリはどうあるべきかとか、そういうところは意識しないで作ろうと思いました」と力強く答えた。

 米林監督が今作の反応で一番気になるのは「杏奈とマーニーの同世代の人たちがどういうふうに思うか」という点だ。「ジブリの最近の『風立ちぬ』や『かぐや姫』など大人向けのジブリ作品が続いていたので、やっぱりジブリはもうちょっと子供のためのものをつくらなければいけないと。杏奈が抱えているような内側に見えない輪の外側にいるような疎外感とか心の中のもやもやとした感覚は多くの人が共感できるんじゃないかなと思います。それは子供だけにとどまらず大人でも内側と外側の問題のようなものを抱えているんじゃないかなと思い、たくさんの人が共感できるようなものになったらいいなと思ったんです」と主人公の同世代を中心に多くの人の心に響く作品を心がけた。

 ◇杏奈にとっての大きな一歩を描きたかった

 時代設定も現代に変えた。「この話は現代の問題として取り扱った方がいいんじゃないかと。今の時代、コミュニケーションツールというのはもっと発達していて、LINEとかSNSで朝でも夜でもいつでも友達とつながっていられる。学校の関係が家でもずっとつながっている。それはなんかものすごくつらいだろうなと思っていて。輪の内側、外側という気持ちは今の子の方がより強く感じるんじゃないかなと思っていて、若い人たちにも伝わるんじゃないかなという思いはあります」と理由を説明した。

 物語は、疎外感を感じている杏奈がマーニーやさまざまな人々と交流することによって変化していく部分を軸にしている。「人と話すときに目を合わすことができなかった女の子が目を合わせてしゃべれるようになる。小さな一歩なんですけど、杏奈にとってもすごく大きな一歩になる。その一歩を103分という時間を使って丹念に描いていくというところが、この映画の意味のあるところ、そこに作った意味があるんじゃないかと思う」と作品に込めた思いを熱く語った。

 <プロフィル>

 よねばやし・ひろまさ 1973年生まれ、石川県出身。金沢美術工芸大学商業デザイン専攻を中退。96年にスタジオジブリに入社し、「もののけ姫」(97年)、「ホーホケキョ となりの山田くん」(99年)では動画、「千と千尋の神隠し」(2001年)で初めて原画を担当。「借りぐらしのアリエッティ」(10年)で初監督。「コクリコ坂から」(11年)、「風立ちぬ」(13年)で原画担当をへて、「思い出のマーニー」が長編監督2作目となる。

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