落語家は日常どんな生活をしているのか。先日人間国宝に選ばれた落語家、柳家小三治さん(74)を3年間追い続けたドキュメンタリー映画「小三治」(2009年)が26日まで、ポレポレ東中野(東京都中野区)で再上映されている。
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落語家の映画だが、落語が一席上映されるわけではない。落語ファンは、寄席の楽屋での一コマや、落語会のドキュメントが楽しめるに違いない。「落語なんてよく知らない」「小三治って誰?」という人こそ、見てほしい映画だ。
「落語界の本格派」「本寸法の落語」などと褒めたたえられる小三治さんだが、「本寸法」など落語ファンにしか分からないだろう。実は、小三治さんは落語の本編に入る前の「まくら」が長く、それが抜群に面白いと評判だ。その一部は「ま・く・ら」 (講談社文庫)で書籍化されているほどだ。
そして、小三治さんは「遊びは真面目にやらないと遊びにならない」と、徹底的に趣味に没頭する。クラシック音楽しかり、バイクのツーリングしかり。そしてこのドキュメンタリー撮影中に熱中していたのは、歌を歌うこと。なんと東京・上野の鈴本演芸場の寄席に無理やりグランドピアノを運び入れて歌ってしまう。立川談志さんは兄弟子に当たるが、談志さんとは違った方向で、やはり「こだわり」の人なのだ。
短い時間のテレビドキュメンタリーのような「起承転結」は、この映画にはない。普段の小三治さんを淡々と追うのみ。それが、人間味たっぷりで面白い。現在病気療養中だが落語界の大ベテラン、入船亭扇橋(いりふねてい・せんきょう)さん(84)は兄弟弟子で若き日からの親友だが、扇橋さんと2人、温泉に入る映像がある。落語を知らない人には、ぱっと見ると、おじいさん2人の入浴シーンにすぎないかもしれない。ところが、そこに不思議な「間(ま)」があり、落語のように引き込まれる。もちろん、本人たちは映画だから面白くしようとしているわけではない。落語家の日常が面白いのだ。
再上映で関係者は「祝・人間国宝!」と宣伝したいところだが、それは落語の世界では野暮(やぼ)というもの。小三治さんからは「(宣伝で人間国宝は)触れないで」と伝えられたという。これこそ、落語で最も大事な「粋」である。上方の人間国宝、桂米朝さん(88)、東京落語界の第一人者、立川志の輔さん(60)らが登場するのも見どころの一つ。上映は各日午前10時20分からの1回。問い合わせはポレポレ東中野(電話03・3371・0088)まで。(油井雅和/毎日新聞)