今年2月、突然この世を去った名優フィリップ・シーモア・ホフマンさんの遺作となった「誰よりも狙われた男」(アントン・コービン監督)が、17日から公開される。原作はスパイ小説の大家、ジョン・ル・カレさんが手掛けた同名小説。行き先の見えない船のような9・11以降の対テロ諜報戦が、ドイツを舞台に繰り広げられる。ホフマンさん演じる孤高の中年男を主人公に、複雑な人間関係と細やかな心理描写でストーリーが進んでいく。
ウナギノボリ
10年前の朝ドラ「花子とアン」 当時の吉高由里子インタビュー
ドイツ・ハンブルクが舞台。秘密のテロ対策チームのリーダー、ギュンター・バッハマン(ホフマンさん)は、密入国したチェチェン出身の青年イッサ・カルポフ(グレゴリー・ドブリギンさん)に目をつける。一方、CIAもイッサを逮捕しようと追っている。イッサは人権団体の弁護士アナベル・リヒター(レイチェル・マクアダムスさん)を介して、父親が遺した口座がある銀行の経営者トミー・ブルー(ウィレム・デフォーさん)を捜していた。バッハマンはイッサを泳がせて、さらにイッサとアナベルの人間関係も利用し、ある大物を狙おうとしていた……という展開。
信念を持ち、コツコツと仕事をする男バッハマン。彼の仕事ぶりをじっと凝視する感覚で映画は進んでいく。張り込む、盗聴する、尾行する、情報源と接触する……。バッハマン率いるスパイチームが、どう駒(人)を動かしていくのか。この諜報戦は全く結末が読めない。感情を抑えるかのような青みがかった映像に、重低音がずっと鳴り響いているような緊張感がずっと続く。人間関係は少々複雑だ。大物を釣るために泳がされた密入国者に、女性弁護士、銀行家がからんで、さらにCIAも躍起になって情報を手に入れようとしている。バッハマンは過去に何か遺恨があったようで、CIAとは信頼し合えない。酒とタバコを友とし、情報源としての人間関係しか持たない孤独と悲哀が、ホフマンさんの声色や表情から読み取れる。この味わい深い芝居にずっと酔っていたい気分だ。それだけに、ホフマンさんをもうスクリーンで見ることができないと思うと残念でたまらない。川沿いの夜景、近代建築、古びたアパート……港湾都市ハンブルクの風景にも心を奪われる。
「コントロール」(2007年)「ラスト・ターゲット」(10年)のアントン・コービン監督作。17日からTOHOシネマズ シャンテ(東京都千代田区)ほかで公開。(キョーコ/フリーライター)
<プロフィル>
キョーコ=出版社・新聞社勤務後、映画紹介や人物インタビューを中心にライターとして活動中。趣味は散歩と街猫をなでること。昔の刑事ドラマ「太陽にほえろ!」で、若手刑事よりも山さん(露口茂さん)が好きだった渋めの子ども時代を過ごした筆者にとって、今作はストライクでした!
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