小野憲史のゲーム時評:成長するゲームの世界大会 1億円のビッグマッチも

 超硬派のゲーム雑誌「ゲーム批評」の元編集長で、現在はゲーム開発と産業を支援するNPO法人「国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)」代表の小野憲史さんが、ゲーム業界の現在を語る「小野憲史のゲーム時評」。今回は、世界で成長するゲーム大会について語ります。

ウナギノボリ

 7月12~14日(現地時間)まで、米ラスベガスで世界最大級の格闘ゲーム大会「エヴォ」の2014年度大会が開催された。全世界から4000人近くのゲーマーが集まり、日本人選手も109人が参加。公式動画サイトの「トゥイッチ」では、約15万人が同時視聴するなどの盛り上がりを見せた。

 こうした大規模なゲーム大会の興隆を背景に誕生したのがプロゲーマーだ。世界各地の大会に出場して賞金を稼ぎ、ジョイスティックや液晶ディスプレーなどの周辺機器メーカーと契約して製品開発や宣伝などにも協力して生活の糧としている。「エヴォ」にもウメハラ選手など日本人プロゲーマーが参戦し、熱戦を繰り広げた。

 ただしゲーム大会の“種目”としては、格闘ゲームはマイナーな存在だ。一方、世界で一番人気のある「リーグ・オブ・レジェンド」は5人チームで戦うリアルタイム戦略シミュレーション(RTS)で、全世界で7000万人の競技人口を誇り、トップリーグの優勝賞金は100万ドル(約1億円)にのぼる。米政府も同ゲームの公式大会を昨年プロスポーツとして認定し、外国人の出場選手にプロアスリートビザの発行を始めたほどだ。

 格闘ゲームが世界でマイナー種目にとどまる理由には、ビジネスモデルの違いがあるだろう。ゲームの人気は競技人口で計れる。人気ゲームの大半はPC向けのF2P(基本プレー無料のアイテム課金)ゲームだ。一方で格闘ゲームの多くは業務用でリリースされ、次に家庭用に移植販売される。多くの国でゲームを遊ぶにはゲーム機とソフトが必要とハードルが高く、競技人口の点で不利となる。

 もっとも格闘ゲームは1対1で戦うため、素人目にもゲームの展開や勝ち負けが分かりやすい。ど派手な必殺技や一発逆転の要素は、動画配信に向くコンテンツだ。「エヴォ」も2004年のスタート時の参加者は約40人だっただけに、その急成長ぶりからは、将来性の高さがうかがえる。日本人プロゲーマーの活躍で、国内のゲームファンからの注目も集めつつある。

 「エヴォ」の公式種目にも「ストリートファイター4」など日本メーカーのゲームが並ぶ。格闘ゲームはシンプルな反面、奥が深く、バランス調整が非常に重要だ。そのため日本のゲーム作りの持ち味が発揮できる分野で、数少ない「お家芸」と言われるほど。世界のゲーマーにとって、日本は格闘ゲームの「聖地」とされてきた。

 これまで少なかった格闘ゲームのF2P化も進行中だ。今年度の「エヴォ」で正式種目に認定された「キラーインスティンクト」(マイクロソフト)はその一つで、次世代ゲーム機のXboxOne向けに無料配信されている。全参加者338人のうち日本人選手は1人で、入賞はメーカーお膝元のアメリカ勢が独占。日本のお家芸だった格闘ゲームにもついに風穴が開き始めた。

 F2Pで収益を上げるには、母数となるプレーヤーをできるだけ多く集めることが必要だ。プレーヤー数を増やす手段として、大規模ゲーム大会やネットでの動画配信などがあるが、いずれもプロゲーマーと相性が良い分野だ。デジタル流通時代に拡大した、新しいゲームの市場といえるだろう。一方で日本の企業はこうした流れに乗り遅れている。克服すべき課題は大きいが、業界全体で知恵を出し合う時期ではないだろうか。

 ◇プロフィル

 おの・けんじ 1971年生まれ。山口県出身。「ゲーム批評」編集長を経て2000年からフリーのゲームジャーナリスト。2008年に結婚し、妻と猫3匹を支える主夫に“ジョブチェンジ”した。2011年から国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表に就任、2012年に特定非営利活動(NPO)法人の認定を受け、本格的な活動に乗り出している。

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