小新井涼のアニメ考:“アニメ週100本”の経緯と結果

“アニメ週100本”の経緯と結果を語る“オタレント”の小新井涼さん
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“アニメ週100本”の経緯と結果を語る“オタレント”の小新井涼さん

 週に約100本(再放送含む)のアニメを視聴し、アニメを使った町おこしのアドバイザーなども務める“オタレント”の小新井涼さんが、アニメにまつわるさまざまな事柄についてつづります。第3回は、アニメを週100本見ることになったきっかけや学んだことについて語ります。

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 そもそも、何の企画でも課題でもないのに、どうして「放送されているアニメを全部見る」という挑戦をしようと思ったのかというと、それまでオタクと自負してきた中で体験してきたさまざまなことがきっかけでした。

 オーディションで「アニメが大好きです!」と言って「どれくらい?」と返されると、「グッズを買ったり二次創作してみたり……?」という普通の返答しかできず好きな気持ちを程度で表すことができなかったり、アニメ好きな人と出会った時に見ているアニメがかぶっておらず、せっかくの機会に濃い話が全くできなくて歯がゆい思いをしたことなどなど……。

 そんな事態が続くことで、好みを基準にせまい範囲の作品しか見ていない自分は、口で言うほど「アニメ好き」じゃないのではと思うようになっていったのです。

 物心ついてからずっと抱いてきたアイデンティティーに疑問が生じ始めていた矢先、自分の中のアニオタ魂にもう一度火をつけてくれたのが「本当にアニメが大好きと言い張るんだったら、全部のアニメを見て、どの作品に関しても語れるぐらいじゃないと」というマネジャーさんの一声でした。

 今のままではアニメ好きを公言するのはおこがましいかもしれません。けれど、「好きという気持ちは誰にも負けない」という熱意にだけは自信があったので、とにかく挑戦してみようということになったのです。挑発的な言葉が“ドM心”に火をつけたというのもありましたが。

 「な~んて言っても、毎週全部なんて、多くても30~40本程度でしょ」とたかをくくっていた私ですが、アニメを実際にリストアップして呆然(ぼうぜん)としました。

 1、2クールごとに編成される深夜アニメをはじめ、「サザエさん」や「ドラえもん」などの長寿番組、1年クールで放送される朝の子供向けアニメや夕方のアニメ、毎日放送される「おじゃる丸」など、作品をすべて合計するとその数はなんと毎週100本前後になるということがわかったのです。それが判明した時点で、まず今までのアニメに対する認識の甘さを改めて思い知ることになりました。正直なめてたよ、ごめんなさい。

 こりゃもはや物理的に全視聴は無理なんじゃないかとさっそく挫折しそうになる中、もう一度私を燃え上がらせたのはマネジャーさんの「どんなに好きでもさすがにこの量は無理でしょう」というまたしても挑発的な一言でした。

 「いやいや本当に好きならこんくらいできますし!」と自らハードルを高くして首を締めるというドM心を発揮してしまったのです。かくして自分のアニメへの愛を確かめるべく、毎週100本近いアニメの視聴が始まりました。

 そもそも視聴環境としましては、torne(トルネ)とnasne(ナスネ)を併用し、録画したものをPS3経由でPSVitaに移してから、移動中や入浴中をはじめ、仕事の待ち時間や休憩時間など空いた時間にひたすら視聴するという形をとっています。

 最初は見た作品の感想をtwitterに投稿し、それらをまとめて週末にブログに掲載という形をとっていたのですが、たまった感想をtwitterで連投したところ周囲から「いやなことでもあったの?」と変な“発作”の心配をされてブログ掲載だけという現在のパターンに落ち着きました。

 苦労話や失敗談なんかも結構あります。一番悩んだのはやはり時間の使い方です。慣れないうちは時間の調整がうまくできずに生活時間のほとんどをアニメの視聴にとられ、仕事以外の外出がなくなり、元々の堕落人間っぷりに更に磨きがかかりました。近隣からの「あの子昼間からいつも家にいるわよね」という視線はいまだに痛い☆

 お仕事中であっても、舞台のけいこ期間中などはアニメ視聴に費やす時間がさらになくなってしまうので、公演本番が終わった直後から毎日徹夜で消化をしたり、休憩時間などに一人でこっそり「便所飯」ならぬ「楽屋アニメ」を部屋のすみっこで行ったりもしています。

 あまりにたくさんの作品を見ていることもあって、登場人物や用語を覚えきれず、逆に「にわか」の認定を受けることもありました。文化放送さんのインターネットラジオ「超!A&G+」で「本気!アニラブ」のパーソナリティーをさせていただいていたころ、全視聴を生かすはずのアニメクイズコーナーであろうことか失敗を連発。自らの戒めとアニメへの愛の足りなさに滝行やバンジージャンプを決行するも結果は変わらず、最終的についた番組でのあだ名には「小新井☆にわか☆涼」なんていうものもありました。(長島☆自演乙☆雄一郎選手ごめんなさい)

 いたってどうでもよい弊害としましては、こんな生活をしているものだから、元々皆無だった年ごろの娘ならではの浮いた話が完全に消失したというものもあります。

 べ、別にもてないのを半分以上アニメ視聴のせいにして言い訳しているわけではないですよ! ないのですが、最近は正月などで親戚が会すると、祖母や母からお見合いをすすめられるのは、なんだか切ないのと心苦しさでやりきれなくなりますね……。

 しかしもちろん悪いことばかりではなく、全視聴を始めてみてよかったと思うこともたくさんあります。視聴をしている中で「より好みしないと、趣味と合わず毎週見るのが苦になる作品もあるのでは?」とよく聞かれまして、確かに最初は自分でも心配していたんですが、驚くことに全くなかったのです。

 それどころか、視聴前は絶対好みじゃないよと思い込んでいた作品に思いっきりハマってしまうなんてことさえありました。気になっていても、全視聴を始めなければちゃんと見ることがなかったであろう作品にも出会い「これを知らずに死ななくてよかった!」と感動したこともたくさんあります。最近ではいまだに大好きな「プリティーリズム」シリーズなどがそうですね。

 それから、きっと全視聴を始める前の作品にも見たらハマる素晴らしいものがたくさんあるはず!と、過去の作品にも自然と興味と食指が動くようになりました。

 全視聴を始めて、自分のアニメに対する未熟さを痛感したり、追求すればするほど増えていく知らない作品たちにゴールのないマラソンをしている気分になることもあります。しかし、それもこの全視聴を始めなければ、知ることもなかったこと。「無知を知る」と考えると、逆に喜ばしいことだと思うのです。

 これからもずっと、新しい作品から以前の作品まで、生きている間に見られるだけの作品を見ていきたいと思います。そして今よりさらにアニメへの愛と知識を深めていって、ゆくゆくは人里離れて暮らす「アニメ仙人」なんて呼ばれちゃうような、ちょっと超越しちゃったような存在になれたらなあというのが最終的な私の目標なのです!

◇プロフィル

 こあらい・りょう=埼玉県生まれ、明治大学情報コミュニケーション学部卒。アニメ好きのオタクなタレント「オタレント」として活動し、ニコニコ生放送「岩崎夏海のハックルテレビ」やユーストリーム「あにみー」などに出演する傍ら、毎週約100本(再放送含む)のアニメを見て、全番組の感想をブログに掲載する活動を約2年前から継続。「埼玉県アニメの聖地化プロジェクト会議」のアドバイザーなども務めており、社会学の観点からアニメについて考察、研究している。

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