ボルテージ:恋愛ドラマアプリ米国進出の狙いとは

ボルテージの津谷祐司代表取締役会長(右)と東奈々子取締役副会長
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ボルテージの津谷祐司代表取締役会長(右)と東奈々子取締役副会長

 “恋愛ドラマ”をテーマにしたスマートフォン向けアプリを開発・販売しているボルテージ。ドラマやストーリー性に重点を置いた作りが国内で人気を得ており、数年前から進めてきた米国市場進出も10月スタートの“米国オリジナル”恋愛ドラマアプリで本格化させる。ボルテージの津谷祐司会長に米国へ進出した理由や好調の背景、アプリ開発のエピソードなどを聞いた。

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 ◇ゼロから米国に子会社を設立

 同社がサンフランシスコに子会社に設立したのは2年前。その理由について津谷会長は「米国でもスマートフォン市場が急激に大きくなっているので、何かできるんじゃないかと思って」と語る。子会社設立前にまず、日本のアニメ絵がベースとなっているゲームの英語版を作ったところ反応が良かったことが背中を押した。「これは面白いと思ったので、米国本土でやってみよう、と。会社はまったくのゼロから立ち上げました。現地の社員は、日本のアニメに関心のある人を採用しました」という。

 当初、米国で展開したのは日本で作ったゲームの翻訳版だったが、日本のゲームとフォーマットこそ同じだが、ストーリー、デザインともに現地で作った“北米版”だ。「北米仕様のゲームは米国人が作ってるんです。北米仕様は、日本人には作れないから。ゲームのフォーマットや生産プロセスは一緒ですが、ストーリーを作るベースが違います。米国人が好むゲームにしようと思ったら、全部米国人が作った方が早いんですね。米国人が使うものは米国人が作らないとピンとこない。絵や内容だけでなく、ユーザーインターフェースや価格、売り方も日本とは違います」と説明する。

 ◇“米国オリジナル”の恋愛ドラマアプリをスタート

 さらに、10月には日本のゲームのフォーマットを使うアプリとは別に、オリジナルの恋愛ドラマアプリ「Queen'S Gambit」もスタートさせる。主人公は女スパイで、ターゲット企業のCEO(最高経営責任者)と恋に落ちる、という内容だ。特徴は恋愛ドラマアプリだが、恋愛要素は薄く、アクションなどが盛り込まれている点だという。「主人公は日本では考えられないようなすごくアクティブな女性スパイです。そして、恋愛対象には女性も入っているのが日本と異なるところ。レズビアンの要素が入ってるんですね。実はこれは米国では重要で、ノーマルな恋愛ばかり並べているとクレームがつくんです」と日米の違いを語る。「米国のドラマの大きなトレンドはアクション、スリル、サスペンス。こうした要素がゲームにも反映されています」という。

 ゲームの“地産地消”を強く意識しているという。「日本仕様のものを現地に持って行くと、アニメがすごく好きな人は関心を持つけど、パイが小さい。メジャーじゃないんです」。現在は、「マーケットがまだないので(北米仕様のゲームは)苦戦してる」というが、「潜在規模は大きいと思っています」と意欲的だ。

 ◇“サスペンスもの”は200万ダウンロードに

 恋愛ドラマアプリと並行して、2年前からは「サスペンス」のゲームアプリも始めた。5月スタートの「新 生存率0%! 地下鉄からの脱出」は、同じ電車に乗り合わせた主人公たちが、地下に閉じ込められ、正体不明の襲撃者と対峙(たいじ)する……というストーリー。すでに200万ダウンロードを達成するなど好調だ。サスペンスものに着手した理由について、津谷会長は「ストーリーベースで考えると、サスペンスが一番作りやすいんです。それをシリーズ化していこうと。独自の進化をしていくと思います」と語る。ターゲットは女性中心だった恋愛ドラマアプリとは違い、男女半々。24日には第2弾「ゴシップライター~消えたアイドルを救え~」もリリースしている。

 サスペンスものアプリが好調な理由について津谷会長は「受け入れられたのは、ストーリーが複雑で面白い、ということが大きいと思います。一キャラにつき30通りのストーリーで、全部で90通りが楽しめます。また、シーンによってはスマホが震えたりもします。体感型、というわけですね」と分析する。「サスペンスも、翻訳版か北米仕様かどっちかでやってみようかな、と思っています」と海外展開も視野に入れており、「サスペンスものと海外の恋愛ドラマアプリ、両方ともこの半年ぐらいでだんだん分かってきたので、これから数字につながっていくかな、と思っています」と前を見据える。

 ◇家庭用ゲームは「意識していない」

 順調に拡大路線を続けるボルテージ。自社の強みについて津谷会長は「ドラマ、ストーリー性にこだわっているところ」とみている。ただ、海外ではストーリー性があるゲームに日本ほどの理解はなく、新しいマーケットを開拓していくことになるといい、「ストーリー(もの)にもっと慣れてもらいたいな、と。でも、日本でもはじめは慣れていなかったですからね」と笑う。

 今、スマホゲームが全盛で、ゲーム業界では家庭用ゲーム機とのし烈な勢力争いが注目されているが、意外にも津谷会長は「僕らは意識したことありません」と語る。一般のライトなユーザーに普及したスマホゲームと家庭用ゲーム機はもともとのコンセプトが異なる、というわけだ。津谷さんは「コンソールゲーム業界はどんどんコアになっています。マシンの性能が上がれば上がるほど、ゲームそのものは複雑になっている」といい、「スマホのいいところは“カジュアル”なこと。あまり複雑にはしないでほしいな、と思います。マニアックになって市場が小さくなる、というのが一番怖いですね」と気を引き締める。

 海外展開、新ジャンルと挑戦は続くが、津谷会長は「今は楽しんでやってますね。チャレンジしてます」とポジティブに語った。

 <プロフィル>

 つたに・ゆうじ。1963年生まれ。福井県出身。東京大学工学部卒業後、博報堂入社。空間プロデューサーとして活躍した後、留学しUCLA映画学部大学院の監督コースで学ぶ。帰国後、博報堂に復職し、99年ボルテージ設立。主力事業の「恋人ゲーム」シリーズを育てる傍ら、映画「Wanna be FREE! 東京ガール」(2006年)の監督なども務める。13年から現職。

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